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偏屈さんと一緒  作者: ロッカ
84/84

7ー12 爆弾プロポーズ、発射オーライです

「何かわかった?」


約束の朝、待ち合わせの総諸門前に来たところ、まだ難しい顔をしたホクガンに多少呆れながらテンレイは聞いてみた。

ホクガンは不機嫌そうにジロリと見返す。


「何よ。」

「わかってねえよ、まだなんにも」

「・・・・・・・・。」


フンとするホクガンと、その八つ当たりも藻甚だしい態度に青筋立てるテンレイ。


「まぁまぁ」


それを宥めるダイスと


「お前達ついてくるのか。」


邪魔。と言わんばかりのガツク。

小コロッセオに向かう道端は朝靄に包まれている。そこを思い思い考えながら進んだ。

目的地まであと数百メートル、という所でホクガンは立ち止まった。


「俺、やっぱり気になるわ。」

「ホクガン。」


ダイスはこんな面白そうなイベント、いや大事な場面で抜けるホクガンを驚きの籠もった声で呼んだ。平素なら率先して楽しみ、引っかき廻すのはホクガンだからだ。

そんな、政務よりも祭りを最優先に持ってくるボンクラ国主ホクガンは、元来た道を指で指し示しながら


「此処をちっと行ったトコによ、ドミニオンの歴史に異常に詳しい変わり者のジジイがいるんだよ。小コロッセオについて何か知ってるだろうから聞いてくる。先に行っててくれ。」

「元より待つ気はない。」

「あーあー!お前はそうだろうよ!すいませんねぇ!言った俺がバカだったよ!バーカ!」

「どっちなんだ。」


その後も「ハーゲ!デーブ!」等と幼稚園児並みの悪態を吐きながら、ホクガンは引き返していく。

だが、既に背を向けてスタスタと向かうガツクにホクガンの声は届いていない。


「たまに不憫になるんじゃ・・・ホクガンが」

「そうねぇ・・・でもあれがガツクだから」


ダイスとテンレイが揃って溜息をこぼす。

ガツクに全く相手にされないホクガンだが、せめてもの慰め役がいるだけでもいいかもしれない。




一行がコロッセオに着くとまだモモコの姿はなかった。


「ちいと早かったの。」


ダイスが腕時計をちらりと見て言った。

約束の時間は6時。今の時刻は6時前だ。


「ガツク、ワシ等は離れた場所で待機しとる。」

「ああ。」

「いいガツク、くれぐれもモモコには優しく柔らかな言い方で接しなさいよ絶対急かしたり横柄な態度で」

「ダイス、早く連れていけ。」


テンレイの小言が熱を帯びないうちにガツクは急いでダイスに命じた。


「まだ話は」

「まぁまぁテンレイ」


ガツクは尚も話そうとするテンレイと、それを宥めながら引きずっていくダイスを溜息をついて見送ると、改めて小さなコロッセオを見渡した。

簡素な石造りの遺跡は何の装飾も施されてはおらず、暖かい季節には緑が溢れるだろう 辺りの沢山の樹木も、まだ{寒い風の吹く今は寂しげに枝を揺らすばかりである。モモコはなぜこんな場所を選んだのか。いや、シスは何故此処を・・・

