今日から僕は 140
「何が起きたんだ!」
近藤忠久中佐は、『那珂』のブリッジで、焼かれていく友軍機の映るモニターを見つめていた。閃光の中、同志達が焼かれていく光景はこれまでの本部勤務では仏頂面で通してきた彼には珍しく恐怖の表情を浮かべさせた。
「あれが資料にあった法術系兵器の威力だというのか?」
サーベルをぶら下げただけ、動きは訓練課程が終わったばかりというような敵機に翻弄され、壊滅した彼の部下達。
確かにエース揃いの保安隊には数で押すしかないと判ってはいた。
法術兵器の投入も予想はしていた。
『しかし、これほどとは』
沈痛な眼差しで映像を繰り返し見続けるブリッジクルー達。誰もがいかなる困難があろうと祖国・胡州の栄光の回復へつながる一歩としてこの決起に賛同して集まった兵士達だった。だが、目の前の実戦。しかも予想を超える敵の威力の前に言葉もなくただ画面を見つめるだけだった。
法術師の捕獲と言う最上の条件はすでに頓挫していた。もはや敵艦『高雄』の撃沈以外に選択肢はない。
「艦長!主砲発射体制は?」
「十分な観測データが取れていません!それに現在主砲射線軸上に友軍機が三機交戦中です」
おびえた顔の艦長。先日は近藤を前に彼等をこんな辺境に押し込めた宰相西園寺基義を罵倒していた豪快な彼の面影は無い。
近藤は深呼吸をすると彼の肩を優しく叩いた。
「彼らの命を無駄にしないためにも必要な処置だ。直ちに主砲発射体制に入れ!」
「……判りました。主砲発射体制!」
管制員達が復唱を始める。
『高雄さえ沈めれば、必ず異星艦隊は動く!高雄さえ!』
近藤は思わず親指の爪を噛む昔の癖が出ている自分に気づき、当惑した。
「主砲エネルギー充填完了!目標座標軸設定よろし!」
「主砲発射!」
艦長が声を絞り出した。同志に犠牲を出すことを覚悟しての言葉が悲痛にブリッジに響く。沈黙がブリッジを支配した次の瞬間。
すべてのモニターが消えた。
「どう言う事だ!」
近藤は叫んだ。
「判りません!すべてのシステムがダウン!艦内管制すべてカットされています!」
艦長が不安げな顔を近藤に見せる。近藤はただ呆然と正面の何も無い空間を見つめているだけだった。そして、敵に回したひねくれた顔の少佐の顔を思い出した。
「やられた!吉田少佐だ!艦内モニターはどうなっている!」
近藤は目の前が白くなっていくのを感じていた。
『すべての特機は陽動。本艦への白兵戦攻撃が本命か!』
「第23番脱出口の映像が生きています!拡大します!」
近藤は映された画面を見て絶句した。
「嵯峨……、惟基……」
帽垂付の遼南戦線向け胡州将校用略帽を被り、ダンビラを抜いて第六惑星3番衛星系連邦の特殊部隊上がりの精鋭を付き従えた大男が、はっきりとカメラのほうを意識して見つめていた。
『近藤君、見てるかね。まあ他に見るものもないだろうから、見といてくれよ』
カメラに向けてはっきりと嵯峨は言った。




