39 『いやじゃ!』
「言ってたよな? 神様は一人しか眷属を選べないって。じゃあ俺が死ねば、カサネは新しい眷属を探せるんじゃないのか?」
「…………」
カサネは答えない。
「時間を止めたまま、眷属を探しに行ったりできないのか? 今ならまだ間に合うんだろ? その信仰心を使えばさ」
正直、まだ信仰心がどんなものなのかいまいちわかっていない。
でも、神様が使うものなのだ。きっといろんな奇跡を起こすことができるはず。アサヒを生き返らせたように。
「頼むよ。新しい眷属を見つけて、そいつと一緒にラキシアを助けてやってくれ」
「…………いやじゃ」
「い、いやって……」
カサネが抑揚のない声で答える。
その声に、アサヒは一瞬呆気に取られた。
だが、子供の駄々のようなその答えに、アサヒはおもわず声を荒げる。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!? 早くしないと!!」
カサネの顔を見る。下を向いていて、その表情は見えない。
「いやじゃと、言っておる」
「カサネッ!!」
聞き分けのないカサネに向かって、声を張り上げる。
だが……。
「妾はッ、アサヒじゃないと嫌じゃッ!!」
「ッッ」
こんな言い合いをしている暇はないというのに、カサネは頑なに考えを曲げない。
「いい加減にしろよッ!! お前、神様なんだろ!? 神様なら、どうすればいいか少しは考えろよ!!」
「いやじゃッ!!」
「ぐっ……このままラキシアを見殺しにしていいのかよッ!!」
「そんなことはさせん!! ラキシアは必ず助けるッ!! アサヒと一緒にじゃッ!!」
カサネはガバッと顔を上げ、握り拳を作りながら、アサヒに向かって吠えた。
「じゃからッ、妾は誰が何と言おうとッ、アサヒを死なせたりはせん!! 絶対にじゃッ!!」
カサネの言葉が、アサヒの言葉を真っ向から否定する。
「妾にはッ!! アサヒが必要じゃッ!!」
「なっ!?…………なんで、だよ……」
アサヒは項垂れてしまう。
どうしてカサネは、アサヒの思いをわかろうとしてくれないのか。
「もう、俺のことはいいんだよ……早く見捨ててくれよ……」
アサヒは弱々しく呟く。
すると……
ガシッ!
カサネの手が伸びてきて、アサヒの両頬を掴む。
また頭突きが来ると思い、咄嗟に目をつぶろうと——
ゴツン。
「絶対にッ!! いやじゃッ!!」
アサヒの額に自分の額を押し付けて、カサネは怒鳴った。
アサヒはおもわず目を見開いた。
すぐ目の前にカサネの瞳がある。
潤んで波打つ瞳に、情けない顔をした男が写っていた。
そして、言葉の出ないアサヒにカサネは言う。
「妾も、嬉しかったんじゃぞッ。アサヒが起こしてくれて」
カサネの目から、涙がこぼれていった。




