50 『チート』
「ギャギャギャッ!」
全身から血を流しながら、グラムガンドが睨みつけてくる。
アサヒは、その視線を真正面から受け止めていた。
社会人になってから、ろくに運動すらしてこなかった男が、こんな巨大な魔物と戦えている。
そのわけは、カサネから授かった信仰心という力のおかげ。
『自ずとわかる。アサヒのやるべきことが』
「…………」
カサネの言葉を思い出す。
そして、理解する。……いや、理解という言葉では生ぬるい。
まるで幼い頃から、剣の振り方、魔法の使い方を知っていたかのように、自然と体が動いた。
暴れまわるグラムガンドの両腕を掻い潜りながら、同時に斬りつける。
ラキシアがしていたのと同じように。
……確かに、これは『チート』だわ……。
さっきアサヒがしていた動きは、ラキシアの動きそのものだ。
つまり——
「グギャッ!!」
ドオンッッ!!!
「ッッ!!」
地面を揺るがす大きな音が森中に響く。
グラムガンドが両手で思い切り地面を叩き、土煙が舞った。
アサヒはグラムガンドから距離を取って——
ギョロリ。
「ッ!」
グラムガンドは相対しているアサヒではなく、カサネのほうに視線を向ける。
カサネを殺そうとする、純粋な悪意を感じた。
「ふむ……妾を狙うか……」
「カサネを」
アサヒは何の迷いもなく、剣を持ってない方の手をカサネに向ける。
グラムガンドは戦いで折れて倒れてしまった木を鷲掴みにして、カサネに投げようと——
「グギャーーッ!!」
「じゃが、甘い」
「守ってくれ」
ズドォォンッ!!!
衝撃音が鳴り響く。
「さすがは、妾のアサヒじゃ」
カサネの前方に、強固な壁のように木の根が何本もそそり立っていた。
「グラムガンドよ。性懲りもなく、また同じ手を使うとは……」
カサネは、そう言いながら木の根の壁から出てきて、グラムガンドを見据える。
「妾の眷属を侮りすぎじゃ、愚か者」
アサヒはカサネに向けていた手を引っ込めて、ほっと胸を撫で下ろす。
「…………ふぅ」
カサネを守った、あの木の根の壁。
アサヒにも発動できる。カサネを守り切れる。そう確信はあったのだが……
……なんとか……無事、だな……。
実際に、守り切るところをこの目で見るまでは、怖かった。
……ありがとう、ラキシア。
心の中でラキシアに感謝する。
あの魔法は、ラキシアがアサヒたちを守るために使ってくれた魔法だ。
それを、今のアサヒも使うことができる。
それだけではない。
ラキシアが鍛錬し、今まで習得してきた剣技や他の魔法も使えるようになった。
……つまり、祈りを捧げた人の力や技術をそのまま使えると……。
アサヒは苦笑いを浮かべながら思った。
……いや、ズルくね……?