そこまで考えてガツクは雑念を払うように頭を降った。





シスの意図など関係ない

俺はモモコと会えさえすればいい

まだ謝ってさえいない

ずっと・・・・傷つけたままだ

モモコ・・・お前に 言わなければならない事が




モモコのことを考えていたガツクの耳にかすかに砂利を踏む音が聞こえ、顔を上げると。


「ガツクさん・・・」


そこには愛しくて堪らないモモコが立っていた。

不自然なほど顔を強ばらせて。



***



「おーいジジイー生きてるかー生きてるのか死んでるのか返事しろー」


ホクガンはゴチャゴチャと散らかり、埃を被った何だかわからないモノ達を避けながら奥へと声を掛けた。

小屋は何年も人の手が入っているようには見えないほどで、これでは主は今はもう・・・


「補佐官殿、死んでいては返事など無理であろうよ。」


嗄れて潰れた声がしてホクガンの目の前にボロを纏った、だが不思議と品のある老人が現れた。


「おー、ジジイまだ生きてたか。ていうか俺もう補佐官じゃねぇし、今は国主だってぇの。何年前の話だ。あと爺さん、いい加減総所の顧問官にならねぇか。」

「何を今更。老いぼれをこき使うもんではないですぞ。」

「あー勿体ねぇ。あ、それはそうとよ、アンタに聞きたい事があるんだ。」

「ほう。まぁ座りなされ。」


ホクガンは勧められた、埃と何かの物体Xが付着している椅子らしきモノを見ると首を振って


「遠慮しとく」

「チッ」

「今舌打ちした?」

「なんの事ですかいの」


トボケたように首を傾げる老人にホクガンはため息をつきながら本題に入った。


「此処の近くの小コロッセオ・・デイ・ボーセル遺跡の事なんだが」

「おお!」


ホクガンが遺跡の名前を出すと老人は興味なさそうな態度を一変、急に目が輝いた。


「な、なんだよ」

「いやー御珍しい。国主殿の口から「離縁」のコロッセオ、デイ・ボーセルが出てくるとは。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?


「・・・・今、何つっ」

今日こんにちでは小コロッセオ等と可愛らしく呼ばれておりますが、数百年前は女性が男性と「永久に」別れたい時に告発する場所でしてな」

「・・・・・・・・・・マジ?」

「左様。」

「・・・・・・ちなみにされた男はどうなんの。」


フフフフフフフフ・・・・・老人の含み笑いにホクガンは嫌な予感に怯えた。


「告発された哀れな男には二択の道がありまする」

「へ、へー 一応選ばれんだ。あ、こ、断ることも出来るんだな」

「左様。ですがその場合、別れを告げた女性を殺さなければなりません。」




(℃゜)ゞ




「どういう決まり事か順を追って話しましょうな。まず、どうしても別れたい男を女性が各村長の前で(昔のドミニオンは大小の村が点在する小国家であった)告発いたしまする。その離縁を承諾するか男に聞き、別れを承諾するのならそのまま離縁、承諾しないのなら女性に再度やり直す意志がないか聞き、女性が否と答えれば双方殺し合いで決着するという事でしてな。まぁ、兎にも角にも女性の方は男から離れることが出来るということで、男の方はどちらにせよ別れさせられる事になるのです、結果、其れが生きているか死んでいるかの違いがありますがの。」




***



「ガツクさん・・・あの・・・こ、こんな朝早く呼んじゃってごめんね。」


モモコは緊張をほぐすように軽く言ってみた。ガツクは食い入るようにモモコの顔を見ながら首を振った。


「なにも問題ない。」

「そ、そう?そう言ってもらえると・・・その・・・えーと」


モモコは何やらごにょごにょ口の中で呟くと言葉が続かずそのまま黙ってしまった。言いたいことは本当は山ほどあるのだが、その想いが強すぎて喉の奥で皆が押す合いヘし合いしているようで・・・なかなか口から出てこない。頭はグルグルと無闇矢鱈に走り回りモモコの気は焦るばかり。


(どうしようどうしようちょっと待てあたし落ち着けってそんなこと今ガツクさん待ってるし早くなんか言わなきゃ)


モモコがあーえーとなっていると痺れを切らしたのかガツクが口を割った。


「モモコ、俺は」

「ま、待ってストーップ!あたしの話から聞いてほしいの!・・・ああ後からじゃ言えなくなっちゃうから。」


何か言おうとするガツクを慌ててモモコは遮る。

ガツクの話をまともに聞けるかどうかも怪しい。それほどモモコが決意した事は重い。


「あ、あのね、あの・・あたし・・すごくよく考えたの。それはね」


何とかして続きを言おうとし、詰まり、気を取り直しては、ふーっふーっと息をつくモモコを見かねたガツクは、優しく声を掛けた。


「モモコ、深呼吸してゆっくり話せ。大丈夫だ、俺は最後までおまえの話を聞く。」




***




ズズッと何時出したのか茶を啜る老人。

その何とも長閑な音にホクガンはフリーズ状態から覚醒した。


「なんだそのデンジャラスなルールは!まるで世紀末!アタタタァッ!お前はもう死んでいる・・・レベル!」


妙な例えですの~とふぉっふぉっ笑う老人に、気を取りなしたホクガンは額の汗を拭った。


「ま、まぁ、大昔の話だしな。いやードミニオンにも意外な恐ろしい歴史があったのね」

「これが面白いことに今の法律にもこの「デイ・ボーセルの告発」が活きていましてな。」




( ・o・)




