41 『似た者同士』
さっきまでピクリとも動かなかった体が、頼りなく前へ倒れる。
「ぬわッ!?」
ガシッ。
咄嗟にカサネが支えてくれた。
「だだ、大丈夫か!?」
「………………ない……」
「アサヒ?」
…………ぜんぜん、大丈夫なんかじゃ……ない……。
死ぬつもりだった。
アサヒが死ぬことでラキシアを助けられるのなら、それでいいと本気で思っていた。
それなのに、その覚悟をカサネは全力で否定する。
「……大丈夫じゃ、ないッ」
カサネに支えられた状態で、カッコ悪く声を上げた。
「全然ッ、大丈夫、なんかじゃ……ない……」
「…………」
どんどん尻すぼみになっていく声。
もうどうしたいのか自分でもわからない。
アサヒの薄っぺらい覚悟も、脆くて弱い心も、全部ごちゃ混ぜだ。
「お、おれは——」
ぐいっ。
「!?」
ふいにカサネが、アサヒの頭をそっと胸元へ抱き寄せた。
おもわず体がビクッと震える。
そんなアサヒに、カサネは静かに呟いた。
「アサヒ、大丈夫じゃ」
カサネの声が聞こえてくる。
「大丈夫」
その声が、全身に染み渡っていく。
カサネは、アサヒの頭を優しく撫でた。大丈夫と呟きながら。
…………なにが、だよ……。
まったく根拠のない言葉だと思った。いったい何が大丈夫だというのか。
こんなにも頭の中がぐちゃぐちゃなのに。
でも……
「妾はそばにおるぞ」
「ッッ」
「だから、大丈夫じゃ」
嬉しかった。
こんな自分を受け入れてくれることが。
こんな自分を必要だと言ってくれたことが。
こんな自分のそばにいてくれることが。
「ほんとうに……いいのか?……俺、なんかで……」
「くどいぞ、アサヒ」
どこか呆れたような、そして……
「妾はさっきから、アサヒがいいと言っておるではないか」
泣きそうになってる子供を慰めるような、そんな声だった。
「……う、ぅぅ……」
顔が燃えるように熱い。
込み上げてくるものを抑えられない。
まるで子供に戻ったみたいで、そんな自分がみっともなく思えて……。
「な、なんでッ……と、とまん、ない……」
……い、いい歳した、大人、なのに……なみだ、が…………。
「アサヒ、妾たちは似た者同士じゃと、そう思わぬか?」
カサネが穏やかな声で問いかけてくる。
だが、アサヒは込み上げる激情を抑えることができず、ただ嗚咽を漏らすのみ。
「妾たちは、一人では何もできないちっぽけな存在じゃ」
そう、アサヒは一人では何もできない存在だ。
「おまけに、誰かにそばにいてほしいと願う、とびきりの寂しがり屋でもある」
それなのに、人と深く関わることをしてこなかった。
「じゃから、アサヒが寂しいときは、妾がそばにおる」
だから、アサヒは知らなかった。
誰かに認めてもらえる、そばにいてくれる。
それが、こんなにも嬉しくて、満たされることなのだと。
「ほ、ほんとう、に……おれの、そば、に……」
……いて、くれるのか……?
なんとか言葉を絞り出す。
我ながら、みっともない言葉だなとは思った。
すると、カサネはイタズラっぽくクスリと笑って……。
「なんじゃ? 甘えておるのか?」
「おっ、おま、え……」
おもわず恨み言が出る。
「ふふ、冗談じゃ」
カサネは静かに笑い声をこぼし、そしてアサヒに告げる。
「約束する。妾は、アサヒが寂しい思いをしないように、ずっとそばにおる。そのかわり……」
少し、真剣な声に変わって……。
「死ぬことは許さぬ。アサヒには生きて、ずっと妾のそばにいてもらう」
「…………」
理由はわからないが、その言葉がアサヒの心にズシリと響いた。
カサネを……目の前にいる神様を、悲しませたくない。寂しい思いをさせたくないと思ってしまった。
だから……。
「…………で、でなければ、わ、妾が寂しい思いをするからのぅッ……や、約束、でき——」
「約束する」
「ッッ」
カサネが声を詰まらせるのが聞こえた。
「俺は、カサネのそばにいるよ」
そして、カサネの胸元から顔を離して告げた。
驚いた表情をした、カサネの顔が見える。
よく見れば、カサネの目元は真っ赤に腫れていた。
「だから」
瞳の中で、同じように目元を真っ赤に腫らした男が見える。
……確かに、似た者同士かも。
それがなんともおかしくて、笑い出しそうになる。
「カサネ」
が、いったん抑えて……
「俺は、今からどうすればいい?」
「ぁ……」
「ラキシアを助ける方法を教えてくれ」
カサネに問いかけた。




