表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォールト・ブレイブ  作者: 加藤けるる
一章 塔の村と地下王城
5/5

アーガスは旅に出る

【古代政3993年・4の上弦】


 太陽すら顔を出していない図書館。アーガスは早朝に起きていた。

 ある程度の荷物をまとめた後、剣身がしまわれている『キングアーミー・ソード』を手に取る。


「行くのか、アーガス」


 振り返ると、父親のゲイルがいた。


「もう起きてたのかよ」

「あんな襲撃があったばかりで、眠れるわけがないだろう……どうやら尚更、意志が固まったようだな」


 父親のゲイルは目の前にゆっくりと近づき、彼の両肩に手を乗せる。


「これからどうするつもりかは知らないが……頼むから、これ以上、己の身を犠牲にするようなことはするな」

「……悪い。約束はできない」


 まだアーガスの中で、憎悪の感情がうようよと彷徨っている。


「俺は、お前の空想論を信じていない。レオナが、こんな世界で無事だとは思えないからだ。だが……もしいるとするのなら……ここに連れ戻してこい。俺が言えるのはそれだけだ」


 アーガスを見つめる目は、不安そうに泳いでいる。

 しかしそれは同時に、父親の目でもあった。


「……ああ。わかった! 図書館の常連さん、特にリアやその父親にも宜しく伝えておくれ」


 普段通りの陽気な笑みを浮かべ、アーガスは、持っていたグランドアーミー・ソードを背中にかけた。

 外に待たせていた茶色の馬に跨りながら、青年はそれを宥める。これは、かつてレオナと共に跨った馬だ。


「父さん、達者でなっ!」

「……分かっている」


 村の門の前で、ゲイルは息子を見送りに来た。溜め息を吐く様子は、本人よりも不安そうである。


「……アーガス。お前も、達者でな」

「おう!」


 それを聞いた直後、彼は馬のロープを掴む。

「ハッ!!」と声を上げ、ロープで拍車を掛ける。勢い良く馬は前進し、大きな門を潜っていった。

 門が閉まる時まで、こちらの様子を眺める父親が見えた。


「――王家を滅ぼすのは、見捨てた理由を聞き出してからだ」


 復讐は、終わっていない。



 アーガスの跨る馬は、グリム森林の森の中へと向かい、カステリの中心に佇む、地下王城『アインスワルグ』を目的地とした。


 ――パカリッ、パカリッ。


 茶色の毛並みをした馬は、旅人アーガスを乗せ、森の中を風のように進む。

 木々を通り過ぎる度、葉はザザーッと音を立てて飛び散った。



 やがてその馬は、森から脱出する。その先に広がっていたのは……。

 美しく、太陽の光で輝く、広大な草地。その向こう側には、歴史高く佇む、白銀に輝く特殊な煉瓦で建てられた城。

 カステリの中心部、地下王城「アインスワルグ」だ。


 青年はその光景に息を呑む。

 だが一方で、こちらに見向きもしなかったという屈辱を、忘れてはならないと胸に誓った。

 彼を乗せた馬は、やがて王城の門の前へとやってくる。


「名を名乗れ!」


 真上から、よく響く門番の声がした。

 馬に跨ったまま見上げると、城壁の上に立っていた門番兵が、胸壁から顔を出して、こちらを見下ろしている。とても高い城壁だ。


「アーガス……アーガス・レオ・グランカイン!」

「この王城に、何の用があって来た!」


 緊張して発した言葉も、冷たくあしらわれた。あまり、旅人を歓迎する気はなさそうだ。


「国王に、オルディニス城への通行許可を貰いたいのですが!」

「オルディニスだと? 諦めろ!!」


 門番はそれ以降、話を聞く気を見せなくなり、姿を隠して去っていく。

 アーガスは城壁を見上げたまま、溜息をついた。


「面倒臭いな……」


 諦めて手綱を引き、馬を引き返そうとさせるアーガス。やりようならいくらでもあるが、今はその時ではない。

 すると、さっきの門番とは別の声が、城壁の上から聞こえてきた。


「アーガス殿!」


 凛々しく響くような声に驚き、アーガスは壁を見上げる。

 そこには厳つい表情の騎士が、胸壁から顔を出していた。


「お待ちください! 今、門を開けます!」


 表情とは裏腹に、親切そうな騎士。しばらくすると彼の言う通り、すぐに門が開いた。


 門の中へ入ると、青年は息を呑む。

 本当に地下なのかと、目を疑うほど、文明的な光景が広がっていたのだ。


 大きな山の地下に、上から木漏れ日の如く光が刺す、この遥かに広々とした洞窟。石レンガの建物がいくつも建っていて、あちこちの明るい松明が、薄暗い地下を強く照らしている。


 すると横から、さっきの厳つい表情の騎士が現れた。


「アーガス殿。塔の村でのご活躍はよく聞いております。私はオルトス騎士団の団長を務める、ビルゲイン・アディユスと申します」


 ビルゲインと名乗る彼は、鎧の胸に手を当ててお辞儀した。

 その青い鎧を見て、アーガスはふと呟く。


「……青の騎士団か」

「はっ。ええ、左様です。我々をご存知だとは。恐縮です」


 彼は目を閉じ、さらにお辞儀を下げる。

 青の騎士団とは、王家直属の騎士団であり、全ての騎士の憧れである。ほとんどの所属騎士は、立ち振る舞いと剣技を、幼少期から教わっているという。


 中でも団長格となれば、相当の手練れ。彼らが村を見捨てるものとは、あまりに想像もつかなかった。


「団長さんは、どうして俺なんかに律儀なんだ?」

「無論、サウスの件でのご活躍を耳にしておりましたから」


 ――サウスの件。

 それを聞いたアーガスは顔を俯かせる。表情には、仄暗さが宿っていた。


「ところで、先程は申し訳ありませんでした。門番のケネディは…少々野蛮な所がございまして」

「え?いやいや!別にいいんだ。あ、それより、王様と謁見したいんだけど……」

「陛下との謁見をご希望ですか。しかし、なぜでしょう?」


アーガスはため息をついた。


「さっさと話がしたいんだ。悪いけど、お願いできるか」


 ビルゲインは困惑気味だったが、「ええ、分かりました」と言って、よく目立つ奥の方の建物へと案内した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