老人は意地悪く笑うとそんなホクガンに続いて止めを刺した。


「今でもそのコロッセオに呼ばれた男女は、必ずどちらかの選択をしなければ双方国外追放という・・・あれ国主殿?」





ホクガンは走った。





コロッセオへ。今では「小」等と生温い愛称では呼べない場所へ。命の限り走った。


その走り去る背からは何だろうかキラキラしたモノが後から後から舞い散り(涙)、体中からはありとあらゆる名が付く汗が(脂汗とか冷や汗とか)流れ、喘ぐように附く息は過呼吸の如し。




まぁああぁてぇええ

ももくぅおぉおお

はやまるなぁあぁああ

たしかにったしかにガツクはひでぇおとこだぁ

だからってだからっておまえ




ハッ


ホクガンはピタッと立ち止まった。元凶に思い当たったのだ。そしてまた全速力で駈け始める。




シスぅううううう

てんめぇえええぇ

このクソったれがぁぁあぁああ!!!ブッ殺す!!!!!





「まだ続きがあったんじゃがのう。相変わらずからかい甲斐のある御方じゃ。」


老人はホクガンが去った方向を、暫し茶目っ気たっぷりの目をクリクリさせて見送ると、またボロ小屋の奥へと帰っていった。






ホクガンが生涯最高のスピードで駆けつけた時、既に2人はコロッセオの中央にいて今まさにモモコが何かを言おうとしている所であった。


(間に合ったか!)


ホクガンが荒い息の元、急いで声を張り上げようとした、その時


「こらこら、今いいトコなんだから邪魔すんじゃねぇよ」


後ろから聞いたことのある声がしたと思ったら口を塞がれてしまう。


「ヒフ!」

「おい、皮みてぇに呼ぶな。」

「はなへ!」

「大声出すなよ?」

「わふぁった!」

「お前・・・ぜってぇ嘘だろ。」


60過ぎの大男と38歳の大男は絡み合いながら攻防を続けた。正直見た目は気持ち悪い。


「並ぶと薄す汚さが10倍増しですね。」

「ステルス!」

「フテルフ!」

「あーモモコさんがー」


抗議する2人を涼しい顔で無視してからステルスはモモコとガツクに注目した。




***



(言うぞ!あたしが考えてきたこと!ガツクさんに全部!よし!)


モモコはもう何回目になるかわからない覚悟を決めて大きく息を吸い込んだ。今までの事、これからの事、ガツクのことをどう想っているかきっとうまくは言えない。言い尽くせないだろうがそれでも。


そして最後に「あの言葉」を。




「ガ、ガツクさん!」

「ああ。」

「あ、あたし!」

「・・・・・・。」

「あたしと!」

「・・・・・モモコ、無理する」

「あの!あたしと!」









「あたしと結婚して下さいっっ!!!!」








その瞬間、超狭地域限定で時間が止まった。




モモコは自分の口から、言いたい事の内容などをすっ飛ばし、いきなり出てきた「あの言葉」、爆弾プロポーズに呆然とした。


(あああああああ、あた、あたし・・・・何言っちゃってんの!?言いたい事と全然、全然違うじゃん!いや違うくはないけど!だけど・・・・ああああああ~!!)


出てしまった言葉はもう仕舞えない。


モモコは恥ずかしさのあまり見悶えしかかったが、ぐっと堪えた。ガツクに会ったら言うと決めていた「あの言葉プロポーズ」だったが順番が・・・きちんと話し、自分の想いを充分わかってもらい、いい雰囲気なったら・・・と決めていたのに。

パニックが過ぎるとモモコは自分にガッカリして、気負った分落ち込んだ。


(どうしてあたしってこうなんだろう・・・・ガツクさんもきっと呆れてる・・・アレ?)


モモコは肝心のガツクが妙に静かな事に気が付いた。俯いていた顔を迷った末おそるおそる上げてみる。


そこには。





(熱っ!)





