10.詰問
「泣き虫ちゃん? 何だよそれ? そんな事より、今頃なんで魔塔入りしようとしてんだよ?」
十年ぶりの再会だというのに、いきなりユーディーンに詰問を受けるソフィア。
「えーっと、アサオキタラ、キュウニマリョクニ、メザメタノデ……」
「うわ、ソフィア様、それをユーディーン様にも言っちゃうんですか……」
白々しい例の台詞を述べるソフィアを、あきれたような目でノヴァが見る。
「嘘つけ! あんた十年前に王宮の庭で会った時から、すげー魔力持ってじゃねーか」
元王族の割には、ユーディーンは言葉遣いが悪い。
幼い頃から離れに隔離されて、人とあまり接することなく暮らしてきた上に、十歳で魔塔に入ったことも影響している。
魔力を持つ者を集めた魔塔では、元貴族や平民がフラットに生活を送っている。元の身分など関係なく、魔力の強さで上下関係が決まる実力主義の世界だ。そのため魔塔内部ではフランクな口調が基本だ。
ユーディーンの言葉使いが元王族らしくないのもそのためだ。
「あら、なんのことですの?」
なおもとぼけるソフィアに、ユーディーンは本棚の一角に置いてある、茶色いクマのぬいぐるみを指さした。
「俺の大切なクマのぬいぐるみ、あれを魔法を使って元に戻してくれただろ? あん時のあれ、後から調べたら時間遡及の魔法だったぞ? それを無詠唱でやってみせるとか、あんたどんだけ能力あるんだよ!」
「ええっ! 時間遡及魔法って、今は失われた古代魔法ですよね? それを無詠唱で発動するとか、ソフィア様なんて恐ろしい……」
ノヴァがソフィアのことを、化け物を見るような目で見てくる。……失礼な。
「あら、そんなに凄い魔法でしたの? てっきり『泣き虫ちゃんの大事なお友達のぬいぐるみが元気になる魔法』くらいの認識でしたわ」
「あんたなぁ……。それで? なんで今まで魔力持ってないふりしてたんだよ? ていうか、今までどうやってその膨大な魔力隠してたんだ?」
「……さすがに魔塔の塔主様の目は欺けませんわね。しかたありません教えてさしあげますわ! すべては、ダリウス様の隣に立つためでしたの! それを成し遂げるためにわたくしは、わたくしの持つ全魔力を使って魔力を封じておりましたの!」
「……は? そんなくだらねー理由で、そんだけの魔力を封じてきたのかよ? だから見つからなかったのかよ……」
ユーディーンは信じられないものを見るような目で、ソフィアを見た。
「あら、他人にはくだらない理由かもしれませんけれども、わたくしにとっては世界で一番、何よりも大切なことでしたもの」
「なにドヤってんだよ……。じゃあなんで今さら、魔力開放して魔塔に来たんだよ?」
「それは、ダリウス様がメイベル様に恋をされたからですわ!」
力強く両手を合わせて、祈りのポーズを取るソフィア。目もキラキラとしている。
「……誰だよ、メイベルって」
こめかみを手で押さえながら、ユーディーンが聞いてくる。
「メイベル・クラレイン伯爵令嬢ですわ! デビュタントしたばかりの十七歳の、とっても可愛らしくて、とっても聡明なご令嬢ですの! ダリウス様とメイベル様、お二人は互いに惹かれ合っていらっしゃるのです!」
「……で? 婚約者のあんたは身を引いたってワケか? けどなんでそれで魔塔に? ……あれか……毒杯、か?」
「あら、そこまで気付かれましたの? さすが元王族ですわね! そうです、王太子の婚約者が婚約を解消する時には、毒杯を飲むのが王家の習わし。でもわたくしが毒杯を飲んだら、お優しいダリウス様は苦しまれてしまいますわ。ですからなんとしても毒杯を回避する必要がありましたの!」
「……それで、魔力が後発的に発現したことにして、魔塔に来たってわけか……」
「ええ、そうなのです! さすが魔塔の塔主様、理解されるのがお早いわ!」
