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王太子に失恋をした公爵令嬢は、毒杯回避のために入った魔塔で、激重感情を向けてくる泣き虫な塔主の初恋を成就してあげる   作者: 水路


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04. 魔塔へ

 ダリウスへ婚約の解消を申し出たソフィアは、王宮の自室へと戻った。

 王太子の婚約者のために用意されたこの部屋で、ドレスから簡素な服へと着替え終えると、八年間を過ごしてきた部屋へと別れを告げ、鞄ひとつで部屋を出た。

 長い廊下を進み王宮の入り口へと辿り着くと、門番へ挨拶をして外へ出る。

 いつもであれば馬車を使って市街地へと向かうところだが、今日は異なった。

 市街地とは真逆の方向、王宮の裏手にある森へと、ソフィアは歩き始めた。


 もしもソフィアが、毒杯を飲んで死んだとしたら、真面目で責任感のあるダリウスのことだ、罪の意識を背負ってしまうだろう。 

 自分のせいでそんな思いはさせられない。

 ダリウスには幸せになって欲しい。それがソフィアの願いだ。

 

 そのためにソフィアは、魔塔を目指した。 


◇◇◇


――魔塔――

 王宮の敷地の一番奥、森の中にそびえ立つ塔。シグネシア王国で高い魔力を持つ者たちを集めた、王家が管理する施設。

 塔の存在自体が国家機密として取り扱われているため、魔塔全体が認識阻害魔法で覆われている。

 塔に近づかない限り、その存在は認識されない。

 

 王国では十二歳になると、全土一斉の魔力検査を受けることが義務付けられている。

 検査の結果、高い魔力を持つことが判明した者は、魔塔へと集められる。 

 集められた高魔力保持者たちは、魔力の研究や、新たな魔法の開発を担う。また、王国の騎士団と連携し、魔物の討伐や外敵との戦いにも赴く。

 魔力の応用と直接行使、二つの面から、王国に多大な貢献をしている組織だ。


 魔塔に入るときには、それまでの血縁関係や身分は喪失する。

 俗世から離れて、魔力の量や適正に合った職務に就く。そして魔塔で一生を過ごすことになる。

 

 ソフィアは今回の婚約解消を申し出るにあたり、ダリウスが苦しまずに済み、かつ、自分も命を落とさない、最善の策を模索した。


 その結果導き出した答えが、自らが魔塔入りすることだった。 


 王宮の敷地内にあり、世間からは隔絶された場所である魔塔。機密の持ち出しも厳しく管理されているため、ソフィアが知りすぎてしまった王家の情報も、外に漏れ出すことはない。


 ソフィアが死なないので、ダリウスは罪悪感を抱える必要がなくなり、ソフィアも毒杯を飲まなくて済む。

 一石二鳥の素晴らしい計画だった。


◇◇◇


「やっと着きましたわ!」 


 王宮の敷地内ではあるものの、敷地の最奥の場所であるため、ソフィアの足ではかなり時間がかかった。

 ようやく辿り着いた魔塔は、森の中にいきなり出現した、巨大な建造物だった。

 まっ黒で窓ひとつない、高くそびえ立つ塔。上の方は認識阻害の影響かよくは見えない。建物の入り口箇所には重厚な扉。扉には、外部からの侵入を拒むように、魔法文字で紋様が描かれていた。


 ソフィアは扉の前に立つと、足元に鞄を置いて魔法文字を見つめる。


「下調べをしてきたとおりですわ」


 ソフィアはとても優秀な王太子の婚約者だった。婚約者となってからは、特権で入れるようになった王宮図書館で、古今東西の書物を読み漁った。

 中には魔法について書かれた書物や、王家所有の禁書も存在した。

 

 今回の魔塔行きに際して、ソフィアは入念に事前調査をしてきた。


「……まあ、魔塔については機密が多くて、あまり情報は拾えませんでしたけれど、入り口の開け方くらいは分かりましたわ」


 そう言うとソフィアは、扉に向かって手をかざす。


「久しぶりに魔力を開放するので、少し緊張してしまいますわね」


 実はソフィアは魔力持ちだ。それも膨大な量の魔力を持っている。

 十二歳の全土一斉の魔力検査で魔塔へ入らなかったのは、ひとえにダリウスに恋心をいだいたためだった。


 魔力持ちが判明してしまうと、魔塔入りが決まる。それではダリウスの隣には立つことはできない。

 

 そこでソフィアは、ダリウスの隣に立つために、自分で自分の魔力を隠すことを決めた。


 自分の魔力のすべてを、魔力を押さえることに全振りして、魔力を隠し続けた。家族にも魔力を持つことを秘密にした。

 そうして十二歳の魔力検査も見事にすり抜け、ダリウスの婚約者におさまったのだ。


 ソフィアは扉の前で魔力を開放すると、扉に書かれた魔法文字に、一定の順番で魔力を込めていく。最後の箇所に魔力を込め終わると、扉は音も立てずに開いた。


 鞄を持ち直して魔塔へと足を踏み入れると、中にはガランとした空間が広がっていた。

 窓は見当たらないが室内は明るい。高い天井のおかげか息苦しさも感じない。奥には受付のカウンターらしきものがあるが、人の気配はしない。


「ここから先のことは、王宮の図書館で調べても何も分からなかったので、手探りで行くしかないのですけれど……」


 しん、と静まるフロアの中央には立つと、軽く息を吸い込む。そして。


「たのもー!」


 広い魔塔のフロアに、ソフィアの凜とした声が響いた。


「……どうかしら? 書物には入門の挨拶と書いてあったのですけれど……」


 機密事項の多い魔塔内部の事情に関しては、ソフィアの調査能力を持ってしても調べることが難しかった。

 そのためソフィアは、東方の国で使われているという、訪問の挨拶を使ってみることにした。

  

 しばらく待っていると、上階から黒いローブをはおった青年が現れた。

 短めの茶色い髪に、薄茶色の瞳。年の頃は二十代半ばぐらいだろうか。温厚そうな見た目をしている。

 

「誰ですか? 道場破りみたいなことを言っているのは?」


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