37 『勇気?』
「…………え?」
おもわず間の抜けた声が出る。
両頬にカサネの手があり、叩かれたのだとわかった。
しかしそれだけだ。何も起こっていない。
それとも、これから罰が下るのだろうか。
神を侮った罰が。
「……い……」
カサネがゆっくりと口を開く。
アサヒは恐怖で見ていることしかでき——
「いたい、のじゃ…………て、手が、ヒリヒリするのじゃ……」
「…………はい?」
「はわわ……妾の手が、真っ赤に……」
カサネはアサヒの頬から両手を離し、恐る恐る見下ろす。
そのカサネの様子に、アサヒは呆気に取られた。
「えっと……?」
「はっ!! ど、どうじゃッ!? 妾の罰は!!」
「え??」
「神を侮ることへの罪深さをッ、しかと味わったことじゃろぅッ!!」
「ぇ…………うそ……あれで、終わり……??」
アサヒはおもわず呟く。
どうやら、その呟きはカサネには聞こえてないみたいで……。
「アサヒがあまりにも生意気なこと言うもんじゃからのぅ! ガツンとやってやったのじゃッ! 少しは反省したかのぅ? その痛み、忘れるでないぞッ!!」
「…………ぜ、ぜんぜん、いたくなかったんだけど……」
「な…………なな、なんじゃとッ!? 妾はこんなに痛い思いをしたのにッ!?」
「そ、そんなこと言われても……」
「ま、まぁよいッ! これで、妾がどれほど怒っておるか伝わったはずじゃ!」
「…………」
「妾は、間違えてなどおらぬ! アサヒを眷属として選んだことは、のぅ!」
「ま、まだ、そんなことを……」
この期に及んで、カサネは断言する。
「何度言えば、わかんだよ……俺を選んだことは間違いだってッ」
「むっ、まだ言うか!」
「何度でも言ってやる! 俺は眷属に相応しくない! お前は俺を選ぶべきじゃなかった!」
「ぐぬぬ……性懲りもなく……」
「お前は、俺に期待しすぎなんだよッ! もっとふさわしいやつなら沢山いたはずだろッ!! その中から選べばよか——」
「だまるのッ」
カサネの両手が伸びてきて両頬をガバッと掴む。
そして、額が勢いよく迫ってきて……。
「じゃッッ!!」
ゴツンッ!!
「………………え?」
「い、いいッ、いたいのじゃーーッ!!」
カサネは額を押さえながら叫んだ。
「あたまがッ、あたまが割れそうなのじゃッ!! うぅぅ…………アサヒめッ、なんという石頭じゃッ!!」
カサネがキッと睨んでくる。
「そんな目で見られてもッ、頭突きをしたのはそっちだろッ!?」
「ぐ、ぐぬぬ…………絶対に、たんこぶができるのじゃ……」
「なんなんだよ……」
カサネが恨めしそうに呟きながら額をさすっている。その姿を見ながら、アサヒはおもわずぼやいた。
すると……。
「ふ、ふんッ、どうじゃッ? 少しは反省したかッ?」
……また、訳のわからないことを……。
「反省って……なんだよ、それ……俺に、どうしろってんだよ……」
「決まっておる! 妾の選択は間違いではないと認めることじゃ!」
「またかよ……いい加減しつこ——」
「妾の話を聞くのじゃッ!!」
「ッッ」
カサネは声を張り上げる。
そして、アサヒの目を真っ直ぐに見ながら語りだす。
「アサヒは、俺なんかを選ぶべきではなかったと、そう言ったのぅ。……確かに、今のアサヒは情けなさすぎて見るに耐えん。神の眷属としてあまりにもひ弱で、おまけに自信もない。正直、がっかりじゃと思った」
「そうかよ……」
「じゃが、アサヒには勇気がある」
「…………は?」
その言葉を聞いて、おもわず声が漏れた。




