第五章 七節 懐妊②
「旦那様の?……お嬢様、笑えない冗談はやめてください」
カールはクスクスと笑う。モルガンを馬鹿にするように。
「旦那様はお亡くなりになられた。書斎を整理しましたが、遺書のようなものもなかった。それなのに旦那様からの命令だなんて……辻褄があいませんよ?」
周囲の使用人達は各々話始める。話声は大きく、騒がしくなっていく。モルガンは呆れつつ手を叩き、使用人達を黙らせた後、カールに話しかけ始めた。
「カール、あなたはただのお父様の執事。私にそのような言葉遣いをできるような偉い身分ではないはずです。実はお父様の遺書は私が持っています。そこにはこう記されています」
モルガンは胸ポケットから手紙を取り出す。封にはゴルロイスの押印があり、カールは少し驚いていた。
モルガンはカールの姿などおかまいなしに遺書を読み上げる。
「訳あってこの世を去ることにした。後は長女のモルガンに任せることにする」
「そんな馬鹿な!」
カールはモルガンに近づき遺書を取り上げた。取り上げた遺書の筆跡を確認したカールは驚いた。それは主人であるゴルロイスの筆跡そのものであったからだ。
「そんな…そんなはずは……」
カールは膝から崩れ落ちる。ゴルロイス亡き後、残ったのはモルゴスのみ。モルゴスは経営の知識はない、だから自分が代理としてこのコーンウォールを統治できるのではないかと勝手な妄想を膨らましていた。
しかし、遺書がある以上自分の妄想は現実にはならない。
ましてやモルガンを打ち負かす策も力もない。
カールは項垂れるしかなかった。
そんなカールの邪な考えを察知していたモルガンはカールを戦闘不能にするため準備していた。
遺書などは存在しない。モルガンが魔法で作り上げたのだ。そんなことも見抜けないこの男にコーンウォールは任せられないと再認識したのであった。
「新しい領主は私が親交している名のある貴族が立候補してくださったのでその方にお任せいたします。ウーサー王には近々報告予定です。さぁ、皆さん。先ほどの私の問いに答えていただけますか?」
使用人達はモルガンの提案に対する答えを出した。
カールを除く全使用人は、新しい領主に仕えることを選んだ。これもまたモルガンの想定どおりであった。
「では、新しい領主がくるまでの過ごし方は各自の部屋に書類を置きましたので確認しておくように。私は領主がくるまではここにいます。お世話は不用です」
モルガンはカールを横切り、食堂をでようとしたが最後にカールに一言だけ投げかけるためにとまった。
「カール……あなたは優秀だったのにいつから変わってしまったのかしらね?私に楯突かなければ、あなたの地位は今後も揺るがなかったのに……馬鹿ね」
カールは何も言い返せず、食堂に膝をついたままの状態でいたままであった。




