15. パレード
祝辞の時間も終わり、王太子と王太子妃は、馬車に乗りパレードへと出発した。
ユーディーンとソフィアは、その様子を王宮の観覧スペースの後方から眺めている。
フードをすっぽりと被ったソフィアは、仲睦まじい二人の様子を、フードの隙間からうっとりとした目で見つめている。
その指先には、火傷の跡。
結局ユーディーンには、ソフィアがなにを企んでいるのか、未だ分からずじまいだった。防衛システムにも何もかからない。
それでも、ユーディーンは確信していた。結婚式ではなにも起こらなかったが、ソフィアが何かやるのなら今日のはずだと。
自分の魔力をひた隠しにしてまで隣に立ちたかった相手が、別の女と結婚したのだ。台無しにするだけの理由はある。
何をしようとしているのかは分からないけれど、ソフィアが罪に問われる前に絶対に阻止をする。
ソフィアには幸せになって欲しい。
やっと再開できたソフィアがまたいなくなる。そんな事は耐えられない。十年探し続けて、やっと会えたのだ。この世にもういないのかもしれないとまで思っていた人に――
そう思うと堪らなくなったユーディンは、隣にいるソフィアの腕を引き寄せ、自分の方へと振り向かせた。
勢いでフードがはずれて、ソフィアの白金の髪が風に舞う。
「ユーディーン、何をするのですか? フードが外れたら、元婚約者がここにいることがバレてしまいますわ!」
慌ててフードかぶりなおすソフィアが、緑の瞳でユーディーンを見上げた。
「……」
ユーディーンは抗議してくるソフィアを、フードごとギュっと抱きしめた。
「ユーディーン! 一体どうしたのですか?」
いきなり抱きしめられたソフィアは、状況が飲み込めずに慌てる。
「ソフィア、お願いだから……俺の前からもう消えないで……」
「消える? わたくしが?」
なおも強く抱きしめ続けるユーディーン。
「俺は……ソフィアにも幸せになって欲しーんだよ。お願いだから、罪をおかさないでくれ……」
「罪をおかす? ユーディーンは何を言っているのですか? でもちょうど時間になりますわ。わたくしユーディーンにも驚いて欲しかったので、ずっと秘密にしていたのですが、ようやく話すことが出来ますわ!」
「やっぱり今日なんかしでかすつもりだったのか? くそっ、全力で阻止してやる!」
ユーディーンは魔法防衛システムの探知能力を、限界まで引き上げた。
「うふふ、もう遅いですわ。それにわたくし、もう一つ得意な事を思い出しましたの」
「得意……何がだ?」
「色々なものを読み解くのが、得意なのです!」
王太子妃教育でも発揮してきた、ソフィアの特技。古今東西の書物もその能力を生かして読み解いてきた。
そしてそれは、魔法にも使える能力だった。
「……まさかお前、俺の魔法防衛システムを解読したっていうのか?」
「そうなのです、わたくし読み解くのが得意なので、ユーディーンが構築したシステムを、解読してしまいましたの!」
「ウソだろ……」
大陸で一番の才能の持ち主である、大魔法使いのユーディーンが構築したシステムだ。そんな簡単に解読できるものではない。それをソフィアはやってしまったというのか。
「うふふ、ユーディーンも、わたくしの魔法を楽しんでくださいね」
「なに嬉しそうにしてんだよ! ソフィアの攻撃魔法は危険すぎるんだよ! 王族を害したら確実に死刑だぞ? 毒杯回避した意味ねーじゃねーか! くそっ、魔法が探知できねーなら直接ガードしてやる!」
ユーディーンは抱きしめていたソフィアを離すと、パレードの馬車へと杖を向けてガード魔法を発動した。
パレードの一行は、放たれた魔法の衝撃を受けて、その場に停止した。
そうして一瞬にして強大なガード魔法に守られた馬車だったが、しばらく経っても何も起こらなかった。
「……あれ?」
何も起こらないことに、ユーディーンか戸惑っているその時、空からふわふわと何かが降り始めてきた。
それは、色とりどりの花びらだった。
「花だ!花が降ってきたぞ!」
パレードの見物客が騒ぎ出す。
「お菓子も降ってきたぞ!」
「こっちには金の粒だ!」
人々は空を見上げると、次々と降って来る花や菓子を手に取って歓声を上げた。
ユーディーンの目の前にも、ふよふよと、ピンク色の花びらが舞い降りてきた。
それを、杖をもつ手とは反対の手で受け止める。
「……え、何? ……これが、ソフィアの魔法なのか?」
手のひらに乗る花びらを見つめながら、呆然とするユーディーン。
「そうです! これは、東洋の島国で行われている風習で、モチマキと呼ばれているものですわ。祝い事があった際に、米の粉で作られたモチという食べ物や、お菓子やお金などを高い場所から投げるのです!」
魔法が発動したので、やっと話すことが出来るようになったソフィアは、嬉しそうに説明をする。
「モチマキ……」
「あいにく米の粉は手に入らなかったので、購入したお菓子やお花を風魔法で飛ばしましたの。金の粒は、本当は錬金術で生み出したかったのですけれども、難しくてできませんでしたわ。その代わりに、ダウジング魔法で金鉱脈を探し当てて、そこから転移させましたの」
「ダウジング魔法って何だよ……錬金術よりそっちの方が難易度高くね?」
空から降ってきた贈り物に、パレードの見物客は大喜びをしている。
「ソフィアは、これがやりたかったんだ……?」
「そうなのです! でも、ユーディーンにも驚いて欲しかったので秘密にしていたのです! ……少しは驚いてくれました?」
「驚いた、すげー驚いたよ! けど俺は、ソフィアはあの二人を狙っているものだとばかり……」
「え? ユーディーンはわたくしが、ダリウス様たちを攻撃すると思っていたのですか? 一体わたくしのことを何だと思っているのですか!」
「いや、だってノヴァが、ソフィアが何か企んでるって言うから。それに、攻撃魔法覚えたがってたし。俺とソフィアは似たもの同士だから、俺ならソフィアが何するか分かるだろうってノヴァに言われて……」
「それでわたくしが、パレードでダリウス様たちの乗っている馬車を攻撃すると考えたと?」
「だってさ、炎魔法教えてくれって言うし、火薬の調合方法も調べてたって報告あったし……」
「そんなことをしたら、ダリウス様に嫌われてしまいますわ! だいたい、ダリウス様のことを思って婚約解消したわたくしが、なぜお二人を害するのですか!」
「俺だったらこんな式、ぶち壊してやると思ったんだよ……」
「……考え方が物騒すぎますわ! それにユーディーンはわたくしに対する解像度が低すぎです! わたくしはダリウス様の幸せを願っているのですよ? 今回の魔法は、パレードの時に空からの贈り物が降ってくることで、お二人が神から祝福されたカップルだと思われるというコンセプトなのです。そのために色々な魔法を覚えていたのです!」
「そんなこと普通は思いつかねーよ……」
「まあいいですわ。モチマキは無事終わりましたけれど、この後、魔法で花火を出す予定なのです。……ただわたくし、まだ炎魔法の力加減が上手くできなくて、ちょっと自信がないのです……」
「うん、それはやめておこうか。ソフィアがやったら今度こそ罪になるから、お願いだから俺にやらせて……」
夜になると、ユーディーンがその桁外れの魔力と魔法操作能力を駆使して、華麗で豪華絢爛な花火ショーを開催して、王太子の婚姻に花を添えた。




