第17話『救援へ』
久しぶりに体調崩ったかも……。
〈日本都市〉を出て暫く行くと、将真たちは任務地に到着した。
「うわ、マジででかいなおい」
「でもあの程度なら、もう見慣れちゃったよ」
「同感っす」
茂みに隠れながら、その向こうで群れを作る魔獣たちを観察する。
その魔獣の名は〈ジャイアント・ウルフ〉。
3メートルにはなるかという、巨大な狼の姿をそのまま名前にした、ネーミングセンスにかける魔獣である。
だが、その力はオーガすら凌駕するというのだから、侮っていい相手ではない。
加えて、足もかなり速く、単純なミスで容易く危機に陥る程度の危険性を備えていた。
そんな魔獣が、目測で凡そ20匹くらい。
「……予想よりちょっと多いっすね」
「行けそうか?」
「こんな見通し悪くて動きにくいと、ちょっとしんどいかもしれないっすねぇ。まあ自分みたいなのからしてみれば、むしろこういう空間でこそ戦いやすいとも言えるんすけど……」
足が速いと言っても、莉緒からしてみれば、脅威になるような速さではない。
いつどこから襲われるかわからない、見通しの悪い森の中だが、それは将真たちだけでなく、狼たちにも言えることだ。
まあ、将真はもちろん、絶賛不調中のリンも当然、この地形を駆使して戦うことは困難を極めるのだが。
「じゃあ自分が撹乱してくるんで、状況を見て将真さんが突っ込んできてください。リンさんは、将真さんから離れずに、自分と将真さんのサポートよろしくっす」
「了解」
「うん、わかった」
莉緒の指示に、将真とリンは素直に従う。2人の了承を確認すると、莉緒はすぐに飛び出して言った。
数秒経つと、莉緒が木々を縦横無尽に跳び回り、狼たちに攻撃を仕掛けていく。
それに気がついた狼たちが、一斉に莉緒を狙い始めるが、やはりと言うべきか、莉緒を捉えることが出来ない。
莉緒の防御力はさほど無いので、当たれば大きなダメージになるが、当たらなければどうということはない。
狼たちの意識が、完全に莉緒に集中していることを確認すると、将真が動き出し、その後にリンがついて行く。
将真は、〈武器生成魔法〉で剣を作り出し、群れの端にいた、1番手近な〈ジャイアント・ウルフ〉を斬りつけた。
強力な魔属性魔力に加えて、戦闘中はさして繊細なコントロールを必要としないからと使っている〈肉体強化・活性魔法〉。その攻撃力は、今までの将真よりも、確実に高まっていた。
一撃で絶命させられた仲間に気がついた狼たちが、将真のほうを振り向こうとするが、そんな隙をみせれば、莉緒の攻撃で首を落とされる。
板挟みの状態に焦る狼たちを、更に将真の後方から、鋭い風の槍が飛んできて、狼たちを刺していく。
「将真さん、ちょっと前出過ぎっす!」
「ひゃっ!?」
「げっ、やばい離れすぎた!?」
莉緒が状況に気がつき声を上げると、丁度〈ジャイアント・ウルフ〉の群れの1匹がリンに襲いかかろうとしていた。
咄嗟のことに反応が遅れたリンは、攻撃を躱すことが出来ない。
すると将真は、地面を強く踏みしめて前へと跳躍した。
(同時発動、10パーセント!)
衝撃で地面は踏み抜かれ、弾丸のような速度で将真の蹴りが〈ジャイアント・ウルフ〉の横っ面に命中した。
そして巨体が、有り得ないほど容易く、宙を吹っ飛んだ。
「あ、ありがとう、将真くん」
「ああ……、いや、むしろ悪かったな。ちょっと迂闊だったよ」
リンの感謝は素直に受け取るも、自身のミスを反省する将真。
少し離れたところで、先ほどの将真の動きを見ていた莉緒は、少し驚いていた。
(まだ調節が甘いっすけど、だいぶモノにしてきてるっすねぇ。自分でも1か月はかかったのに、相変わらず凄まじい学習能力……)
莉緒の予想通り、将真は〈肉体強化・活性魔法〉に慣れ始めていた。
丁度最近、気がついたことがあり、それからというもの、うまくコツを掴むことが出来たのである。
(同時発動するのに、〈肉体強化魔法〉と〈肉体活性魔法〉って別々に考えてどうする。『2つの別々の魔法』じゃなくて、『複数の効果を持った1つの魔法』と思えば、かなり使いやすい!)