思わず脳内で叫ぶほどあぁっっっっつい眼差しでモモコを凝視・ガン見・鬼見てる・・・・ガツクがいた。

その目は端から見ると獲物の皮をひん剥いて頭からバリバリと喰ってしまいそうな感じ。辺りに目立たないように待機しているホクガン等やシス達が「救出・・・いやちが・・・やっぱり・・・」と、「モモコが(色っぽい理由ではなく)喰われる前に助けに行った方が」と迷うほどであった。


「あ、あのガツクさん?」


自身の爆弾を一時忘れるほどのガツクの異常状態に、引き気味のモモコが声を掛けると、ガツクは微かに震える両手を動かしモモコに近寄る。

あまりの鬼気迫るそれに無意識に後ずさるモモコ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「何故、後ずさる。」

「あ・・・えーと。」


口籠もるモモコに怪訝そうにしながらも、気を取り直してガツクは続けた。


「モモコ・・・今の言葉・・・本当だな?」

「えっ・・・あ、あの・・・いや」

「違うのか!?」

「イ、イエ、違ウクハナインデスケド。」


ガツクの触れられるような熱い、そして厚いオーラにビビったモモコから「いや」が出ると途端に詰め寄るヤンデレ。

その姿は、お前この前変わるとか決心してたよな?と正しくツッコミ入れたいほど正しくない姿だ。





「お前の言葉は充分伝わった。・・・・今度は俺の話を聞いてくれるか。」


ナニかにレボリューションしそうなガツクはモモコから、「ガツクさん、大丈夫?」ともっともな事を聞かれ、やっとこさ落ち着いた。

僅かに引きつる顔でガツクはモモコに聞く。


「・・・・・うん」


モモコがまだドキドキしている(ある意味ね)胸を押さえて頷くと、ガツクはモモコの目の前にその大きな体躯を動かしいきなり片膝をついた。

ギョッとしたモモコだったが、ガツクの方は己がまだモモコを見下ろしていることに気付くと、少し考え辺りをキョロキョロと見渡して


「モモコ、少し移動しても構わないか?」


と聞き、モモコが「今度は何されるんだ」と戸惑いがちに了承すると、その小さな体を抱え上げた。

久しぶりの互いの体温と感触にモモコが赤くなって俯くと、ガツク方は愛しいモモコのその露わになった首筋に鼻を寄せて柔らかな匂いを嗅ぐ。


「あっ・・・やっ・・・」


モモコが息を飲んで首を縮めた。ガツクが耳の下を舐め、軽く噛んだからだ。


「お前に触れるのも久し振りだ。これくらいは許せ。」


真っ赤になったモモコを満足そうに見てニヤリと笑ったガツクだが、それ以上は何もせず、遺跡の段々になっている場所まで来ると数段上の方にモモコをそっと降ろした。

自身はまた片膝を突く。そしてモモコの目をじっと見つめながら話始めた。


「モモコ・・・俺の身勝手な思いに応えてくれて礼を言う。俺は・・・今までの全てを考え、お前に俺達2人のこれからの関係を委ねるつもりだった。」


モモコが驚いて息を飲む。


「でもそれって・・・あたしがガツクさんから離れたいって言ったら・・・」

「無論、そうするつもりだった。正直・・・俺にできるかどうかはわからん。だが・・・お前は俺に未来をくれたな。」




ガツクは目元を緩めて微笑んだ。大好きなその笑みにモモコの胸を信じられないほどの喜びが満ちる。


「前に・・・お前にした仕打ちの事を話したな。」

「う、うん・・・」


モモコはその苦く衝撃的だった日を思い出し顔が曇る。


「お前の為だと言いながらも本当のところ・・・・俺は己の事を考えていた。・・・何時かお前に背を向けられるかもしれない、他に好きな奴が出来たと言われるかもしれない。俺は女に好かれるような男ではないからな。」

「ガツクさん・・・」


ガツクは自嘲気味に口の端を上げて笑った。


「この俺が、人でなしの人間兵器と揶揄される俺が、初めて恐怖を感じた。そうなる前にいっその事・・・等と考えなかったと言うと嘘になる。情けないだろ?しかも相手は己の半分もない小さく、脆い女だ。それにな、そのお前に己でさえ不安になる程のこの激情全てをぶつけてしまいそうになる。それも怖かった。」


