46 『熱』
めまぐるしく、いろんな感情がアサヒに流れてくる。
いったいこの小さな体のどこに、ここまでの想いを抱えているというのだろうか。
まるで、荒れ狂う嵐のど真ん中に立たされているような、そんな気分だ。
「…………」
でも、構わない。受け止めると決めた。
そして、次に流れてくるのは……。
『約束する』
……あっ……。
再び、あたたかいものが流れてきて——
『俺は、カサネのそばにいるよ』
「あづッッ!!?」
おもわず声を上げる。
……熱い熱い熱いッ!! ほんと熱いッッ!!
これは、熱だ。
アサヒの身を焦がすほどの熱。
……カサネッ! おまえッ、どんだけ嬉しかったんだよッ!!
アサヒの言葉に、カサネが心の底から喜んでいたのが伝わってくる。
それこそ、やけどしそうなくらいに。
……これはもうッ、約束をッ、守るしかないなッ。
カサネの熱い想いが、どんどん容赦なく流れてくる。
体中の血液が沸騰しそうなくらい、熱くて熱くてたまらない。
それを、歯を食いしばりながら耐える。
だが、嫌だとは思わない。
むしろ、嬉しい。
誰かに想ってもらえることが、こんなにも心を熱くさせ、そして、勇気をもらえることだなんて。
「ッ……」
嬉しくて嬉しくて、気を抜くと涙が出そうだ。
でも、泣いている場合ではない。
頬にグッと力を入れて、涙を堪える。
……今は、ラキシアを助けないとッ。
木の根のほうをチラッと見る。
ゾワリと、背中に寒気が走った。
……怖い……。
戦い方は、理解できた……気がする。
そして、この力ならグラムガンドを倒すことができるとも、思う。
しかし、恐怖心はアサヒの心に残ったままだ。
「…………ッ……」
勝てなければ、アサヒは死ぬ。
カサネも、ラキシアも、死ぬ。
……責任……重大、だな……。
アサヒは口の端をわずかに上げた。
体に流れてくる熱が、『アサヒなら、大丈夫じゃッ!!』と、背中を押してくれてる気がしたから。
きっと、さっきまでの自分だったら、カサネの想いを受け止めきれなかったかもしれない。
力を授かったとしても、恐怖で逃げ出していた可能性もある。
……でも、もう大丈夫だ。
さんざんカサネに酷いことを言って、情けない姿もこれでもかってくらいに見られて。
ここからさらにカッコ悪い姿を見せるなんて、そんなの恥ずかしすぎて死んでしまう。
それに今は、アサヒを熱くさせるこの想いに、何があっても絶対に応えたい。
だから——
「アサヒよ」
静かに名前を呼ばれ、カサネのほうに顔を向ける。
カサネは閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
二人の視線がぶつかる。
「我が、眷属よ」
胸元に添えられていた両手が離れていく。
そして、カサネはこちらを真っ直ぐに見つめたまま、両手を広げて唱える。
「我、『死の神』カサネが命ずる」
「ッッ」
ビリビリと、アサヒの全身が震えた。
その声は、まるでこの世界そのものがアサヒただ一人に語りかけているような、そう錯覚するほどの圧だった。
「ぁ……」
身動きを封じられ、思考も止められたような感覚。
アサヒはカサネに対して、恐怖心に近いものを感じた。
でも、問題ない。
……わかってる。お前の想いは、ちゃんと伝わってるよ。
恐怖心を吹き飛ばすほどのカサネの想いが、アサヒにどんどん流れてくる。
……だからッ、俺たち二人で助けようッ。ラキシアを——
パンッ。
カサネは広げていた両手を合わせた。
アサヒの体を震わせていた圧が、フッと霧散する。
そして……
「ラキシアを、助けよ」
「あぁ、わかった」
カサネの言葉に、力強く応えた。
アサヒは、そのまま体ごとラキシアのほうを向く。
すぐ横で、カサネも同じ方向を向いた。
「これが、信仰心じゃ。しっかりと伝わったか?」
その言葉にアサヒは頷いた。
「ちゃんと伝わったよ」
身を焦がすほどの熱は、まだ体に残っている。
だから、もう大丈夫。
ラキシアを助けて、カサネの想いに応えてみせる。
「やけどしそうなくらいにね」
「え、やけど……?」
カサネはキョトンとした顔で、小首を傾げた。




