58 『あなたは私が倒します』
ドゴンッ!!
ドスンッ!!
鈍い音とともに、地面が揺れている。
……いったいッ、なにがッ……!?
ラキシアはアサヒたちの元へ全力で向かいながら、言葉にできない圧を感じていた。
あきらかに、この辺の魔物が出せるものではない。
……それにッ、さっきの雄叫びってッ……いやッ、そんなはずは——
ないと、そう思いたかった。
だが、視界の先に見えてしまった。
「うそ……」
「グギャーーーーーーッッ!!」
アサヒとカサネに襲いかかるグラムガンドの姿を。
「離せ!! 妾のことはいいッ!!」
叫び声が聞こえてくる。
アサヒはカサネを庇うように、その小さな体を抱きしめていた。
「アサヒだけでも逃げるんじゃ!!」
「嫌だッッ!!!」
そんな二人を見下ろしながら、グラムガンドは腕を上げている。
その腕を振り下ろされたら、アサヒとカサネは……。
『ときには、見捨てることも必要です。まずは、自分の身の安全を最優先するようにしてください。いいですね?』
先生の言葉が頭をよぎる。
「ッ……」
そして、今にも泣きそうな顔で心配そうに見つめてくる姉の顔も頭をよぎった。
きっと姉も先生と同じように、見捨てて逃げろと言うはずだ。
今のラキシアには、グラムガンドと戦うための十分な装備などないのだから。
二人はいつも正しい。
少し厳しいところもあるが、それが自分のためを思ってのことなのはわかっている。
その優しさが、心の底から嬉しいと思うほどに。
でも——
……ごめんなさいッ!!
「止めてくださいッ!!」
ラキシアは一切躊躇わずに、手をグラムガンドに向けて叫んだ。
植物の蔓で腕を拘束され、怯んだグラムガンドの顔を斬りつける。
「ギャッ!!?」
ドン!…………スタッ。
そのままその顔を蹴って高く飛ぶ。
そして、アサヒたちのそばに着地する。
グラムガンドは蹴られた衝撃でうしろに倒れていった。
「お怪我はありませんか!?」
すぐに二人に声をかける。
「あ、あぁ……俺は、大丈夫……カ、カサネは?」
「妾も……大丈夫じゃ」
「はぁ……間に合って良かった……」
その答えを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
だが……。
…………ありえませんッ……。
「ギャッ!! グギャ!! ギャーッ!!」
叫び声が聞こえる。
グラムガンドは顔を抑えながらのたうち回っていた。
「…………どうして、こんなところに……」
「ラキシア知ってるの!? この魔物のこと!?」
「はい…………『グラムガンド』……」
「グラムガンド??」
警戒を解かないまま、ラキシアはアサヒの問いかけに答える。
「とても凶暴で危険な魔物です。…………本来なら、十人単位の討伐隊を組織して挑まないといけないくらいに」
「そ、それって…………このままじゃ……」
「私も何度か戦ったことがありますが……一人で討伐したときは骨が折れました」
「えっ」
そう、倒したことはある。
でも……。
……この、剣じゃッ……。
剣を握る手に、おもわずぐっと力が入った。
「グギャッ!!!」
「…………アサヒさん、カサネちゃん、下がっていてください」
グラムガンドはゆっくりと起き上がる。顔は血に濡れていた。
そして残った右目で、左目を潰したラキシアを睨みつけてくる。
それだけで人を射殺すことができそうな、凄まじい視線だ。
…………こわい……。
何度か対峙したことがあるというのに、恐怖心は拭えない。
むしろ、今までで一番恐怖を感じているかもしれない。
いつも頼もしい姉も、危ないときは必ず助けてくれる先生もいない。
十分な装備もない。
そしてすぐうしろには、アサヒとカサネがいる。
あまりにも危険な状況だ。
……でもッ!!
ラキシアは真正面からグラムガンドと向かい合って、剣を構えた。
「そうです。あなたのお相手は私がします。かかってきてください」
……逃げるわけにはいきませんッ!!
「ギャーーッ!!」
グラムガンドが吠える。
「あぶないッ!!」
うしろからアサヒの叫び声が聞こえた。
グラムガンドの巨大な腕がラキシアを叩き潰そうと振り下ろされて——
「えっ」
「ギャッ!?」
アサヒとグラムガンドの戸惑う声が聞こえた。
「…………ギッ!? ギギャーーッ!!?」
「なっ!?…………血ッ!?」
グラムガンドの両腕から血が吹き出す。
「私はここですよ」
「グギャ!?」
グラムガンドが振り返る。
ラキシアは両腕が振り下ろされる瞬間、その腕を避けながら同時に斬りつけ、背後にまわっていた。
「なぜ、ここにいるのかわかりませんが……」
そう言いながら、堂々と切先をグラムガンドに向ける。
どれだけ心を奮い立たせても、恐怖心は拭えない。
でも、ここで少しでも恐れていることを見抜かれてしまうと、グラムガンドの意識がアサヒたちに向くかもしれない。
だからこそ、自分が手強い相手だと思わせる必要がある。
……きっと怒られちゃいますね……。
このことを知ったら、姉や先生はなんて言うだろうか。
二人の顔が一瞬頭に浮かんだ。
……でもッ、もう決めたんですッ!
アサヒたちが襲われてるところを見た瞬間から、覚悟は決まっている。
だから——
「あなたは私が倒します」
……お二人は、私が守りますッ!!
二人に注意が向かないように、堂々と宣言した。




