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平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第三章:冬から春へ

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第五十六話「餅つき騒動」

どしん、という音が庭に響いた。


うすを据える音だ。石の上に木の臼を置くと、あの重さが地面に伝わる。我はその振動を足の裏で感じて目を覚ました。縁側から庭を見ると、使用人たちが餅つきの準備を始めていた。


正月に近い時期に餅をつく。これも習わしの一つらしい。昨年は遠巻きに見ていたが、今年は違う。我はすでに縁側の端に移動して、きねの動きを観察していた。


理の視点から言えば、餅つきは興味深い現象だ。


蒸した糯米もちごめに力を加えると粘性が増し、分子の結合が変化する。その変化を引き起こす杵の軌道と速度には一定のリズムがある。金の理の応用として、この振動パターンを計測しておくことには意義がある。


つまり、近づく理由は十分にある。


     *


最初の段階は穏やかなものだった。


我が臼の近くに座って杵の動きを見ていると、年配の使用人——餅つきを仕切っている男だ——が気づいて「あっちへ行っていてください」と言った。


行く必要はない。我は杵の振動を観察中だ。


男が困った顔をした。主の猫だから追い払うわけにもいかない、という葛藤が顔に出ていた。こういう時の人間の表情は、観察対象として実に豊かだ。


つき手の別の使用人が杵を振り上げた。


杵が臼に向かって落ちる。その軌道が、今我の座っている位置から見ると少し角度が悪い。より正確な計測のためには、高さを変えた方がいい。


我は臼の縁に前足をかけた。


「ちょっ……!」


男の声と、真白が縁側から「玄丸」と呼ぶ声が重なった。


     *


臼の縁は思ったより狭かった。


重心を保ちながら観察しようとしたところで、つき手が「お、おい……!」と杵を止めた。全員が我を見ている。作業が止まった。


これは効率が悪い。


我は自発的に臼の縁から下りた。これは撤退ではなく、条件の変化に対応した合理的な判断だ。


「もう……」と男が額に手を当てた。


再び作業が始まった。杵の音が庭に戻った。搗き上がった餅を取り出す頃、白く丸い塊から熱気が立ち上った。


この熱気に含まれる成分を確認する必要があった。


我は鼻を近づけた。熱い。予想より熱かった。後退しようとして前足が滑り、臼の縁に鼻をぶつけた。


「だから言ったのに」と男が言った。


正確には、誰も鼻を近づけるなとは言っていない。


     *


仕切り直した後、餅をのし台(台)の上で平らに伸ばす作業が始まった。


のし台というのは大きな木の板で、そこに搗きたての餅を広げて均一な厚さにする。使用人が手に粉をつけながら丁寧に伸ばしていく。


我は少し離れた位置から眺めていた。


白くて平らな面。均一な質感。均等に伸びていく。これは——土の理に通じる性質がある。地面が均されていく原理と、餅が伸びる力の分布には共通点がある。


確認のために触れてみる必要があった。


使用人が少し離れた隙に、我はのし台に飛び乗った。


着地した瞬間、足の裏に粘るものを感じた。我は一歩踏み出した。もう一歩。三歩目でのし台から下りた。振り返ると、白い餅の上に黒い足跡が四つ、くっきりと残っていた。


沈黙があった。


「あああ……」と使用人が声を上げた。


真白の笑い声が庭に広がった。こらえていたものが一気に出た、という種類の笑い声だった。


     *


縁側で笑い続ける真白の隣に、真澄ますみが来て静かに立った。


「姫様がこれほど笑われるのは、久しぶりです」


真澄がそう言うのを、我は縁側の下から聞いた。


笑われているのは分かっている。我は足跡の件について申し開きを考えた。着地点の誤算、という整理が最も正確だ。搗き手の動きから台の空きを予測したが、餅の広がりの速度を計算に含めていなかった。これは予測モデルの問題であって、失態ではない。


だが、のし台の上の足跡を見た真白が、まだ笑いながら言った。


「かわいい足跡ね。四つ並んで」


かわいい、ではない。


これは測定の痕跡だ。と言いたかったが、言う方法がなかった。我は前足を舐めて、餅の粘りを落とした。


「その餅は後でお母様のところに持っていきましょう」と真白が使用人に言った。「足跡のある部分は別にして、私が食べます」


使用人が「……はい」と答えた。表情が複雑だった。


     *


夕刻、真白が足跡つきの餅の一片を食べながら言った。


「玄丸の足跡がついた餅って、何か効きそうな気がしない? 福猫だから」


効かない。そういう理は存在しない。


我は火鉢の前で毛繕いをしながら、本日の行動を総括した。振動の計測、高所観察の試み、熱気の確認、そして地面均一化の原理の検証。いずれも理に基づく正当な探究だった。


結果として騒ぎになったのは、周囲の動線と我の行動軌道の間に計算上の誤差が生じたためであり、それは環境変数の問題だ。


次回は誤差を修正する。


そう結論づけて、我は目を閉じた。


庭の方から、使用人の男がため息をつく音が聞こえた。

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