03.叶わぬ思いを叶えるために
メイベルとの出会いの後から、ダリウスは公務の合間を縫って、頻繁に夜会に顔を出すようになった。もちろん婚約者であるソフィアを伴って。
頻繁に夜会に顔を出すようになったダリウスについて世間では、体調が思わしくない国王に代わり、早急に有力貴族と顔を繋ぐ必要があるのだろうと受け止められていた。
けれどもソフィアには分かっていた。本当は別の理由があることを。
夜会でのダリウスは、ソフィアを丁寧にエスコートしながらも、視線はいつも誰かを探し続けていた。
探し人を見つけたとしても、ダリウスは何もしなかった。ただソフィアの隣から、その人を見つめるだけだった。
――メイベルと同じ空間にいること。それだけをダリウスは望んでいた。
ソフィアとの婚約を終わらせることはできないと、ダリウスは誰よりも分かっていた。
高位貴族の中でも大きな力を持つ、ローレイン公爵家の娘。
派閥の力関係を考えても、長年の王太子妃教育で培った能力を考えても、ソフィアが婚約者として最もふさわしい。
世間もまた、聡明で美しい婚約者であるソフィアを、未来の王太子妃として認識していた。
ダリウスの一存で覆すことなど、今更できる状況ではなかった。
婚約を取りやめられない最大の理由は、ソフィアが王家のことを知りすぎてしまっているためだった。
シグネシア王国には側室制度がない。一夫一婦が原則で、王族といえども例外ではない。
そのため、メイベルを側室として迎え入れることは不可能だ。
妻とするためには、ソフィアとの婚約を解消し、メイベルを正妃にするしか手はない。
もちろん過去には婚約が解消された例もある。
歴史書を紐解くと、皆、病気を理由に婚約を解消されている。
そして生家に戻された彼女たちは、しばらくすると静養先で一様に亡くなっていた。
王家に近い者の間では周知の事実のことだが、婚約を解消された令嬢たちは、表向きには病死を装い、――実際には、王家の秘密が外部に漏れないように、密かに毒杯を飲まされていた。
王族であるダリウスは、もちろんそのことを知ってる。
真面目で優しいダリウスは、真実に愛する人と結ばれるために、長年共に過ごしてきたソフィアを犠牲にすることなどできなかった。
それでも愛する人の近くに少しでもいたくて、夜会に足を運び続ける。
その隣でソフィアは、気付かぬふりをし続けていた。
◇◇◇
テーブルに用意された香りの良い紅茶を、ソフィアはゆっくりと味わう。
そして、向かいに座るダリウスの、空色の瞳を真っ直ぐに見つめて告げた。
「わたくしソフィア・ローレインは、ダリウス・シグネシア王太子殿下との婚約解消を望みます」




