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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第三章:冬から春へ

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第五十八話「凧揚げの理」

空の高いところに、赤と白の色があった。


風に揺れながら、それは動いている。地面に降りてこない。我は立ち止まって首を上げた。屋敷の外を歩いていると、こういう思わぬものに出会うことがある。


たこだ。


正月の頃から子供たちが揚げるものだと知っていた。だが実物をこれほど近くで見るのは初めてだった。道の先の広い空き地に、子供が三人いた。一人が糸を持って走り、もう二人がそれを見ている。赤と白の凧が、空の中ほどで揺れながら上がっていく。


我は土手の端に座って、観察することにした。


     *


凧が上がる原理を、我は最初から理で読もうとした。


風が凧の面に当たり、揚力が生まれる。糸が張力を保つことで、その力が凧を一定の位置に留める。原理としては単純だ。前の世界でも気流の理論は扱ったことがある。風が物体を浮かせる条件については、理として把握していた。


だが実物を見ていると、少し違うものが見えてきた。


糸を持つ子供が走るのをやめた途端、凧の動きが変わった。ぐらりと傾いて、少し下がる。子供が糸を引くと、また上がる。緩めると下がる。引きすぎるとまた不安定になる。


凧は風の流れの上に乗っている。だが「乗っているだけ」では落ちる。引っ張る力と、緩める力の間で、ちょうどよい張り具合を保つことで、空に留まっている。


抵抗と流れの均衡、と我は分析した。


風に逆らうだけでは凧は上がらない。糸で繋いで引くだけでも落ちる。どちらか一方ではなく、二つの力の間に凧を置くことで、初めて高みに達する。


木の理の応用として、これは興味深い。


     *


子供が一人、糸を放した。


風に押されて凧が流れ、糸が地面を引きずられた。揺れながら滑る糸の端が、我の前足の届く範囲に近づいてきた。


前足が動いた。


一度だけ、動いた。糸の端に触れた。子供が慌てて糸を追いかけた。我は前足を舐めた。


これは……観察の一環として糸の張力を手で確認しようとしたものであり、遊んでいたわけではない。


子供が糸を拾い直して、また走り始めた。凧が再び上がった。


     *


日が傾きかけた頃、子供たちは凧を畳んで帰っていった。


三人のうち最後の一人が空き地を出る前に、一度だけ振り返って我を見た。六つか七つの子供で、我と目が合うと何も言わずにまた歩き出した。


空き地には風だけが残った。


凧がいた場所を、我はしばらく見上げた。凧が消えると、空は単に空に戻る。だがさっきまでそこに色と動きがあったことは、まだ目に残っていた。


凧は今どこにあるか。子供の家の押し入れの中か、あるいはまだ子供の手の中か。分からない。だが凧があそこにあった時間は、確かにあった。


少し考えた。


風の理について、今日新たに分かったことがある。前の世界では風を「力の方向と強度で定義するもの」として扱っていた。木の理の初級では、それで十分だった。風を生じさせ、流れを整え、眠気を誘う——どれも風を「出す」方向の応用だ。


だが今日見たのは、別の側面だった。


凧は風を「受ける」ことで浮かんでいた。風そのものではなく、風の中に自分を置くことで高みに達する。糸という繋ぎがなければ流されるだけだが、繋ぎがあることで浮力と重力と張力の三つが均衡して、あの場所に留まれる。


木の理における受動的浮揚、と我は分類した。


これは今まで考えたことがない角度だった。前の世界では力を行使することが理の使用だと思っていた。だが力を受け入れて乗ることも、理の一形態だ。抵抗するのではなく、均衡を探す。


子供たちが無意識にやっていたことを、我は今日初めて理として整理した。


器がお前になる、と猫又が言ったことを、我は一瞬思い出した。


それから、特に理由なく、屋敷の方へ歩き出した。


     *


真白が縁側にいた。


「帰ってきたの」と真白が言った。それだけだった。問い詰めるでもなく、叱るでもない。ただ我が戻ってきたことを確認した。


我は縁側に上がって、真白の隣に座った。


「凧を見てたの?」と真白が言った。


外から戻った我の目の向きで分かったのか、それとも空き地の方向を知っていて予想したのか。どちらかは分からなかった。


「凧って、どうして落ちないのかしら」と真白が空を見ながら言った。「不思議よね。糸が繋がっているのに、すごく高いところにいる」


糸が繋がっているから高いところにいるのだ、と我は思った。


繋がっているから、流れに乗ったまま留まれる。繋ぎを断てば流されて落ちる。これが木の理における浮揚の基本原理だ——と答えたかったが、答える方法がない。


真白は特に返事を待っていなかった。「きれいだった?」とだけ聞いた。


我は尾を一度揺らした。


空き地の上空でゆれていた赤と白が、まだ目の端に残っていた。分析は途中だった。明日もここに来る理由があると、そう整理した。

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