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終焉への反抗者《レジスタンス》Ⅱ  作者: 獅子王将
おてんば娘な後輩
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第18話『命を張る』

「__、うっ……」


目を覚まし、苦悶の声を漏らす空。

薄らとした視界には、薄暗い中でもわかる、大きな鉄柵が映し出されていた。

そして周囲を見渡してみると、その鉄柵が、四方を囲むような形状となっていた。

更に見上げれば天井。


「っ!」


完全に閉じ込められている。

それに気がついた空の意識が、完全に覚醒した。

そうして遅まきながら気がついたが、陸も海も、空と同じように意識を失った状態で、すぐ側にいた。

体を動かそうとすると、じゃらり、と地面を撫でる金属音が鳴り、うまく体が動かせない不快感を覚える。

視線を下げると、3人の足は、胡座をかいた状態で、足首を縛られていた。そして腕はもっと複雑に封じられていた。

3人は背中合わせに座っている状態で、腕を交差させられた状態で、それぞれ隣にいる者の腕と鎖で繋がれていたのだ。

これでは動けないのも無理はない。


「……陸、海。起きなさい」

『っ……!』


空が呼びかけると、意識がなかったはずの2人がピクリと動いて、ゆっくり瞼を開ける。


「……う、ぐ。空?」

「何がどうなって……」


2人は、徐に顔を上げると、空と同じく状況に気がついて戦慄した。

すると、檻の外にいた吸血鬼たちが空たちに気がつく。


「侵入者が目を覚ましました」

「マスターに報告を」

「迅速に行動を」

「__いや、いい。気づいてた」


少女たちの無機質な声が飛び交う中、一つだけ異質な、男性の声が混じって聞こえた。

そしてその声が聞こえると同時、海を割るように吸血鬼たちが両端へと分かれてその場を空け、その道を一人の男性が歩いてくる。


その姿を見て、空は気を失う前に何があったのかを思い出した。




「__〈エクス・ブラスター〉」


おそらく魔法名と思われるそれを口にすると、男性の姿がぶれ、次の瞬間には、陸の目の前に迫っていた。


「なっ__!?」


(速い!?)


その速度に、何とか反応しながら、陸はギリギリで防御態勢に入った。

〈肉体強化魔法〉を使って腕を交差させ、更に〈魔障壁バリアー〉まで張るという、普通なら一瞬という時間の中で発動しきれないような、全力防御。

そして振り抜かれた男性の拳は__いとも容易く、それらを打ち砕き、陸を吹き飛ばした。


「がっ……!?」

「陸っ!」


かなり強烈に、壁に叩きつけられた陸は、喀血してそのまま気を失ってしまった。

空が思わず声を上げたが、その間に男性は海の背後に立っていた。


「えっ……」

「フッ__」


振り返った海の顎を、男性の蹴りが撃ち抜き、海の意識も一瞬で刈り取る。


「うっ……」


余りにも一瞬の出来事。空は思わず男性から離れようと後ずさったが、そもそも逃げ場などどこにもない。


後方には、倒せなかったファフニールが。前方には、陸と海を一瞬で倒してしまった男性と、吸血鬼の少女の大群。


不測の事態を予想出来ず、無謀にも進むことを選んでしまった、空自身の落ち度だった。


(こんなの予測できるわけないじゃない! ファフニールが強い事くらいは想定してたし、それでも逃げるくらいはって思ってたのに……!)


誰に聞かせるでもない言い訳を心の中でしながら、目の前の絶望的な光景を受け入れきれない空。

その時、ふと脳裏を過ぎるものがあった。


おそらく男性は、高位魔族の〈マッド〉だろうと思われる。そして、同じ顔をした吸血姫の少女達を連れている。

空たちは、その話を聞いたことがあった。


「……あなた、まさか〈外道〉?」


空は、男性に問いかける。すると、男性は少し驚いたような表情を浮かべ、ついで笑みを浮かべた。


「残念、〈外道〉じゃないな。俺が〈マッド〉で、それも称号持ちである事は正解だが」

「じゃあ、その吸血鬼たちは……」

「お前が言ったその〈外道〉からの借り物だ」

「〈外道〉でないのなら、あなたは何なの?」


今のところ、知られている称号持ちの生きている〈マッド〉は2人。

存在そのものが確認されている〈外道〉と、名前のみがしられている〈大賢者〉だ。また新手が現れるとなると、空たちがどうこう以前に、〈日本都市〉としても厄介な事態となりうる。