そして、今の自身の状態に気がついた将真は、また弾丸の如く飛び出して、少しリンから距離を置いて狼たちを撃退し始める。
だが、流石は魔獣。多少理性があるらしく、将真の誘いに簡単に乗らなかったのだ。
(言い方は悪いけど、リンは今、囮としても機能する。そんで、今の俺なら、この距離でも十分どころか十二分に間に合う)
狼たちの意識を自分に集中させつつ、他に意識を向けて隙の生まれた〈ジャイアント・ウルフ〉は狩る。魔導師2年目とは思えない、高等技術だ。
将真1人に翻弄される狼たちに、再び莉緒が仕掛ける。
もはやなす術もなく、狼たちは将真たちに蹂躙され、危険と言われていた〈ジャイアント・ウルフ〉の群れは、予想を超えて、容易く狩り尽くされてしまったのであった。
「__ん、柚姉から通信入った」
「今っすか?」
「まさか何か追加事項でもあったかな?」
〈ジャイアント・ウルフ〉の牙やら皮やらを剥ぎ取って回収している最中に、その連絡は入ってきた。
ちなみに、〈ジャイアント・ウルフ〉は群れることが多く、狩るにはそれなりの実力と人数が必要なので、そこそこ希少な素材という扱いにある。なので、これを魔導器を作る鍛冶師にでも売り渡せば、いい値になるのだ。
素材回収もそこそこに、将真たちは柚葉の通信を受け取る。
もはや馴染み深いホログラムウィンドウには、柚葉の姿が映し出された。
『あら、出られたのね』
「丁度、討伐命令の出ていた魔獣の群れを駆逐したところだよ。それで、なんか用?」
『ええ。まあ、あなた達以外にも頼んでるんだけど、そこから北西に少し行くと遺跡があるはずだから、そこに向かってほしいの。できれば今すぐ』
「……どうする?」
落ち着いた様子に反して、どうやら事態は切迫しているらしい。だが、将真たちもまた任務の途中で、ついでに言えば、戦闘の直後である。
勝手に行くとも言えず、とりあえず将真は、リンと莉緒に判断を仰ぐ。
「ぼ、ボクはそんなに疲れるようなことしてないし、言ってもいいと思うけど……」
「自分もあれくらいなら大したことないんで、このまま遺跡任務に行ってもいいっすけど、理由くらいは聞かせて欲しいっすね」
「……って、ことらしいけど」
『なら今すぐ向かって。道中説明するから、通信は切らないでね』
柚葉の指示に、将真たちは了承を示して、すぐに言われた通りの方向へと走り出す。
体力や魔力の消耗は極力抑えた上での全力疾走だ。
「__それで、遺跡に急ぐ理由ってのは?」
『実はそこの遺跡に、空たちが探索任務に出てたのよ』
「空?」
「星宮空ちゃんですか?」
『そうよ』
(あぁ、あのめんどくさい1年生か……)
初対面での印象がお互い良くなかったので、将真にとっては、あまり関わりたくない少女である。
だが、続く柚葉の説明が、そんな事を考えている場合ではないことを理解させる。
『昨日の早朝に出発したんだけど、まだ帰ってこないのよ』
「帰ってこない……?」
「でも、距離的には別段近い訳でもないし、遺跡探索なら時間かかっちゃうんじゃないですか?」
「いや、ちょっと待ってくださいっす」
リンの疑問は尤もだった。
遺跡探索というのは、第5階層を超えたあたりから、難易度が飛躍的に上がる。
そして中には、第10階層を超えるものもあるのだ。時間がかかるのは当然であり、場所によっては1日では済まないところもある。
だが、そこに莉緒が待ったをかけたのだ。
「空さんたちは1年生っすよ? 遺跡探索に行ってるって……、おかしくないっすか?」
