今日から僕は 120
朝食時とあって、食堂は各部署の隊員が混ざり合い、混雑しているように見えた。
事実、食券の自販機の前では整備班員達が談笑しながら順番を待っている。
「よう!誠」
声をかけてきたのは島田だった。
この所、05式の調整にかかりっきりだった彼をしばらくぶりに見て、誠は少し安心した。
「島田先輩。それにしても混んでますね」
「まあな。たぶん安心して飯が食える最後の時間になりそうだからな。最後の飯がレーションなんて言うのはいただけないんだろう」
そう言うと島田は特盛牛丼のボタンを押す。
「奢るけど、誠は何にする?」
「いいんですか?それじゃあカツカレーで」
食券を受け取り、厨房の前のカウンターに向かう長蛇の列の後ろに付いた。
「しかし、ようやく様になってきたらしいじゃないか。模擬戦」
話を振る島田。
「許大佐から聞いたんですか?様になったと言ってもただ撃墜される時間が延びただけですよ」
「謙遜するなって。どうせ近藤一派の機体は、旧式を馬鹿みたいに火力だけ上げた火龍だ。観測機でも上げてこない限り05(まるご)の敵じゃないよ」
列はいつになくゆっくりと進む。
食堂で思い思いに談笑し、食事を頬張る隊員達もいつになくリラックスしている。
「でも、大したものですね保安隊は、戦闘宙域まで数時間と言う所でこんなにリラックスできるなんて」
誠のその言葉に島田は怪訝な顔をした。
「そうか?俺もここには設立以来、と言っても二年前からだけど、いつもこんなもんだぜ。まあ、東和軍はここ二百年も戦争やってない軍隊だから緊張感とか無理に作らなきゃ出ないもんだがな。それとも幹部候補生は見る目が違うのかな」
皮肉めいた調子で島田は話す。
島田は技術系の専門職コースで、東和軍でも比較的出世が遅いコースである。
遼北の技術士官の出世頭、明華には比べるまでも無いが、ゲルパルトの技術系士官コースのヨハンより格下の曹長である。一応少尉扱いの誠を嫉妬するのも頷けた。
「幹部候補と言っても、それは軍学校から本部詰めの後、地方を回る連中のことですよ。僕みたいにいきなり出向ってのは縁が無いですよ出世なんて」
「確かに。お前が出世するとこは想像できないしな。でも実戦で手柄立てればいいんじゃないのか?東和軍ではせいぜい紛争地帯で白塗りの機体をバリケード代わりにして突っ立ってるくらいしか出番ないし」
「どうですかね」
誠は思わず苦笑いを浮かべる。
「汁ダク、ねぎダクでお願い!」
カウンターに到着すると島田は炊事班にそう告げた。
「こっちは福神漬け倍で」
つい誠もいらない競争心を発揮する。
「はい特盛牛丼、汁ダク、ねぎダクにカツカレーお待ち!」
島田はドンブリを、誠はトレーにカレーの入った皿を載せて空席を探した。
「正人!こっちあいてるよ!誠ちゃんもこっち来なよ」
遠くで燃えるような赤い髪が目立つ、ショートヘアの女性士官が手を振っている。
隣はピンク色のロングヘアの女性士官が突っ伏している紺色の髪の女性士官に何か話しているのが見える。
「サラ!サンクス!誠。ついて来い」
島田に導かれ、誠はまっすぐにサラ、パーラ、そしてどう見ても二日酔いのアイシャの待つテーブルへ向かった。