嘘をつくことが苦手なソフィアは、完璧な計画? を人に話せたことでスッキリとしている。
その一方でユーディーンは、死にそうな顔をして顔を手で覆った。
「……俺は、あん時からずっと、あんたを探してたっていうのに……こんな近くにいて、しかも、兄上の婚約者だったなんて……」
「あ! ユーディーン様がずっと探していた初恋の人って、もしかしたら……?」
「ノヴァ、余計なことを言うんじゃねー」
覆った手の隙間から、ユーディーンがノヴァを睨む。
「うわっ、やばっ!」
ノヴァが失言に気付いて青くなるも、言ったことは取り消せない。そしてソフィアが耳ざとく聞いていた。
「ずっと探していた初恋の人?」
ソフィアにそう尋ねられたノヴァは、チラとユーディーンの顔を見た。相変わらずすごい顔で睨まれていた。
「……え~っとですね、ユーディーン様が国際会議に出かけては数か月もの間帰ってこないのは、幼い頃に出会った初恋の人を探しているからだと、魔塔の中では有名な話でして……」
ノヴァは、バラしてしまったことを申し訳なく思い、心の中でユーディーンに手を合わせる。
「あら……もしかして、その初恋の人って、わたくしのことですの?」
ユーディーンを見ると、顔を覆っていた手で、今度は頭を抱えていた。
「ああそうだよ! 俺はあんたをずっと探してたんだよ! 魔力持ちだし年上だし、絶対に先に魔塔に入ってるはずだと思って、人より早く魔力検査受けて、普通の奴らより三年も早く魔塔に入ったっていうのに、あんたいねーし! 包帯巻いてたから顔は見えなかったけど、魔力の形は覚えてたから、魔法防衛システム作って国中探したけど、あんたの魔力は見つけられなかった! もしかしたら国外にいるのか? って思って、塔主になって国外行って探しまくっても見つかんねーし! もうこの世にいないのかって諦めかけてたのに、こんな近くにいて、兄上の婚約者だったとか、何の悪夢だよ……」
ユーディーンは、長年の思いを一気に吐き出した。
「え、ユーディーン様……もしかして、魔法防衛システムを作ったのって、ソフィア様を見つけるためだったんですか?」
「ああ? そーだよ、そのために作ったんだよ」
「ひえ~、怖! 尊敬する上司に言うのも何ですけど、初恋の女性を見つけるために、あんな壮大なシステムをたった一人で構築するとか、ヤバすぎじゃないですか!」
「……ついでに国も守れてるんだから、別に問題ねーだろ」
「国防がついでなんですか! そこは逆ではないですか……?」
ノヴァがドン引きしていると。
「え、では、魔力開放した今、わたくしの行動はユーディーンに常に知られているということですか? 嫌だわ、プライバシーの侵害ではなくて?」
「必要なとき以外は探知しねーし! あんた見つかったんだし今は見てねーよ!」
「え~、本当かしら?」
令嬢らしからぬ疑いのまなざしを向けてくるソフィアに、ため息をつきながらユーディーンが反論する。
「はぁ……そういうお前だって、兄上の婚約者になるために、その膨大な魔力を隠し続けるなんて、正気の沙汰じゃねーだろ?」
「あら、わたくしのあれは、ダリウス様への一途な恋心を抱いた結果、たまたまそうなっただけですわ」
そう言いいながら頬に手を当て、恥ずかしそうに頬を染める。
さすがにあれだけの大規模な魔力封印を、乙女の恋心の一言で済まそうとするソフィアに、ノヴァまでもが引いている。
「そんなら俺だって、初恋の優しいお姉さんに再会するための純粋な思いの成果だよ、魔法防衛システムは!」
残念な人たちを見るような目で、ノヴァが二人を見ながら。
「ベクトルは違いますけど、お二人、似たもの同士だと思いますよ……」
「似てねー!」「似てませんわ!」