少し冷静になってきた空は、ギリギリで恐怖を抑え込んで答えを待った。


そして、男性は空の問いにすんなりと答えた。


「俺は称号持ちの〈マッド〉。冠するのは、〈嫌悪〉だ」

「〈嫌悪〉……?」

「そうとも。俺は、魔導師(お前達)を嫌悪している」


話は終わりだと言うように、〈嫌悪〉は足を一歩、空に向けて踏み出した。

瞬間、空はいつでも反応できるように受けの構えをとる。

高速で空に向けて伸びてくる腕は、ガードを躱して襟元を掴んだかと思うと、有り得ない力で持ち上げられ、空は地面に、強烈に叩きつけられた。


「かハッ……」

「悪いな。俺は〈マッド〉の中では随一の戦闘能力を持っている。それだけじゃなく、魔族の中でも相当なものでな。お前のような子供には負けんよ」


(そんな……、〈マッド〉は戦闘能力ほとんど無いはずなのに)


薄れゆく意識の中で、空たちを捕らえるよう指示を出した〈嫌悪〉の声を最後に、地面に倒れ伏せた。




「……なんで、生かしたの?」

「何がだ?」

「なんで、私たちを殺さないのかって聞いてるの。生かしておく理由なんてないでしょう?」

「……魔導師は嫌いだよ。だが、あえて殺す理由もない。無用な殺傷は好まないのでな」


〈嫌悪〉が空たちを生かす理由は、とても魔族らしくないものだった。

だが、殺すつもりは無いのに、逃がさず捕まえたことに関しては、どうやら明確な理由があるらしい。


「お前達を捕まえておくのは、無用な邪魔をなくすためだ。逃しでもすれば、応援を呼ばれて厄介な事になる。自警団団長はなかなか出てこないかもしれんが、あいつに近い立場のやつが出てこようものなら、流石に太刀打ちできん」

「自警団の構成を知ってるの? どうして魔族が……」

「〈マッド〉が、どういう魔族かは知っているだろう?」

「もちろん知ってるけど……」


その生まれは2種類。

〈マッド〉や〈ウィッチ〉から生まれた、純血の魔族。

または、何らかの方法で体内に魔属性魔力を取り込み、魔族化した元魔導師だ。


「その通り。そして俺は後者__つまり、元魔導師。言うなれば、元同胞なわけだ。殺したくない、という理由は、そこにもある訳だが、理解してくれたか?」

「…………」


空は固く口を閉ざす。

内心では、理解出来なかった。それを口にした後の事を恐れて、口には出さなかったが。

裏切った以上は敵同士であり、もはや仲間でも無く殺し合う間柄だというのに、「元同胞だから」と理由をつけて殺さずにおくのは甘えである。

尤も、その甘えに生かされている空たちは、文句を言うつもりもないが。


そして、大人しく捕まっているだけでいるつもりもなかった。


「まさか俺たちが無抵抗のままでいるなんて、思ってないよね?」

「いや、お前達は無抵抗でいるよ。それが賢い判断だからな」

「無抵抗が賢い……? 冗談言ってんじゃねぇ__」

「別に、抵抗したければ好きに抵抗すればいいさ」


だが、〈嫌悪〉はあくまで、空たちの抵抗を拒絶するつもりはなかった。むしろ、その意思を尊重したいとすら思っていたのだが。


「まあ、この戦力差で、どうにかなると思っているなら、好きにすればいいさ」

「ぐっ……」


〈嫌悪〉の言う通りだった。

事実、〈嫌悪〉個人の実力だけでも、〈空小隊〉を上回るであろうことは、先ほど気絶させられた時に理解していた。

加えて、まだ戦ってはいないため、その実力はわからないものの、無数の吸血鬼の少女たち。

聞けばとある学生魔導師の少女の細胞から生まれたクローンだと言うが、吸血鬼である以上、その強さは十分な脅威となりうる。数が数だけに、余計にであった。


……だが。

実力差はともかく、対多数との戦いは、〈空小隊〉が得意とする戦況であるという事も事実だった。


空が現実に足止めされているところ、陸と海は、顔を見合わせると、互いに頷きあった。


(勝てるとは思わねぇけど……)

