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王太子に失恋をした公爵令嬢は、毒杯回避のために入った魔塔で、激重感情を向けてくる泣き虫な塔主の初恋を成就してあげる   作者: 水路


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05.魔塔住人との交流

 現れた青年は黒いローブ姿をしていることから、魔塔の住人のようだった。

 

 「初めまして、ソフィアと申します。本日よりこちらにお世話になるためにやって参りました」


 青年は、魔法文字による結界が張られた扉を開けて中へと入ってきた、サラサラの白金の髪色の、美しく優雅な侵入者を見て。


「え、うわ、凄い美人が現れた。え、どなたですか? というかどうやって塔の中へ?」


 「? 扉を開いて入りましたわ」

 

「そういう事ではなくてですね……えーっと、中に入って来たということは、あなたは魔塔の住人でしょうか? いや、でも見覚えありませんし…… あ! もしかして新人さんかな? いやいや、どう見ても十二歳には見えない……え、なにこの美人? いったい何者?」


 パニックになっている青年に。


「申し訳ありません。勝手に入り口を開けて入ってしまいまして……」


 不法侵入をしたことに気付いたソフィアが、申し訳なさそうに謝る。

 その姿も優雅で、それを見た青年は慌てて。


「いえ! 驚いてしまい申し訳ありません! えーっと、中に入れたということは、ソフィアさんは魔力保持者ですよね? この国で十二歳以上の魔力保持者は、基本的に魔塔に登録されているので、僕が把握をしていないはずがないので……。あ、申し遅れました、僕はこの魔塔の管理業務をしています、ノヴァと言います」


 そう言うとノヴァは、人懐こい笑顔を見せてきた。


「ノヴァさんですね、よろしくお願いします」


 その言葉に安心したソフィアは、笑みを浮かべながら応える。

 

「うわ、美人の笑顔! 眩し!」


 光を遮るように片手を顔にかざすノヴァ。


 王太子妃教育で培ったロイヤルスマイルを、無自覚に出てしまうソフィアだった。

  

