プロポーズ
「アイリス、着いたぞ」
レオンの声に、私は目を覚ました。
「ん......ここ.........?」
いつの間にか彼の肩にもたれて眠ってしまっていたらしい。私たちが乗った汽車が、北の果てから帝都に到着した。
「...ごめんなさい、私...寝ちゃって......」
十年ぶりにあの北の地から出て、思っていたよりも疲れたのかもしれない。街並みも、十年でだいぶ変わった。
レオンは私の髪を直しながら、優しくエスコートしてくれた。そんな彼に、再び心臓がドキドキしっぱなしになる。異様に疲れている原因かもしれない。
帝都の中心地、メディウス駅に着いたアイリスとレオンを、帝国軍の軍服を着た軍人たちが待ち構えた。
「レオンハルト隊長!お疲れさまです!そちらが......」
ウキウキした様子で話しかけてきた男に、レオンはため息をつきながらアイリスの前に進み出てガードする。
「ヘイリー、彼女が驚くだろ。出迎えは要らないって言ったのに...」
レオンはアイリスが怖がらないように距離を取らせ、彼女に紹介した。
「彼らは俺の部隊の隊員で...特務魔術隊副隊長のヘイリー、隊員のエヴァン、シリル、マクシムだ」
「は、はじめまして...アイリスと申します......」
アイリスは突然の対面に驚いていた。レオンが帝国軍に所属していることにも驚いたが、まさか特務魔術隊で隊を任されるような隊長だったなんて思いもしなかった。
「うわー!可愛い!!」
副隊長のヘイリーを筆頭に、他の三人も興味津々でアイリスを見つめた。
「隊長が長年想い続けていたお方に会えて感激っす!」
エヴァン、シリル、マクシムもアイリスを取り囲んでわいわいお祭り騒ぎをしていた。
「あ、あの...」
アイリスが困っていると、レオンは彼女を背に隠して隊員たちに怒った。
「おい、寄るな。そして勝手に見るな。話すな」
あまりの冷たい目線に、隊員たちは冷や汗をかきながら後ろに下がった。
「うーわ、隊長が独占欲丸出しだぞ」
「こえー...」
口々に文句を言う彼らを無視して、レオンはアイリスを心配していた。
「大丈夫か?」
アイリスは和気藹々としている隊員たちを見てクスッと笑った。
「...前は年下の子にも虐められて、その度に私が助けていたのに......いつの間にか仲間ができたのね...」
懐かしむアイリスに、レオンは少しムッとした顔で「昔のカッコ悪い姿は思い出さないでくれ...」と言った。その顔は真っ赤なゆでダコのようで、可笑しくてアイリスはますます笑う。
「今日はもう遅いし、また改めてご挨拶に伺いますね!いやー、隊長がベタ惚れのアイリス様に会えてよかった!な!」
ヘイリーたちはアイリスと会えて満足そうに去っていった。外はもう真っ暗で、駅の灯りや街の街灯が煌々と光っている。
ヴィルベール公爵邸まで馬車に乗り、懐かしい彼の家に降り立った。
「...おかえり、アイリス。今日からここが君の家だ」
まだ目の前にいるレオンが、あの頃の彼と別人のようでソワソワとしてしまう。そんな自分がなんだか恥ずかしかった。
立ち止まる私をレオンが優しく見つめる。その瞳は十年前と変わっていなかった。
「......アイリス?」
「......レオン、私たち本当に夫婦になるの...?」
いまだに信じられなくて、レオンが隣にいる幸せが怖かった。そんな私の正面にきて、レオンは膝をついた。
「......ずっと、この日のために生きてきたんだ。子どものときから、君のことが好きだった。......俺の妻になってくれますか?」
そう言って私の手を取り微笑んだ彼に、不安が少しずつ解けていくような心地がした。
「......はい」
私が返事をすると、レオンは立ち上がり私を抱きしめた。そして抱き上げるとそのまま屋敷に入るのだった。




