44 『痛み』
「ちなみに、この状態のままラキシアを助けることはできる?」
「いや、できぬ」
「やっぱダメか……」
「うむ、この状態で妾たち以外に干渉することはできぬ。人でも物でも、自分の体でさえも。今の状態は、いわば魂だけの存在になったようなものじゃからな」
「そうか……」
行動を起こす前に、ひとつ気になっていたことを聞いてみた。
だが、アサヒの予想通りの答えが返ってくる。
……そう都合よくはいかないか……。
「…………」
「アサヒ?」
カサネが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫、元々そんな気がしてたし」
そう答えて、クシャクシャっとカサネの頭を撫でる。
「んにゃッ!?」
カサネが大袈裟に身をよじらせた。
本音を言えば、時間が止まっている今のうちに動ければよかったのだが、できないのなら仕方がない。
選べない選択肢はさっさと忘れてしまおう。
「よし、やるか」
自分に言い聞かせるように、口の中だけで呟く。
そして……
「じゃあ、頼むよ」
カサネの頭から手を離し、真っ直ぐに見つめる。
カサネは、ボサボサになった頭を押さえながら一瞬だけ恨めしそうな顔になったが、すぐに真剣な表情になる。
「アイツを倒して、ラキシアを助ける方法を教えてくれ」
「うむッ、任せるのじゃッ!」
胸を張り、声を上げるカサネ。
目を真っ赤に腫らした幼い少女にしか見えないというのに、今は頼もしくて仕方がない。
「では、アサヒよ」
カサネはそっと胸元に両手を伸ばしてきた。
「ラキシアの祈り……『信仰心』を、授けよう」
「あぁ」
触れているところが熱くなる。
「ちなみに、その信仰心をどうやって——」
使えばいいのか?と聞こうとしたが……。
「案ずるな」
カサネはアサヒを真っ直ぐに見つめて、堂々と宣言する。
「自ずとわかる。アサヒのやるべきことが」
「わ、わかった」
カサネの迫力に、改めて、今の自分は神を相手にしているのだと自覚させられる。
「ゆくぞ」
静かに響く、厳かな声が聞こえた。
そして、二人の足元が光りだす。
……魔法、陣……? こ、これって……。
足元に広がる、光り輝く紋様。
同じものかどうかはわからないが、白い空間から地上に降りてくるときに見た紋様に似ている気がした。
「ッッ!!?」
異変を感じて、体がビクッと震える。
……な、なんだッ、これッ!?……は、入って、くる……?
胸元に触れているカサネの手のひらから、何かが入ってくる。
本来、アサヒの体には存在しないもの。
それが、どんどん流れてきて……なんとも言えない異物感を覚えた。
だが、不思議と不快感はない。
むしろ……。
『こんにちは。またあそびにきました』
「ッッ」
……こ、これはッ……?
『神様は、今何をされてますか? 寂しい思いはしていませんか?』
……ラキシアの……。
『神様がしてくれたみたいに、私も手を握ってあげられたらなって』
……祈り……?
『またお会いできるのを楽しみにしています。そして、そのときは…………え、えっと……』
カサネに向けられたラキシアの想い……祈りだ。
その断片がアサヒへ流れてくる。
『もしまた会えたら、一緒にお弁当食べましょう』
流れてくる言葉はバラバラで、いったいなんの話をしているのかまったくわからない。
でも、カサネに会いたい。悲しませたくない。
そんなラキシアの想いは、しっかりと伝わってきた。
自然と心が温かくなる。
そして、アサヒのやるべきことがわかってきた。
……これが、信仰心を授かるということな——
ズキッ!!!
「うっ!!?」
アサヒの体に痛みが走った。




