48 『おまえは俺が倒す』
「ギャッ!!?」
グラムガンドの顔面から、血が噴き出る。
痛みからか、それとも驚いたからなのか。
グラムガンドは声を上げて、両手に掴んでいたラキシアを放り投げる。
ラキシアの体が空高く飛んでいく。
ドンッ!!
アサヒは、グラムガンドの顔面をおもいっきり蹴り、ラキシアを追う。
グラムガンドは、蹴られた衝撃でうしろに倒れていった。
アサヒは剣を手放し、ラキシアに向かって手を伸ばして——
……掴んだッ!!
そのまま抱き寄せる。
……あとは……。
アサヒは、あたりを見回す。
かなり高いところまで飛んできた。
このまま地面に着地すると、ラキシアの体に負担がかかるだろう。
それは絶対に避けたい。
だから——
「頼むッ!!」
アサヒの叫び声に呼応して、近くに円形の光が現れる。
そして、光から木の根が伸びてきて、緩やかなカーブを描きながら地面まで向かっていった。
アサヒはその木の根に着地し、滑り降りていく。
途中、地面のほうに視線を向けると……
「ギャッ!! グギャ!! ギャーッ!!」
グラムガンドが顔を抑えながらのたうち回っていた。
次に、腕の中のラキシアを見る。
「ッ…………」
酷いの一言だ。
体は血まみれで、あんなに綺麗だった撫子色の髪も、真っ赤に染まっている。
そして、ボロボロの衣服から見える手足は、不自然な方向を向いていた。
スタッ。
衝撃を与えないよう、軽やかに地面に着地する。
ラキシアはぐったりしている。
死んだように動かない。
このままだと——
……すぐに治すからなッ!!
アサヒはラキシアに手をかざす。
「いやし——」
「あ……さひ、さん……?」
弱々しい声が聞こえた。
「ッッ!? ラキシア!!」
ラキシアはゆっくりと瞼を開けて、何か言おうとしている。
その声は、とても掠れていて……。
「に……げて…………はや、く……」
「ッッ…………くそッ!」
おもわず悪態をつく。
こんな死にそうな状態で、一番最初に出てきた言葉がアサヒへの「逃げろ」だった。
……なんでだよッ……。
わかっている。
ラキシアの祈りを受け取った今なら、この少女が自分よりもまず誰かのためを想える心優しい人だと……。
だからこそ——
「癒しをッ!」
ラキシアの体が、強く光り輝いた。
……絶対に死なせないッ!!
「う、うぅ……」
ラキシアは小さくうめき声をあげて、そのまま瞼を閉じた。
アサヒは、ラキシアをゆっくりと地面に下ろす。
ラキシアの体は回復魔法の効果で光り続けている。
ところどころ傷が治っていくのが見えた。
このまま時間をかければ——
『殺す』
伝わってきた。
『殺してやる』
悪意の塊のような、どす黒く濁った感情。
グラムガンドがのそりと起き上がる。
左目を手で押さえ、残った右目でアサヒを睨みつけている。
「グギャッ!!」
『殺す、殺す、殺す……』
「グギャギャッ!!」
『殺す殺す殺す、殺すッッ!!!』
グラムガンドの雄叫びと殺意の感情、その両方がアサヒを襲う。
「…………」
アサヒは、グラムガンドを横目にラキシアに手をかざした。
「ラキシアをお願い」
ラキシアのまわりに木の根が何本も生えてくる。
そして、ドームのようにその体を覆っていく。
「必ず、守るよ」
もうこれ以上傷つけさせない。
「ギャギャギャーーッッ!!!」
『殺す殺す殺すーーッッ!!!』
木の根がラキシアを覆い尽くしたのを確認して、ゆっくりと視線をグラムガンドに戻す。
「……ちょっとうるさいよ、おまえ……」
ぼそりと呟いた。
グラムガンドが顔から血をだらだらと流しながら、アサヒを睨みつけてくる。
その視線だけで人を殺せそうだ。
グラムガンドへの恐怖心は、まだある。
だが、それ以上にアサヒの心に渦巻いているのは、体中の血が沸騰しそうなくらいの怒りの感情だ。
ラキシアをここまで傷つけた相手への純粋なさつ——
「アサヒッ!!」
「ッッ」
「妾はアサヒを信じておるぞッ!!」
「………………ふっ」
小さく息を吐く。
一瞬、怒りに呑まれそうになったアサヒを、カサネの声が呼び戻してくれた。
アサヒはチラッとカサネのほうを見る。
カサネが真っ直ぐにこちらを見ていた。
本当に、これっぽっちも信じて疑っていない、と言いたげな目だった。
……ほんと、お前ってやつは……。
ほんの少しだけ口元が緩む。
アサヒはカサネに頷きだけ返して、前を向きグラムガンドを見据えた。
そのまま一歩一歩踏み締めるようにグラムガンドに近づき、あと数メートルのところで足を止める。
グラムガンドが顔からゆっくりと手をどけた。
真っ赤に染まった顔から見える両眼が、ぎらりと光った。
「…………」
アサヒは右手を伸ばす。
すると、さっき手放したラキシアの剣を、植物の蔓が手元まで運んできてくれた。
「ありがとう」
アサヒは剣を受け取り、顔を上げる。
今にも射殺してきそうな眼光を、アサヒは真っ向から睨み返す。
「グギャギャッ!!」
『殺す殺す殺すッ!!』
ラキシアの姿が頭をよぎった。
助け出したときに見た、今にも死にそうな傷だらけの姿と……
「ほんと、やってくれたな……」
不謹慎にも、綺麗だと思ってしまった、恐怖に立ち向かうラキシアの姿を。
だから——
「覚悟しろ」
ラキシアと同じように、切先をグラムガンドに向ける。
「おまえは俺が倒す」
そして、宣言した。




