43 『主人公』
アサヒは静かに立ち上がる。
「は、針のことは……?」
「あとでね」
「あ、あと…………あとでちゃんと話してもらうぞッ!」
「わかってるよ。ちなみに、嘘をつかなければ飲まなくていいから」
「ッ…………もも、問題ないッ! わ、妾は嘘をついたことがッ……な、ないからのぅッ!」
……さっそく嘘つきやがった。
「…………」
「な、なんじゃッ? その目はッ」
「いや、別に」
おもわずジト目でカサネを見下ろしてしまった。
そして、すぐに気持ちを切り替える。
アサヒはカサネから視線を外し、木の根の向こう……ラキシアの方を見る。
「ッ……」
無意識に頬に力が入った。
その変化に気づいたのか、カサネが表情を引き締めて静かに問いかけてくる。
「怖いか?」
「あぁ、怖いね」
「そうか」
もう取り繕う必要はない。
無様な姿はさんざん晒したあとだ。
先ほど感じていた恐怖心を、改めて自覚する。
本音を言えば、今も逃げ出したくて仕方がない。
でも、逃げない。
なぜなら……
「安心せよ。妾がついておる」
カサネがそばにいてくれるから。
「…………ぷっ」
「んん!?」
おもわず吹き出す。
カサネがギョッとした顔で見上げてきた。
……だって笑いたくなるだろッ、こんなの!
誰かがそばにいてくれるから頑張れる。
それはまるで……。
……ベタな主人公かよッ、俺!
「ご、ごめんごめんッ。なんでもないよ」
「そ、そうか…………きゅ、急に笑い出すからビックリしたのじゃ……」
「本当に、たいしたことじゃないんだ」
そう言って、アサヒはカサネの頭にそっと手を伸ばし、優しく撫でた。
「んっ……ア、アサヒ……?」
こしょばゆそうに身をよじらせるカサネ。
……あぁ、これはたしかにッ。
カサネの髪は、ラキシアの言っていた通りサラサラだった。
おもわず、ずっと触っていたくなるほどに。
そんなことを思いながら、アサヒはカサネに伝える。
「ありがとう、カサネ」
「う、うむ……?」
急な感謝の言葉に戸惑った顔をするが、すぐにいつもの調子で言葉を返してくる。
「ま、まぁッ、妾がついておるから大丈夫じゃッ!」
「あぁ、頼りにしてる」
物語に出てくるようなカッコいい主人公には、きっとなれない。
それでも、目の前にいる人くらいは守れるようになりたいと、アサヒは思った。
……そのためにも、俺にできることを。
「く、くすぐったいのじゃ〜」
と、カサネが小さく呟いた。




