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この異世界転生はベタばかり  作者: 龍神慈樹
第一章

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38 『死なせてくれ』




 ……今、なんて言った? 勇気……??


 カサネは、アサヒの反応など気にしてないかのように、話を続けた。


「アサヒが転生をしたきっかけを覚えておるか?」


 そんなこと、もちろん覚えている。

 だが、それがどうしたというのか。


「あのとき、アサヒはトラックに轢かれそうになっていた(むすめ)を命がけで助けた」


「…………」


「それは、誰にでもできることではないッ。恐怖に立ちすくむ者がほとんどじゃろぅて。じゃがッ、アサヒは立ちすくむことはなかったッ」


 ……そんなこともあったな……。


 あのとき、アサヒは何も考えずにトラックの前に飛び出し、あの少女を助けた。

 あれから日数が経っているわけでもないのに、まるで遠い昔のような気がしてくる。


 ……何考えてたんだろうな、あのときの俺……。


 なぜあんな危険なことをしたのだろうか。

 いくら目の前で轢かれそうになっていた少女がいたとはいえ、アサヒまで危険な目に合う必要はなかったはずだ。

 ましてや、相手は赤の他人。

 あの少女には申し訳ないが、見殺しにすることだってできたはず。

 でも、あのときのアサヒはそれをしなかった。


 そして、無様に死んだ。


 ……ほんと、わけわかんない……バカかよ、俺……。


 あのときのアサヒが別人のように思えてくる。

 理解もできない。


「カサネはさ……俺のことを買い被りすぎなんだよ。俺はそんなに立派なやつじゃない」


 やたらとアサヒのことを高く評価するカサネに、静かに反論する。


「ましてや、勇気だなんて……」


「じゃが、アサヒはあの娘を助けた。その事実は変わらん」


 カサネの言葉はいつも真っ直ぐだ。まるで汚れなど知らないかのように、清らかだ。

 だが、アサヒはそんな風には考えられない。


「そうだったとしても、それで何がどう変わるんだよ。……結局、俺はトラックに轢かれて死んだ。自分の身もろくに守れずに」


 足を滑らせて死ぬだなんて、なんて鈍臭いことだろう。

 アサヒに勇気があるのかはともかく、いざという時に自分の身も守れない者に何ができるというのか。

 むしろ、誰かを守れるくらいの強さこそが必要なのではないのか。勇気みたいな不確かなものなんかよりも……。


 アサヒは、カサネの顔から視線を逸らして問いかける。


「カサネ……今からでも眷属を選び直すことはできないのか?」


「ッッ」


 息を呑む音が聞こえたが、構わず続けた。


「俺なんかよりも相応しい人が絶対いるよ。だからさ、もしできるのなら、もう一度選び直したほうがいいと思う」


 カサネはアサヒの言葉を静かに聞いていた。


「本当はさ、嬉しかったんだ。カサネに眷属として選んでもらったこと。……だって、カサネってけっこう俺のこと褒めてくれるじゃん? 社会人になってからほとんどなくってさ、褒めてもらったり背中を押してもらうことって。人から胸を張れって言われたのも、何十年ぶりかって感じだったし。……もしかしたら、カサネはお世辞で言ってくれてただけだったのかもしれないけど、それでも嬉しかったよ」


 カサネと出会って、まだほとんど時間は経っていない。

 そのはずなのに、たくさん話をした気がする。

 喧嘩もしたし、森で一緒に遭難もした。

 困らされることも多かったけど……。

 でも、こんなに誰かと向き合ったのは、初めてのことだったかもしれない。


 どこか冷めたところのある人生だった。

 達観か、もしくは諦観か。

 人と過度に関わるのを避けていた。

 そして、オッサンになっても変わらずだらだらと生きてきた。

 親しい相手などもちろんいない。ただ淡々と時間を消化していくだけの日々。

 そんな毎日を過ごしていた。

 そのまま何も変わらない日々が続いて、老いていって、そして何者にもなれないアサヒは、空気のように誰かに知られることなく人生を終えるのだと思っていた。


「ふっ……」


 おもわず笑みがこぼれる。

 あのトラックでの事故は、そんな情けない人生を送っていたアサヒへの罰なのかもしれない。


 ……いや、違うな。


 もしくは、人生の最後に神様……カサネがくれた贈り物だったのかもしれない。


 散々な結果になってしまったけれど……こんな何の取り柄もないアサヒが異世界転生をした。

 幼い頃からの憧れだ。ラノベを読みながら何度夢見たことか。

 それを経験させてもらった。


 ……カサネには感謝だな。こんな俺に夢を見させてくれて。…………でも、もう充分だ。


 本当は、もっとカサネといろんなものを見てみたい。

 なぜかカサネとなら、楽しい異世界生活が送れそうな気がするから。


 でも、そんなわがままは言っていられない。

 ラキシアを助けなくてはいけないのだ。


 ……だから、役立たずの俺はここで……。


「なぁ、カサネ。俺を死なせてくれるか?」


 アサヒは静かに伝えた。

 カサネの顔をろくに見ようともせずに。




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