↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】平安猫魔伝〜異世界を滅ぼした魔導王、平安の都で猫になる〜【連載版】  作者: 伊勢吉
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
197/213

真澄外伝 第十五話「かくれんぼ」

「真澄は、どこにいると思いますか」


縁側で繕い物をしていた真白(ましろ)が、不意にそう言った。我が見回しても、庭のどこにもその姿はない。いつもなら、我が呼ばずとも影のどこかに控えているはずであった。


彼女は含み笑いを浮かべ、繕い物の手を止めた。


「今日は探す役を頼んだのに、真澄ったら、本当にどこかへ行ってしまわれたのですよ」


その物言いに、我は覚えがあった。幼い頃から変わらぬ、あの遊びの続きであろうか。


記憶を辿るように、我は水の理(みずのことわり)を纏わせた。


繕い物の糸が、幼い日の糸へとほどけていった。


――


真白が六つの年、屋敷では時折、かくれんぼが催された。


女房たちが童女の相手にと始めたものであったが、いつの間にか、下人たちまで巻き込む大がかりな遊びになっていた。鬼役は持ち回りで、その日は乳母が務めることになった。


真白は張り切って庭木の陰に隠れたが、その人はいつまで経っても見つけられず、他の女房たちも右往左往するばかりであった。


そこへ、庭の掃除を終えたばかりの真澄(ますみ)が通りかかった。


「そこな者、隠れ場所を知らぬか」


女房の一人にそう問われ、真澄はしばし考える素振りを見せた後、迷いなく築山の裏へと歩いていった。覗き込むと、真白がしゃがみ込んでいた。


「見つかってしまいました」


真白は悔しそうに頬を膨らませたが、すぐに興味の色を浮かべた。


「どうして、あんなにすぐ分かったのですか」


真澄は言葉に詰まった。理由を説明するのは、存外難しいことであった。土の乱れ方、草の傾き方、微かに残る足の運び――そうしたものを無意識に読んでいただけであったが、それを言葉にするのは、彼にとって不慣れな作業であった。


「……勘のようなものにございます」


短く答えると、真白は納得したのかしないのか、曖昧に頷いた。


その日以来、かくれんぼの度に、彼が呼ばれるようになった。誰も見つけられぬ隠れ場所を、彼だけはあっさりと言い当ててしまう。女房たちの間では、「あれでは遊びにならぬ」と苦笑まじりの評判が立った。


ある時など、真白が屋根裏の物置に潜んだことがあった。他の誰も思いつかぬ場所であったが、真澄は迷わずそこへ向かい、埃だらけの真白を引っ張り出した。


「なぜ、そこまで分かるのですか」


真白の問いに、彼は今度も、うまく答えられなかった。ただ、探すことに迷いはなかった。姿が見えずとも、気配だけは、どこにいてもすぐに分かるのであった。


「真澄は、わたしを見つけるのが上手ですね」


満足げにそう言って、真白は笑った。彼はその笑顔を見て、僅かに目を細めただけであった。


――


繕い物の糸が、元の縫い目に戻っていった。


姿の見えぬ真白を、彼が誰よりも先に見つけ出す男になった発端は、こんな他愛もない遊びにあったらしい。我はそう得心しながら、庭の方へ目をやった。


ちょうどその時、木戸の陰から真澄が姿を現した。彼女の視線に気づくと、彼は僅かに気まずそうに頭を下げた。


「今日は、少々本気を出しすぎたようでございます」


真白は声を立てて笑い、繕い物を膝に戻した。長閑な昼下がりが、屋敷の庭に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。