表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
第一章:都の小さな怪異

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/85

第二十一話「真白の誕生日」

「玄丸、どこへ行くの」


真白の声が背中に届く。我は振り返らず、庭の奥へと進んだ。


今朝から、屋敷は騒がしい。厨から甘い匂いが漂い、侍女たちが慌ただしく行き交う。真白の誕生を祝う日だ。


問題がある。


我には何も贈れない。肉球では金を持てず、爪では物を作れない。


庭の隅で立ち止まる。枯れた草が足元にある。木々の枝も、葉を落として寂しげだ。


花を咲かせよう。


異世界で学んだ理論を思い出す。木の理は生命を、火の理は光を司る。二つを織り交ぜれば――


肉球を地面に押し当てた。



夕刻になって、真白が庭に出てきた。


我は彼女を見つけると、尻尾を立てて歩き出す。


「待って、玄丸」


構わず先へ進む。真白の足音が後ろから追いかけてくる。


楓の木を過ぎ、小さな池を回り込む。普段は誰も来ない一角だ。


「あ……」


真白の息を呑む音が聞こえた。


白い花弁が、淡く光っている。一輪だけ。地面から伸びた茎の先に、月光のような輝きを纏って。


「これ」


真白が膝をつく。


「見たことない」


指先が花びらに触れそうで、触れない。


「どうして、こんなところに」


我は「にゃあ」と短く鳴いた。


真白が顔を上げる。目が潤んでいる。


「玄丸、あなたが?」


また鳴く。


「そんな」


真白が我を抱き上げた。腕に力がこもる。


「ありがとう」


耳元で囁く声が震えている。


「こんな、誰も」


言葉が途切れた。真白の肩が小刻みに揺れる。


我は彼女の胸元に顔を埋めた。温かい。心臓の音が聞こえる。


「玄丸」


真白が息を整える。


「あなたは」


また言葉が止まる。


しばらく、二人で花を見ていた。


風が吹く。花が揺れる。光が波打つように明滅した。


「宝物」


真白が呟く。


「私の」


続きは聞こえなかった。だが、その腕の強さで分かる。


胸が熱い。苦しくはない。むしろ心地いい。この感覚に名前があるのか、我には分からない。


「月光花って呼ぶわ」


真白が立ち上がる。


「この子の名前」


花を見下ろす横顔が、微笑んでいる。いや、泣いているのか。


判別がつかない。



夜になって、祝いの宴が始まった。


我は部屋の隅にいる。真白は皆に囲まれて、何度も頭を下げている。実俊も来ている。真澄も。


「玄丸殿」


実俊が近づいてきた。


「庭の花、拝見しました」


我は彼を見上げる。


「あれを作り出すとは」


実俊が膝をつく。目が真剣だ。


「私も、真白殿を」


言葉が止まる。実俊が拳を握った。


「いや、失礼」


立ち上がって、去っていく。


何を言おうとしたのか。だいたい察しはつく。


「玄丸」


真白が手招きする。


我は彼女の元へ歩いた。


「皆様にご紹介しなくちゃ」


真白が我を抱き上げる。


「私の家族です」


皆が拍手をする。わらべが「玄丸ー!」と叫んでいる。


家族。


この言葉を聞くのは何度目だろう。


だが、今日は少し違う。


真白の腕の中で、さっきの花を思い出す。あれは明日には消えているかもしれない。魔力が尽きれば、光も失われる。


それでいい。


記憶に残れば。


真白の中に、我が作ったものが残れば。


「玄丸、お腹空いた?」


わらべが駆け寄ってくる。小皿に魚の切り身を載せている。


我は真白の腕から降りて、わらべの差し出す皿に顔を近づけた。


美味い。


わらべが嬉しそうに笑う。


宴は夜更けまで続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