「いやでも、実力さえあれば、探索は許可させるだろ?」
「そうっすね。でも、流石に空さんたちがいきなり高難易度の遺跡探索をやらせてもらえるとは思えない。となると、見つかった段階で難易度が低いと分かっている遺跡の探索……って事になるっす」
『名推理ね。まさにその通りよ』
「でも、国内の未探索遺跡はかなり少ないはずで、それも全部、難度の高い〈地底型〉のはずだから、目立つ〈建造型〉の遺跡ではないと思っす」
「じゃあ、〈洞窟型〉ってこと?」
確かに〈洞窟型〉なら、何かの拍子に隠れていたり埋まっていた入口が見つかることはよくあることだ。
そして、山中に存在するその遺跡は、上に上がっていくタイプの場合、山頂に遺跡が隆起していなければ、遺跡の部類としては、〈建造型〉の次に安全なのだ。
無論、遺跡探索という任務自体、そこそこの難易度になるのだが。
『その通りよ。そして〈洞窟型〉の中でも、考えうる限り安全性が高い遺跡だったの。でも、そうなるとおかしいのよ』
「おかしいって、何がだ?」
『あの子達には、『第5階層より先があるなら連絡を入れて』って、お願いしたのよね。で、連絡はなかったんだけど、第5階層より先がないなら、1日もかけずに帰ってこれるはずなのよ』
「それが帰ってこないってことは……」
「空ちゃんの性格から考えて……」
『独断専行した可能性が高いってこと。加えて、その後の連絡もないとなると……』
「何かあって、連絡ができない状態にある、って事か」
将真がその答えに行き着くと、肯定を示すように、画面の向こうで柚葉が頷く。
『何かあったのだとしたら、最悪手遅れって事も考えられるけど、まだ間に合う可能性もあると思う。だから……』
「了解っす!」
「仕方ねー。あんまり賢い判断じゃないけど、とばすぞ!」
「うん……!」
状況を理解すると、将真たちは抑えていた速度を解放する。
魔導師の全速力は、あえて強化しなくても、車並みだ。そして〈肉体強化〉を使えば、高速を走る車よりも速くなる。
そんな、先ほどの何倍ものスピードで、大急ぎで目的の遺跡へと全力疾走していった。
到着と同時、入口の奥から異様な魔力を感じて、将真たちは思わず息を呑む。
「こりゃあ、ちょっと嫌な予感がするっすねぇ……」
「遺跡の反応……、ぽくないな。何かやばいのがいるぞ」
「だとしても行くんだよね?」
リンの問いに、将真も莉緒も、当然のように頷いた。
確かに将真にとっては苦手な後輩だが、知ってしまった以上、見捨てるという選択肢はない。
リンにとっては大事な後輩なのだ。空たちの身に何かあれば、リンはきっと悲しむだろう。
「……何ヶ月ぶりだっけか」
「まずはガーゴイルっすね。大丈夫、前回よりはみんな、レベルアップしてるんすから」
「ボクは弱くなってると思うけどね……」
「いや、少なくとも基礎と技術は飛躍的に向上してると思うっすよ?」
莉緒のその言葉は、世辞ではなく本心だ。そしてそれには将真も同意であった。
魔導師としての、原因不明の弱体化。それを補うように必死で鍛錬を続けたリンの基礎能力は、今や遥樹にも匹敵する。
3人は臨戦態勢に入ると、慎重にその一歩を踏み出す。
直後、あちこちから湧き出すガーゴイルたちを見て、莉緒が深呼吸の後に気合を叫んだ。
「__行くっすよォ!」
「おぉっ!」
「うん!」
〈莉緒小隊〉とガーゴイルの群れによる、入り乱れての大乱戦が、開幕した。




