今日から僕は 119
要は酒を口の中に流し込む。
アイシャは角煮を頬張る。
カウラはその様子を心地よい笑顔で眺めている。
「なんか遠足みたいな感じですね」
誠は自分より年上に見える女性三人に囲まれて、つい間が持たずに口を滑らせた。
「遠足?」
また要が噛み付く下準備をする。
「私とカウラは遠足なんてした事ないから。今回の任務が終わったら夏よね。私は艦長候補研修があるから難しいけど、カウラは何処か行くの?」
「特に予定はない。それ以前に無駄に動き回るのは私の性に合わない。神前、そこのオレンジ色の小さなセンベイもらっていいか」
「いいですよ。僕は角煮食べるんで」
カウラはいつものように感情が入っていない声で答えた。
「要ちゃんは里帰り?」
「馬鹿言うな。アタシは実家とは縁切ったんだ!」
「そう?ただ康子様と楓ちゃんに会いたくないだけなんじゃないの?」
図星を突かれてうろたえる要。
得意げに鼻歌を歌いながらアイシャはコップの底の酒をあおる。
「おい、アイシャ。飲みすぎじゃないのか?」
珍しく要が上機嫌のアイシャに声をかけた。
「飲みすぎ?そんなんじゃないわよ!ただ少し気分がいいだけ。ねえ!誠ちゃん!」
誠は思った。
明らかにアイシャは出来上がっている。しかもここは誠の部屋だ。どこにも逃げようが無い。
「カウラ、こいつ連れて帰るぞ」
要が心配そうな表情の誠に気を使ってカウラに声をかける。
カウラも頷くと足をじたばたさせながらわけのわからない言葉を連呼するアイシャを押さえつけた。
「襲われるー!助けて!誠ちゃん!ビアン=ドS大帝、西園寺要がー!!」
「うるせえ!馬鹿!人が来たらどうすんだ!」
要がどうにかアイシャを背負い、カウラが後ろからそれを支える。
「大丈夫ですか?」
申し訳ない。そう思いながら誠が要に声をかける。
「しかし、初めてじゃないのか?神前。テメエがうちに来てから他人が潰れるの見るの」
にやりと笑いながら要が誠の瞳を見つめる。
「じゃあ!出発!進行!」
「まったく何を考えているのか……、要!大丈夫か?」
カウラはアイシャがきつくしがみついているのを見ながら立ち上がった。
要はそのままアイシャを背負って部屋から出て行く。
カウラは少し遅れて部屋を出ようとするが、また誠の前に戻ってきた。
「神前少尉。頼みがある」
緑の前髪がこぼれる額、透き通るような頬を少し赤らめてカウラは言った。
「頼みですか?」
「そうだ」
誠は正直カウラの心が読めずにいた。
「もしこの作戦が終わったら、一緒に海に行ってくれないか?」
突然の誘い。
誠は正直戸惑った。
「それほど深い意味はない。ただ戦場で生き抜くには生き抜いた後になにか頼るべきものが必要だと……本で読んだのでな」
カウラの声が次第にか細くなる。
ひたすら時を待ち、言葉を伝える機会を待っていたようで、かすかに顔にかかる緑の髪が震えている。
「分かりました。約束しますよ」
「そうか!ありがとう」
溢れるような、太陽のような笑みがそこにあった。
誠は心からの笑顔を浮かべながら部屋を出て行くカウラを見送った。




