不器用な二人
「...元帥にお目通りを願いたい」
レオンは帝国軍特務魔術隊の一室に来ていた。部屋に通されてしばらく経ったころ、その男はやって来た。
「...何用だ。つまらん惚気話なら聞かんぞ」
「...惚気たいところですが、アイリスのことでご相談が」
レオンは真剣な面持ちでアイリスの魔力について話した。目を瞑って聞いていた彼女の父は、無言を貫く。
「...十年前、貴方が彼女を修道院に送り帝都から遠ざけたのは、このためだったのですか」
「......あれの魔力は、おそらくこの帝国一だろう。その強大すぎる力は、周りだけでなく己を苦しめることになる。軍にいた私には、どうすることもできなかった。娘を国のために差し出すなど......」
「...っ...それでも...アイリスが、貴方に拒絶された十年間...どれほど一人きりで苦しんできたか......!」
二人の間に沈黙が流れた。レオンはやるせない表情でレイモンド伯を見た。彼は立ち上がり、窓辺に向かった。その立ち姿は、帝国一と言われた軍人ではなく、一人の父親そのものだった。
「......あの子が生まれてからずっと、私は恐ろしかった......とてつもない魔力、大人をも凌駕する魔法技術......あの子が禁術を使ったとき、このままでは隠せないと思った。あのまま手元に置いていたら、いつか軍に...国に娘を奪われ使い捨ての駒にされると...」
「.........アイリスは必ず私が守ってみせます」
静かな、しかし確固たる決意を持った目をしたレオンは、一礼して部屋を去った。
廊下に出ると、元帥補佐をしているイーサンが立っていた。
「...レオン、父上は......」
「わかっています。娘のためであったと......」
「そうだ...父上も、兄である俺もセドリックも......みんな同罪だ。妹を守るため...いや、彼女の力を恐れて......責められるべきは父上だけではない」
「......俺は、俺のやり方で彼女を守ってみせる」
レオンは足早に立ち去った。
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「レオン!おかえりなさい、軍への報告は大丈夫だった?」
公爵邸に戻ったレオンを出迎えたアイリスは、彼の上着を預かった。
「ああ、問題ない。マクシムもあと一週間ほどで退院できるそうだ。それより......」
レオンはアイリスの顔に手を当てた。
「君は大丈夫か?...魔法を使ったのは久々だろう。身体は?もう少し休んだほうが......」
「...ふふっ...私はもう大丈夫。レオンの方がすごかったわ!あんな強力な魔獣を剣で一振りなんて......レオンの隊の皆さんも...あんな風に魔法を使えたら.......」
そんなことを言う彼女に、レオンはレイモンド伯の件を伝えるべきか迷っていた。
彼女の家族への畏怖を知っているからこそ、自身の力のせいだということがわかったとき、彼女はどう思うだろうかーーー。
「......レオン?また難しい顔してる!最近ずっと...」
「...あ、ああ......すまない...」
アイリスは不安を感じていた。レオンが北の果てまで迎えにきてくれて、そのうえ妻としてくれたことに本当に感謝していた。しかし、どうして自分のためにここまでしてくれるのか、彼のことが全くわからなくなっていた。
ーーー私のことを気遣って公爵夫人としての仕事はしなくていいって言ってくれてるけど、もしかしたら私じゃ力不足なのかも...貴族の令嬢として生まれたとはいえ、家を追い出されてろくに教育も受けていない私では、彼の妻に相応しくない。
「......レオン...もし、やっぱり結婚を無かったことにしたかったら......言ってね」
明るく言ったつもりが、声が掠れてしまう。
「...な...なにを言ってるんだ!そんなこと思うわけないだろ!」
ものすごい形相で彼が私を見た。乱雑に掴まれた肩が少し痛い。初めて彼の"怒り"を見た私は、びっくりして、ぐちゃぐちゃの感情も相まって涙が出た。
「...すまない...大声を出して......」
すぐさま彼の優しい腕に包まれる。限りなく優しいけれど強く抱きしめられた腕は、まるで「離さない」と言っているようだった。
「...なんでそんなこと言うんだ...?俺がどれだけ...君を愛しているか......君は知らなすぎる」
「......だって...私...レオンの奥さんらしいこと何もできてない......夜だって、遅くまで公爵家のお仕事をして......」
しょんぼりするアイリスに、レオンは赤面した。
「そっ...れは......!」
「........?」
「......君も突然のことにまだ混乱しているだろうと...怖がらせては...いけないと思って......」
「......へ...?......あ...ちがくて......その...貴方の妻として...公爵家のお仕事を手伝いたいって意味で......で、でも...私、レオンに触れられるの...いやじゃないよ......」
アイリスが顔を赤らめながら恥ずかしそうに言うと、レオンは妻のあまりの破壊力に思考力が停止した。
「........っ...それって...つまり........」
顔を隠すレオンの手を強引に退けると、アイリスは彼にキスをした。
「私も、貴方が好き.........」
レオンはそのまま愛しい妻を抱きかかえると、そのまま彼の寝室に直行するのだった。




