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この異世界転生はベタばかり  作者: 龍神慈樹
第一章

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52 『勝てない』




「ギャーーーーッッ!!!」


「ッッ!!」


 グラムガンドの両腕が暴れ回っている。

 人間など簡単に潰されてしまう圧倒的な質量の塊が、上下左右いろんな方向から襲いかかってくる。

 それを、アサヒは避け続けた。

 だが——


 ……反撃ッ、できないッ!


 グラムガンドの腕を振るう速さが、さっきと全然違う。

 避けるので精一杯だ。


 そして、反撃できない理由がもう一つある。

 ラキシアの剣に入った亀裂だ。

 ヒビが入る瞬間のあの嫌な感触がまだ手に残っている。

 だからこそ、理解もした。

 あと、数回でも斬りつければ、この剣は確実に折れてしまうと。


「グギャッ!!」


 グラムガンドが両手を合わせ、アサヒに向かって振り下ろそうと——


「今だッ!!」


 ズバッ!!


「ギャッ!?」


 両腕を振り上げてガラ空きになった左脚を斬りつける。

 そして、間髪入れずに剣を持っていない方の手をグラムガンドに向けて叫ぶ。


「止めてくれ!!」


 左脚を斬られ、少しよろめいていたグラムガンドの両腕両脚に、植物の蔓が大量に絡みつく。


「ギャ!? グギャーーーーッ!!?」


 さっき右腕を拘束したときよりも何倍もの量の蔓が、グラムガンドの動きを止める。

 アサヒは息を切らしながら見上げた。


「はぁ、はぁ、はぁ……これでッ、少しはッ……」


 ……時間がッ、稼げるッ……。


 次に剣を見下ろす。

 亀裂が広がっていた。


「くそッ……」


 無意識に剣を握る手に力が入る。


 目の前にいるグラムガンドに、今まで付けた傷痕はもうない。

 ラキシアがグラムガンドと戦ったときにも起きた現象だ。

 数秒前に斬りつけた左脚の切り傷も、もう塞がっている。


 ……勝てない……。


 傷がすぐに治るグラムガンド、かたや今にも折れそうな剣しかないアサヒ。

 勝ち目が、見えない。


『コロス、コロシテヤル』


 ……ラキシア、ごめんッ……。


 悔しい……と、本気で思った。


『ゼッタイニオマエヲコロシテヤル』


 偽物の剣だったとしても、アサヒたちを命懸けで守ってくれた勇敢な少女の剣を、あの魔物に届かせたかった。


 ……でも、無理だ……。


『ヒキサイテ、グチャグチャニシテ、コロス』


 耳鳴りのように、どす黒く濁った感情がアサヒの頭の中に鳴り響く。


 それはまるで、怨嗟の声だ。


 グラムガンドが現れてからずっと聞こえていた声。

 右腕を斬り落としてから、その声はどんどん強さを増していく。


『コロスッ!!』


「ぐっ……」


 アサヒは無意識に歯を食いしばった。


 少しでも気を抜いてしまうと、グラムガンドの悪意に呑まれそうで——


「アサヒ!!」


「ッッ!!」


 その声に、ハッと我に帰る。

 そして、思い出す。


 グラムガンドには勝てない。

 だから、今のうちにカサネとラキシアを連れて——


 ブチ、ブチ、ブチ……。


「ッッ!?……うそだろ……」


 グラムガンドを拘束する大量の蔓が、少しずつ引きちぎられていく。


 ……これでもだめなのかッ……。


 アサヒはガバッとカサネのほうを振り向く。


「カサネ! 逃げ——」


「妾は信じておるぞ、アサヒを」


「ッッ……」


 アサヒの言葉を遮って、カサネは言う。

 そして……


「アサヒはどうなのじゃ? 妾を信じておるか?」


「ぇ……」


 真っ直ぐにアサヒを見つめたまま、問いかけてきた。




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― 新着の感想 ―
面白かったです! アサヒとカサネの掛け合いがとても楽しくて、どんどん物語の世界に引き込まれました。 グラムガンドとの命がけの戦いでは、アサヒ、カサネ、ラキシアそれぞれの思いが強く伝わってきて、胸を打た…
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