36 『神を侮るな』
「…………」
カサネの急な雰囲気の変化に怯んでしまい、声が出ない。
そんなアサヒに構うことなく、カサネは口を開いた。
「アサヒの言いたいことは、それでしまいかと聞いておる」
静かに響く、厳かな声。
アサヒは、なんとか言葉を絞り出す。
「お、終わり、だよ…………そ、それがどうした?」
自分でも動揺を隠しきれてないと思った。
「そうか…………つまらぬのぅ、アサヒ」
「……は?」
カサネは呆れ顔でアサヒを見上げてくる。
「なんじゃ、聞こえんかったのか? つまらぬと、そう言ったんじゃよ」
そして、嘲るような顔になる。
「震えて縮こまるだけでは飽きたらず、耳まで遠くなったとはのぅ。本当に情けない」
「な、なに、を……」
カサネの発言に腹が立ち、おもわず声が震える。
「ん? まだ何か言いたいことでもあるのかのぅ?……じゃが、もうアサヒのくだらぬ弱音を聞くのも飽きた」
「な、なんだとッ!」
おもわずカサネのことを睨みつける。
「ほ〜ぅ、てっきり腑抜けてしまったと思っておったが、まだそんな目をする気力はあるのじゃな」
「ぐっ……」
カサネはアサヒの視線をどこ吹く風と言わんばかりに、言い返してくる。
かたやアサヒは、カサネに言い返す言葉が見つからず、睨みつけるだけ。
「なんじゃ? 何も言わんのか? 睨みつけてるだけでは、妾は痛くも痒くもないんじゃぞ?」
ニヤリ。
アサヒを怒らせるようなカサネの言動。
この状況でどうしてそんな顔ができるのか、疑問と怒りでごちゃ混ぜだ。
「ほれほれッ、何か言ってみるのじゃ」
「ふ……ふざッ、ふざけてんのかよッ!! この状況でッ!!」
「ふん」
声を張り上げるが、気にも留めないとばかりにカサネが鼻で笑う。
「なんだよッ! 何か言えよッ、カサネッ!!」
「では、言うてやろぅ。アサヒ、ずいぶんと妾に怒っておるのぅ?」
「はっ、はぁ? あ、当たり前だろ!」
「ふふ……そうか、当たり前か……そうかそうか…………ふふふ」
カサネが口を押さえて、笑いだす。
本当に意味がわからない。
「な、何がおかしいん——」
「妾も同じじゃッ!!」
「ッッ!?」
「妾も怒っておるぞ! アサヒッ、お主にじゃ!」
怒鳴りながら見上げてくるカサネ。
「さっきから黙って聞いておれば、ずいぶんと腑抜けたことを言うではないか、アサヒよ。挙げ句の果てには、妾に向かって『間違えた』、じゃと?…………神である妾を侮っておるのか?」
ぞくりッ。
カサネが纏う雰囲気が、また変化する。
まるで、心臓を掴まれたかのような……。
「ぁ……」
心のどこかで、カサネなら怒らせても大丈夫、許してくれる、という甘い考えがあったのかもしれない。
アサヒは恐怖で声が出なかった。
「今から、お主に罰を与える。二度と神を侮ることができぬようにな」
「まっ、待ってく——」
「ひざまずけ」
「ッッ!!?」
アサヒは地面に膝をつき、カサネに向かってこうべを垂れた。
……か、体がッ……勝手にッ!?
手も足もピクリとも動かない。唯一動くのは、首から上だけだ。
下を向いていたアサヒは、恐る恐る顔を上げて……。
「神を侮ったことへの罰、しかと受け入れよ」
「ッッ、カサ——」
バチンッ!!
衝撃が走った。