◇◇◇


 一階の受付フロアを離れ、上階へと続く階段を登る二人。


「それで、ソフィアさんは、どうして魔塔へ?」


「……アサオキタラ、キュウニマリョクニメザメタノデ、マトウニヤッテキマシタ?」


 ソフィアは、事前に準備をしておいた、魔塔へやってきた理由を口にする。


「え、片言? すごい棒読みだし、目が泳いでるし、最後なんで疑問形なんですか?」


 不審げな視線がノヴァから送られてくるが、どう思われようともこれを貫き通すと決めていたソフィアは、無視を決め込む。


「……」


「……」


 先に折れたのはノヴァだった。


「はぁ~……色々と聞きたいことはありますけど、とりあえず、ソフィアさんにどのくらいの魔力があるのか検査しましょう。後のことはそれから決めましょう」


◇◇◇


 魔力検査を受けるために案内された部屋は、蝋燭の明かりがひとつだけ灯された薄暗い部屋だった。


 床や壁、天井全体に魔法文字が書かれているようだが、部屋が暗すぎて、目を凝らしても読み取ることはできなかった。 

 部屋の中央には、細長い足つきの小ぶりな台があり、台の上には水晶玉のような球体が置かれている。

 ソフィアが十二歳の時に受けた、魔力検査で見たものと似ていた。


「この魔力測定装置に手をかざすと、魔力がある場合は玉が光ります。光の強さで、その人がどのくらいの魔力量を持つのかを計ることができます」


 魔力を封印していた十二歳の検査では、もちろん測定器は光らなかった。そのためソフィアは、自分の魔力量がどれくらいあるのかを知らない。


 装置の準備が終えたノヴァから、球体に手をかざすように言われたソフィアは、素直に手のひらを球体へと向けた。


 その瞬間。


「きゃっ」


「うわっ!」


 ソフィアが魔力測定器に手をかざした途端、装置から閃光が放たれ、強烈な眩しさが部屋一面を覆った。

 あまりの眩しさに、二人は目を開くことが出来ない。


「眩しいですわ! これからどうすればいいのですか?」


「とりあえず手を! 手を測定器に向けるのをやめてください!」


 指示を受けて、ソフィアが測定器から手を離すと、球体はゆっくりと光を失い、部屋は元の薄暗さへと戻っていった。


「……ふぅ、驚きましたわ。まだ目がチカチカしているようです」


「え、何なんですか? 何この魔力? 怖!……ソフィアさんの魔力量って、もしかしてユーディーン様に匹敵するくらいあるのでは……」


 球体を前に呆然と立ち尽くしながら、ノヴァが呟いた。


「ユーディーン様?」


「ソフィア様はご存知ないのですね? ユーディーン様は、この魔塔の塔主様で、この国、いえ、この大陸で一番の魔力量と才能をお持ちの魔法使いです!」


「まあ、とても凄い方ですのね」


 ソフィアは魔塔の塔主と聞いて、白く長い髭を生やした、絵本の中に出てくるような老魔法使いを頭に思い浮かべる。


「ユーディーン様は、魔力量もさることながら、数々の新しい魔法やシステムを開発された、素晴らしい魔法の才能をお持ちの、天才魔法使いなのです!」


 先ほど頭に思い浮かべた白髭の老魔法使いが、長い杖から強烈な魔法を繰り出す場面を想像しながら、以前、王宮で聞いたことがある、とある噂を口にした。


「確か、王国全土を守るための強力な魔法防御システムを、たったお一人で構築されたという凄い魔法使いが、今の魔塔の塔主様だと聞いたことがありますわ」


「そうなんです! ユーディーン様は、この広大なシグネシア王国全土を覆う魔法防衛システムを、たった一人で構築された、とんでもない方なのですよ!」


 ノヴァが興奮気味に話す、王国全土を覆う魔法防衛システム。 

 シグネシア王国は現在、微少な魔力でも感知ができる、超精密な魔力防御の術式に全土が覆われている。 

 そのシステムが稼働始めて以降は、恐ろしいことに、一度も外敵の侵入を許していない。

 また、国内で発生する魔物の出現についても瞬時に察知して、連携を受けた騎士団が動くようになっていて、鉄壁の国土防衛システムとして、諸外国からは驚異の目を向けられている。

 そんな、桁外れの国土防衛システムを、たった一人で構築したのが、天才魔法使いで魔塔の塔主でもある、ユーディーンその人だ。


「魔塔の住人である僕たちにとっては、ユーディーン様は憧れの存在なのです! きっとソフィアさんもユーディーン様の魔法を見たら、その素晴らしさに感動するはずです!」


 ノヴァからキラキラした目で言われても、ソフィアにはピンとこなかった。

 魔塔の活動は国家機密なので、何をやっているのかは表にあまり出てこない。また、普通の人々が魔法使いと接する機会もあまりない。

 ソフィアも例外ではなく、今までに魔力持ち、ましてや魔法使いと接触する機会などほとんど無かったので、いまいち凄さが分からなかった。


「ソフィアさんにも、早くユーディーン様に会ってもらいたいのですが、あいにくユーディーン様は国外の魔術会議に参加されていまして、あと二か月程は魔塔に戻ってこられない予定なのです」


 二か月も塔主が塔を不在にして大丈夫なのだろうか? と思ったが、別に塔主が不在でも、防衛システムがきちんと稼働していれば問題ないのだろう。


「それで大変申し訳ないのですが、ソフィアさんの魔力量の場合ですと、ユーディーン様の指示が必要です。それまでは魔塔の外に出ることもできません。しばらくの間は客人として、魔塔に滞在していただくことになります」


「わたくしはすぐにでも魔塔の住人になりたいのですけれど……」


「さすがにこの魔力量は、僕たちでは判断が下せません。すみませんが、やはりユーディーン様に確認していただく必要があるのです」


 すぐに魔塔の住人になり、適性に合った仕事に就きたいと思っていたソフィアだったが、これは今まで休む間もなく王太子妃教育を受けてきた、自分へのご褒美なのかもしれないと、提案を受け入れることにした。


「あの~、ところでソフィアさんは、魔塔にやってくる前はどういったご身分の方だったのでしょうか? ……その気品ある立ち居振る舞いからして、かなりの身分のお方では?」


 鞄を持ち、滞在塔へと案内しながらノヴァがそう尋ねてきた。


「わたくしですか? わたくしはここに来る前までは、公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者をつとめておりましたわ」


「は、え? 公爵令嬢で王太子殿下の婚約者? めちゃくちゃ高貴なお方じゃないですか! 僕、失礼でしたよね! 大変申しわけありませんでした!」


 想像以上の身分の高さを聞いて、ノヴァが土下座する勢いで謝ってくる。


「あら、元ですわ、元。それに、魔塔の中では身分は関係ないのでしょう? なんの問題もありませんわ」


「いいえ! 魔塔での処遇が決まるまでは、ソフィアさん、いえ、ソフィア様は公爵令嬢のままです!」


「あら、そういうものなのですね」


「そういうものなのです! それから僕のことは、ノヴァと呼び捨て呼んでください!」


 こうしてソフィアの魔塔暮らしが始まった。


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