49 『勇敢な少女のように』
アサヒは地面を強く蹴り、目の前の魔物に飛び込んでいく。
グラムガンドもそれに合わせて、巨大な右腕を振り下ろしてきた。
それを左に避けて、距離を取る。
ドオンッ!!
「ッ……」
激しい衝撃音とともに、土煙が舞った。
……あいかわらず、すごい力だ……。
だが——
ブシュッ!!
「グギャッ!?」
振り下ろした右腕から血が噴き出る。
「ふっ」
アサヒはもう一度地面を強く蹴る。
それに気づいたグラムガンドが、左腕を横薙ぎに振る。
「ッ!」
唸りを上げながら接近してくる巨大な左腕を、アサヒは身を屈めて避けた。
そして、通り過ぎると同時に——
スパッ!! スパッ!!
「グギャーーッ!?」
グラムガンドが叫び声を上げる。
今度は、左腕と左脚から血が噴き出た。
……なんとかッ、動けてるッ……このままッ——
「畳み掛ける!」
ドンッ!
ズパッ!!
「ギャッ!?」
音を立てながら踵を返して、次は右脚を斬る。
ブシュッ!と血が噴き出る。
そして、アサヒは足を止めずに何度も斬りかかろうと——
「グギャーーーッッ!!!」
「ッッ!!」
グラムガンドが血を撒き散らしながら、巨大な両腕を振り回した。
……くそッ!! おとなしくしろッ!!
上から下へ、下から上へ、右から左へ、左から右へ。暴れ回る巨大な腕。
一撃一撃が、人の命など簡単に散らすことができる攻撃だ。こんなもの恐怖でしかない。
それをひたすらに避けながら、アサヒは考える。
こんな状況でも、ラキシアは臆するどころか、果敢に立ち向かっていた。
……すごいなッ……ラキシアはッ……。
同じ状況になったからこそ、ラキシアがどれだけ勇敢な少女なのかがわかる。
……ふつうッ、できないってッ……。
初対面のアサヒとカサネを守るために、こんな巨大な魔物に立ち向かった少女。
きっとさっきまでのアサヒなら、仮に戦う力があったとしても、カサネたちを置いて逃げ出していたかもし——
……いやッ、絶対逃げてたなッ、おれッ…………カッコわるッ……。
おもわず顔が引き攣りそうになる。
それをグッと抑えて、グラムガンドの両腕を掻い潜る。
わかっている。
アサヒには、ラキシアみたいな勇敢な行動はたぶんできない。
きっと……いや、絶対に臆してしまう。
……われながらッ、みっともないおとなだッ……。
「ふっ……今さらか」
笑みが溢れる。
一人の人間として、ラキシアのことを心の底から尊敬する。
そして、思う。
……こんな俺でもッ……あの子のようにッ、勇敢でカッコいい——
ブシューーッ!!
「グギャギャーーーッッ!!?」
足を止めて、グラムガンドを見上げる。
巨大な両腕両脚から血が噴き出ていた。
アサヒは、剣先をグラムガンドに向けて告げる。
「悪いけど、これ以上カッコ悪いとこ見せられないんだわ」
おもわず見入ってしまったラキシアの戦う姿。
勇敢でカッコよくて、綺麗だと思ってしまった。
だから、少しでもその姿に追いつけるように。
カッコいい男になれるように。
「こういうの、柄じゃないってわかってんだけどね……」
アサヒは小さな声でぼやいた。




