今日から僕は 141
『シャムは艦尾、マリアは手順通りに拘束された兵の救出にあたれ!』
珍しく発せられた嵯峨の命令を聞くと、二人は整列した隊員に命令を下した。きびきびと与えられた任務にかかる嵯峨の部下、近藤からすれば地球に魂を売った犬どもが動き始める。
『返事はいいや、聞こえてるんだろ?近藤君。俺はこれからそっち行くから、ちゃんと玉露と茶菓子でも用意して待っててくれや』
嵯峨はそう言うとモニターの画面から消える。
しかしすぐコントロールが奪われた艦内監視用カメラは次の映像、忍び足でブリッジへ続くエレベータのところまで行く嵯峨の姿を捉えた。
「連絡は出来んのか!」
近藤は叫んでいた。先の大戦の直前に地球との開戦を主張する軍部との政争に敗れて汚れ仕事を与えられても生き続けた不死身の指揮官の異名を持つ嵯峨。それと対峙する恐怖が彼の手の平に汗をかかせる。
「無理です、艦内の管制機器はすべて乗っ取られています!こちらからの操作に一切応じません!」
「近藤中佐。とりあえずここのクルーだけでも武装の許可を」
暗い面持ちで語りかける『那珂』艦長。
「すぐさま白兵戦闘に向け準備にかかれ!」
帽子を被りなおしながら静かに言葉を搾り出した近藤。
クルーは一斉に足元から自衛用のサブマシンガンを取り出してマガジンを差し込むとボルトを引き装弾する。
画面の中では突然の事態と連絡もなく現れた嵯峨の存在に驚きながら、拳銃をホルスターから出そうとしては惨殺されていく同志の姿が映し出されている。
『ずいぶんな歓迎だな!だがもう少しましな連中を用意してくれよ。これじゃあ俺が弱いものいじめしているようにしか見えないじゃねえか!』
嵯峨の上半身は5人目のクルーを斬った頃には、返り血で紅く染まっていた。
「本当に一人で来るつもりなのか?」
「一箇所だけ、この部屋のドアの開閉は操作可能です!」
補助通信士が呆然と画面を見つめている近藤に伝わった。
「そうか、全員の武装は終わっているか?」
自分の言葉が震えているのがわかる。かつて彼が立案し、頓挫した作戦で死んでいった指揮官はこんな気持ちだったのか。そう思うと皮肉にも笑みすら浮かんでくる。
「大丈夫です。中佐はどうされます?」
「私はいい」
腰のホルスターに手をやった近藤だが、すぐに手を引っ込めた。
『所詮は刀のみ装備した敵だ。一斉射すれば蜂の巣にできる』
近藤はそう確信していた。
しかし、おそらく吉田が近藤に恐怖の味を見せ付ける為だけに映っている画面で、もう十二人目の同志である機関員を袈裟懸けにした嵯峨の妙に余裕のある瞳に一抹の不安を感じていた。
「ったく、部下を捨て駒にするたあ、やっぱり政治家ぶら下がりの本部付きエリートは考えることが違うねえっと」
十三人目の前部ミサイル砲手の首が胴を離れ、頚動脈からあふれる血が天井を染める。
『何を考えている!あいつは何を考えている!』
ブリッジ要員は全員ドアに銃口を向けたまま待機していた。
モニターの中の嵯峨はエレベーターにたどり着き、ブリッジのある最上階のフロアーに到着した。