ガツクは手を伸ばしてモモコの柔らかな頬をそっと撫でた。あの甘い熱が伝わってくる。ガツクの体がぶるりと歓喜に震えた。




いますぐその体を抱き締め思うがままに貪りたい。




・・・だがガツクは大きく息を吸うとその衝動を完璧に押さえ込み、手を戻して起こした膝の上に置いた。


「モモコ・・・いや、モモコ・クロックスさん。」


改まって名前を呼ばれ、モモコの背筋がぴーんと伸びる。


「はっ はい!」


緊張して声が裏返ったモモコにまた微笑んでから


ガツクは告げる。


言いたくて溜まらなかった言葉を。







「私も貴女を愛しています。はい、結婚致しましょう。」






「・・・うっ・・・~~~~!ふぇっ・・・ふぇええええ」


モモコは溜まらず泣き出した。

今までの思い詰めていた何かが一気に溢れ止まらなくなった。


ガツクに初めて会った時の衝撃。

認められたいと願った武闘大会。

想いに気付いたあの寒い夜。

辛くて泣いてばかりいた一人では広い部署部屋。

そしてそして・・・・どうしていいかわからなくなった白銀の朝。


ただただ溢れてくる涙。ガツクの姿も忽ち見えなくなる。


「モモコ」


名を呼ばれたモモコは顔を上げた。困ったような顔のガツクが首を傾げている。ガツクはその長く大きな腕を広げた。





「おいで」




「~~~~~~!!」


モモコはガツクの胸に飛び込んだ。それを危なげなく、しっかりガツクが受け止め抱き締めた。

互いの感触に、ただただ満たされていく。それはこの人ではないと決して感じない、確かなものであった。

モモコの涙はまだまだ後から後から伝う。


「俺が悪かった。お前に辛い思いをさせたな。」


モモコはうんうん頷きながら


「ほんとにっ・・・そうだよ。でもガツクさんの言いたいこともわかったから。」


泣きながらも何とか言葉を紡ぐ。

その背を優しくガツクがさすった。


「ガツクさんが、ああなるって、事、知らなくて、あたしが、離れた方がいいのかなって、考えたけど。でも!」

「・・・・モモコ」

「でも、離れてもきっとガツクさんの事、考えちゃうから・・・だから・・・だったら」


モモコは涙でぐしゃぐしゃな顔を上げてガツクに笑う。





「だったら一人でいるよりも、ガツクさんと一緒に、ね、わーわーしながら、ついでに楽しんじゃえって、その方がマシって、そう思ったんだ。」




ガツクはそんな、何もかも、すかーんと吹っ切ったモモコの言葉に軽く目を見張って驚いた。


(・・・これがモモコの強さなのか。この柔軟な考え・・・俺の方が守られている気になる・・・)


ガツクは脱力したように笑い返すと、長い指をそっとモモコの濡れた頬に這わした。


「あんなに思い悩んだのは何だったのか・・・しかし・・そうだな。お前の言う通りだ。確かに一人よりはマシだな。」


その優しい仕草と言葉にまたモモコの目からは新たな涙がこぼれる。


「もう泣くなモモコ。目が溶けるぞ。」

「こっ、これは!・・・な、泣いてないもん。」

「ではこれは何だ?」






「こ、これは・・・・・・・ヨ、ヨダレです。」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたし、何言ってんだろう





ごもっとも。

イタイ沈黙は甘い雰囲気を見事に消し去った。



「・・・・・・お前の涎は目から出るのか?」

「うっ」


顔を赤くして詰まったモモコを、暫く見ていたガツクだったが


「クッ」

「・・・・?」

「クックックッ・・・」

「あ、あの、ガツクさん?」

「ハハハハハハッ!」

「・・・・・・・・」

「ハハハ・・・お前は本当に・・・大した奴だよ・・ハハハ・・」

「もう・・・」


何時までも笑い続けるガツクに、少しばかりムウとなったモモコだったが、やがて連られるようにして笑い始める。






うん。

どんな未来でもやっぱりあなたと居たいから。


これからも


ずっと


偏屈さんと一緒。




言い訳は(堂々と言うぜ)活動報告にて。

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