真澄外伝 第十五話「かくれんぼ」
「真澄は、どこにいると思いますか」
縁側で繕い物をしていた真白が、不意にそう言った。我が見回しても、庭のどこにもその姿はない。いつもなら、我が呼ばずとも影のどこかに控えているはずであった。
彼女は含み笑いを浮かべ、繕い物の手を止めた。
「今日は探す役を頼んだのに、真澄ったら、本当にどこかへ行ってしまわれたのですよ」
その物言いに、我は覚えがあった。幼い頃から変わらぬ、あの遊びの続きであろうか。
記憶を辿るように、我は水の理を纏わせた。
繕い物の糸が、幼い日の糸へとほどけていった。
――
真白が六つの年、屋敷では時折、かくれんぼが催された。
女房たちが童女の相手にと始めたものであったが、いつの間にか、下人たちまで巻き込む大がかりな遊びになっていた。鬼役は持ち回りで、その日は乳母が務めることになった。
真白は張り切って庭木の陰に隠れたが、その人はいつまで経っても見つけられず、他の女房たちも右往左往するばかりであった。
そこへ、庭の掃除を終えたばかりの真澄が通りかかった。
「そこな者、隠れ場所を知らぬか」
女房の一人にそう問われ、真澄はしばし考える素振りを見せた後、迷いなく築山の裏へと歩いていった。覗き込むと、真白がしゃがみ込んでいた。
「見つかってしまいました」
真白は悔しそうに頬を膨らませたが、すぐに興味の色を浮かべた。
「どうして、あんなにすぐ分かったのですか」
真澄は言葉に詰まった。理由を説明するのは、存外難しいことであった。土の乱れ方、草の傾き方、微かに残る足の運び――そうしたものを無意識に読んでいただけであったが、それを言葉にするのは、彼にとって不慣れな作業であった。
「……勘のようなものにございます」
短く答えると、真白は納得したのかしないのか、曖昧に頷いた。
その日以来、かくれんぼの度に、彼が呼ばれるようになった。誰も見つけられぬ隠れ場所を、彼だけはあっさりと言い当ててしまう。女房たちの間では、「あれでは遊びにならぬ」と苦笑まじりの評判が立った。
ある時など、真白が屋根裏の物置に潜んだことがあった。他の誰も思いつかぬ場所であったが、真澄は迷わずそこへ向かい、埃だらけの真白を引っ張り出した。
「なぜ、そこまで分かるのですか」
真白の問いに、彼は今度も、うまく答えられなかった。ただ、探すことに迷いはなかった。姿が見えずとも、気配だけは、どこにいてもすぐに分かるのであった。
「真澄は、わたしを見つけるのが上手ですね」
満足げにそう言って、真白は笑った。彼はその笑顔を見て、僅かに目を細めただけであった。
――
繕い物の糸が、元の縫い目に戻っていった。
姿の見えぬ真白を、彼が誰よりも先に見つけ出す男になった発端は、こんな他愛もない遊びにあったらしい。我はそう得心しながら、庭の方へ目をやった。
ちょうどその時、木戸の陰から真澄が姿を現した。彼女の視線に気づくと、彼は僅かに気まずそうに頭を下げた。
「今日は、少々本気を出しすぎたようでございます」
真白は声を立てて笑い、繕い物を膝に戻した。長閑な昼下がりが、屋敷の庭に満ちていた。




