↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
228/236

真澄外伝 第四十六話「小さな来客、正式に」

猫が猫に嫉妬するというのは、我ながら理に合わぬ話である。だが、この数日というもの、我の尻尾は自分でも制御しきれぬほど不機嫌に揺れ続けていた。


事の起こりは、藤原真白(ふじわら の ましろ)が軒下の秘密を見つけてしまったことにある。


「まあ、こんなところに」


真白の声に、我は縁側から飛び起きた。真澄が慌てて駆け寄る姿など、滅多に見られるものではない。だが今日ばかりは違った。


「姫様、それは……」


言い訳を探す家令の顔を、我は横目で眺めた。日頃の落ち着きはどこへやら、あからさまに動揺している。


真白の腕の中には、あの仔猫がいた。震えることもなく、すっかり人慣れした様子で丸くなっている。


「真澄が、こっそり世話をしていたのね」


咎める響きは欠片もない。むしろ弾んだ声だった。彼は観念したように肩を落とし、事情を短く語った。何度も言い淀みながらであったが、聞き終えた真白は迷いなく告げた。


「このまま、屋敷で飼いましょう」


真名井実俊(まない の さねとし)が屋敷を訪れたのは、その翌日である。事の次第を聞くなり、彼は真澄を見て眉を上げた。


「お前が、そのような真似をするとはな」


「褒められた話ではないのでございます」


真澄が短く返す。実俊はしばらく黙って仔猫を眺めていたが、やがて口の端を緩めた。


「いや。悪くない話だ」


我はといえば、その場の全てが気に入らなかった。仔猫は真白の膝を我が場所と決め込み、我が近づけば小さな爪を立てて威嚇する始末である。理を極めた魔導王が、たかが子猫一匹に鼻先を弾かれる日が来ようとは、誰が想像し得ただろうか。


「その子とも、仲良くしていただけると助かるのでございます」


真澄が、我にだけ聞こえる声でそう言った。柔らかな物言いだったが、目には隠しきれぬ愉快さが浮かんでいる。日頃の意趣返しのつもりであろう。我は答える術を持たぬゆえ、ただ耳を伏せて抗議した。


夕刻、真白と実俊が母屋へ戻ったあと、縁側には家令と我と、仔猫だけが残った。


彼が、その子を抱き上げ、我の隣にそっと下ろす。逃げるかと思われたが、意外にも、その子は我の脇腹にそのまま身を寄せてきた。温もりを求める仕草に、我も強く拒む気にはなれなかった。


「存外、悪い間柄ではなさそうでございます」


真澄が満足げに言う。我は反論の代わりに、片方の耳だけを動かしてみせた。


理を扱う者として、些細な縄張り争いに心を乱すなど本来あるまじきことである。とはいえ、この温もりを完全に憎めぬあたり、我にも案外、度量というものが足りぬわけではないらしい。ただ、育つには今しばらく時がかかりそうだと、この身をもって思い知る夕べであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。