父と娘
目が覚めると見慣れない天井で、思わず飛び起きた私は横で眠るレオンに更に驚いた。
「っ〜〜〜!!!」
「......ん"ん...おはよう、アイリス」
そうだった...私、昨晩ヴィルベール公爵家に......というか!なんでレオンが横に!?確かここに着いてから......?!?!
混乱してパクパクと口を動かす私を、レオンは起き上がって抱きしめた。
「......あ"ー...しあわせだ........」
まだ寝ぼけているのか、目がとろんとしている。そんな彼にドキドキしすぎて固まってしまったが、気を取り直して身支度をした。
朝食を共にしながら、レオンは私に色々と教えてくれた。少し前、彼はこのヴィルベール公爵家を正式に継いで当主となったこと、私が修道院にいる間にレイモンド家のお兄様たちは帝国軍特務魔術隊に入隊し、そして、お父様は相変わらず特務魔術隊の元帥として仕事に明け暮れていることーーー。
「君の兄上のイーサンは、今はレイモンド元帥の補佐として働いている。セドリックは軍の研究機関で研究員をしていて、今は西にいる」
「...そう...なの......」
幼い頃、私とは違って魔法の才があったお兄様たちはすぐにお父様に厳しい修行をつけられていた。出来の悪い妹に呆れたお兄様たちの顔がいまだに思い出されては、胸を締め付ける。そしてあの日、私を打ったお父様の顔ーーー。十年前、私の家族と呼べる人はいなくなったのだ。
レオンは私の表情を察してか、手を握ってくれた。
「......君の心が落ち着くまで、こうしていよう」
「ありがとう...でも、私は大丈夫。それにしても、あのお父様が上官なんて......レオンは大丈夫なの?」
「君のお父上...レイモンド閣下は、厳しい方だがこの帝国に欠かせない軍人だ。度重なる魔獣の襲来からこの帝国を護り抜いてきた『守護神』だと言われている」
「知らなかった...お父様がそんなに強い人だったなんて......」
幼い頃、お父様は全然家に帰ってこない人だった。たまに帰ってきたかと思えばお兄様たちの魔法の稽古に付きっきりで、私とは全く話をしなかった。お母様が生きていた頃はそうではなかったと侍女から聞いたことがある。私を産んだあと、どんどん衰弱して亡くなったお母様......きっとお父様は私のことを恨んでいるのだろう。私が生まれたせいで...お母様は......。
「こうして君を迎えることを許してくれたんだ。いずれ折を見て結婚の報告に行こう」
繋がれた手から「大丈夫だ」と伝わってくるようだった。いつの間にか私より大きくなった手が、私の手を包み込む。
「........うん」
朝食を終えたあと、レオンは帝国軍の軍服に着替えた。
「...はぁ...行きたくない......」
レオンが私の肩に顔を埋めて、まるで大型犬のように甘えてくる。そんな彼が愛おしくて、私も大きな胸に抱きついた。
「...いってらっしゃい、レオン」
耳まで真っ赤になったレオンは、「も、もう一回...!」と言いながらも迎えにきた軍の隊員に連れて行かれるのだった。