(そうだね、せめて……)


「__〈アースランス〉!」

「__〈水散弾〉!」

「わっ!?」

「何っ!?」


2人の予想外の行動に、空と〈嫌悪〉が驚愕した様子を見せる。

地面からは、無数の岩の棘。空中からは銃の如き貫通力を誇る水弾の雨。

抵抗されると思っていなかった魔族側は、完全な不意打ちに対処できず、何十体かのクローン吸血鬼が地面に倒れる。

どうやら吸血鬼と言っても、その再生能力は大したものではないらしかった。

陸と海にとって、唯一の救いは、拘束具が魔力を封じるものではなかったことだ。


或いは、魔術で枷を破壊することすら、予想の範疇だったのか。

〈嫌悪〉は確かに驚いていたが、「抵抗しても構わない」と言っていたのだから、抵抗される可能性を全く考えてないとは思えない。


とにかく、今の攻撃により、狙い通り、道を作ることが出来た。

すぐさま陸と海は、空を引っ張り、できた道を走り抜ける。

この暗がりに、目が慣れてきたということもあって、どちらに行けば逃げられるかは分かっていた。


そしてクローン吸血鬼たちが、予想通り空たちを追ってくる。

このままでは、追いつかれてしまう。それもまた、予想済み。


『よっ!』


陸と海は、下の階層へと戻れる階段の前まで来ると、担いでいた空をそちらに放り投げた。


「うわっ、何すんの!?」


当然驚いた空だが、身体能力は決して悪くない。

当たり前のように、宙でバランスを整えて着地した。


「ほら行け!」

「行けってどこへ!?」

「言わなきゃわからねぇか!? 逃げるんだよ!」

「ついでに、助けを呼んできてもらえると、ありがたいけどね」

「冗談行ってんじゃないわよ! あんた達置いて逃げるなんて……」

「俺たちにとっちゃ、お前に死なれたら全部終いなんだわ」


空の護衛として共にいる陸と海にとって、空の存命は何より優先。そして2人は、空の為なら命をかけることも厭わなかった。

だが、陸も海も、決して死にたい訳では無い。

だからこそ、死ぬ気は無い。


「助けを呼んでくれたら、来てくれるまでは持たせるよ。だからお願い、空」

「いやよ!」

「__うるせぇ、いいからさっさと行け!」


それでも聞かない空に痺れを切らして、陸が怒鳴りながらクローン吸血鬼たちへと突撃していく。

やれやれと言いたげに肩を竦める海は、すぐに陸のサポートに入った。


「空、お願い」

「……後で覚えてなさいよ!」


それだけ言うと、空は反転し、飛び降りる勢いで階段を降っていった。

逃しはしないと、〈嫌悪〉が吸血鬼たちに指示を出す。


「追え」

「行かせねぇよ!」

「通さないよ!」


階段に向かってくる、何十にもなる吸血鬼たちを、陸と海は、全力を振り絞って全て撃退する。


「……中々、厄介だが、それでも、一体も通さず行けると思うか?」

「まあ無理だろうが」

「数体程度なら問題ないよ。空は程度はともかく、優秀なオールラウンダーだから、自分で自分を守るくらいはやってのけるさ」

「そうか。ならば、お前達が何体通してしまうのか、試してみるとしよう」


〈嫌悪〉が言うと、今度は控えていた全てのクローン吸血鬼たちが動き出す。

陸と海は、表情を引き攣らせながらも、その場にしっかり踏みとどまった。


「さあ、やるよ。陸」

「当たり前だ。__よっしゃ、こいやあぁぁぁっ!」


海の言葉に、当然のように頷く陸。

大きく息を吸い、気合を叫ぶその覇気は、驚くべき事に一瞬だが、〈嫌悪〉たちをその場にとどめた。

そしてその事に〈嫌悪〉は、少しだけ笑みを浮かべた。


「まだ子供のくせに、よくやる__」


陸と海が、吸血鬼たちとぶつかり合う。


駆ける空と、急いで助けに来た〈莉緒小隊〉。

彼らが接触するまで、あと少し__だが、それを知るのは、その時、顔を合わせてからだ。

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