09. 回想(ユーディーン)
七歳だった。
――紫の瞳は不吉の象徴。その瞳を持つ者は不幸を呼ぶ。
国王の三番目の子供として産まれた、俺の瞳の色は、不幸を呼ぶという紫色をしていた。
魔力量の多い俺を産んだ母親である王妃は、俺を産んですぐに亡くなった。まさに不幸を呼んだわけだ。
この国で最も忌み嫌われている紫の瞳を、王族が持って産まれたと知られるわけにはいかない。そう考えた側近たちによって、産まれてすぐに俺は、王宮の奥深くに隠された。
父や兄が暮らす場所から隔離されて、少ない数の使用人たちに世話をされながら暮らした。
紫の瞳の王族がいることが外部に漏れないように、俺の目は包帯で覆われた。包帯には魔力封じの術式を何重にもかけられた。
それでも膨大な魔力のすべては封印できなかったので、漏れ出た魔力で周囲を探知して生活を送った。
最初の頃は、乳母や侍女が世話をしてくれた。年齢が進むと、家庭教師をつけられて、王族としての最低限の教育を受けた。
王族として公の場に出ることは一切なく、父や兄たちと会うこともなかった。
学校に行くことは許されず、遊び相手は乳母と侍女だけという別棟での日々は、正直退屈だった。
あの日は、いつもは俺の近くにいる侍女も乳母も、誰もいなかった。
いま思えば、王太子のためのお茶会の手伝いに、侍女たちも狩り出されていたのだと分かるが、そんなことは知らないあの頃の俺は、数少ない遊び相手が居なくなって退屈で寂しくて、部屋を抜け出しそのまま庭へと出てしまった。
そこで運悪く、少し年上の男児たちに出くわしてしまった。
目元に包帯を巻いたうえ、その包帯には変な文字が書かれているのだ。そんな変わった外見の俺は、お茶会に退屈していた彼らにとっては、格好のおもちゃに見えただろう。
庭で色んな方向に散らばった奴らは、俺から奪ったクマのぬいぐるみを、ゲラゲラと笑いながら投げあった。泣きながらクマのぬいぐるみを追いかける俺のことを、奴らは楽しそうに見ていた。
追いかけることに疲れた俺の足が止まるまで、その悪趣味な遊びは続いた。そうやってひとしきり俺のことをいじって泣かせて、最後は遊び飽きていなくなった。
静かになった庭にひとり残された俺は、悲しくて悔しくて、木の下にうずくまって泣いていた。
どのくらい泣いていたのか分からないけれど、気が付いたら近くに人の気配がした。
「どうしたの? どこか痛いの?」
突然声をかけられて驚いたけど、その人の声はとても優しかったので、俺は安心した。
声の持ち主は、泣きながら話す俺の話をちゃんと聞いてくれて、奪われたぬいぐるみを探してくれた。
見つけてもらったぬいぐるみは、乱暴に扱われたのか腕が外れそうになっていた。
そこでまた泣き出す俺に、その人が治してあげると言ってくれた。
しばらくすると、その人の周りから魔力があふれてきた。
包帯で見えなかったけれど、暖かくてとても綺麗な魔力だった。再び渡されたクマのぬいぐるみは、腕もきちんとくっついて元どおりになっていた。
紫の瞳は不吉という話もあっさりと否定してくれたその人に、俺は恋をした。
顔も名前も知らない年上のお姉さん。
俺が探している事が周りに知られたら、お姉さんに迷惑がかかるかもしれない。そう思った俺は、誰にも話さないで見つけ出すと決意をした。声と、一瞬だけ見せてくれた魔力。それだけを頼りに、俺は再会を待ち望んだ。
『また会える』と言ってくれたのは、魔塔で会えるという意味だと思った。
あれだけの魔力の持ち主だ。必ず魔塔に入るはずだ。そう考えた俺は、通常は十二歳の魔力検査を終えてから入る魔塔へ、特例を使って十歳で入った。
先に入っているはずのお姉さんに会えると、魔力検査を繰り上げてまで入った魔塔に、お姉さんはいなかった。
十一歳になっても、十二歳になっても、お姉さんは魔塔にあらわれなかった。絶対に年上のはずなのに、あれだけの魔力量なのに、なぜあらわれない?
それでも諦められなかった俺は、あの日のお姉さんを探し出すために研究に没頭した。そして、王国全土に展開する魔法防衛システムを構築して、あの日の魔力の気配を探し続けた。
それでもお姉さんの魔力を見つけ出すことはできなかった。
どんな微少な魔力でも探知するシステムなのに、なぜ見つからない?
これは、国内にいないのでは? そう考えた俺は、魔塔内部での実績を積み上げて、最年少で魔塔の塔主になった。そうして魔塔の塔主として、国外の会議に国の代表として参加しながら、お姉さんを探し続けた。
それでも見つけることができなくて、もしかしたらもうこの世には存在しないのかもしれないと諦めかけていたら、まさか魔塔の目と鼻の先の王宮にいたなんて。
――しかも、兄上の婚約者だったなんて。




