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この異世界転生はベタばかり  作者: 龍神慈樹
第一章

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35 『アサヒという人間』




「『信仰心』とは、人々の祈りが集まったもの。そして、その祈りのおかげで、妾たち神は存在することができる」


 カサネが静かに語りだす。


「妾がここにおるのも、アサヒが祈ってくれたからじゃ」


 なぜそんなことを言い始めたのかわからないまま、アサヒは呆然と話を聞く。


 ぎゅッ。


 ふいにカサネの手に力が入った。


「カサ、ネ……?」


「妾たち神というのは、本当はちっぽけで非力な存在なのじゃ。誰かに頼らねば、友達のひとりすら助けることができぬほどに」


「…………」


 話を聞きながら、アサヒは気づく。

 カサネの手が震えていることに。


「アサヒの恐れがわかるぞ。妾も、恐れておる」


 ……ぁ…………。


 カサネの目が潤んでいた。


「妾は、もう誰も失いとうない。…………ラキシアを、助けたいんじゃ」


 カサネのその目が、アサヒを捉えて離さない。


「アサヒの力が必要なのじゃ」


 そして断言した。


 アサヒは、なんとか言葉を絞り出そうと……。


「おれ、が……?」


「そうじゃ、アサヒしかおらぬ」


「なに、言ってんだよ…………俺、なんかが……」


 縮こまっているだけの、こんな男をカサネは必要だと言った。

 アサヒには、その言葉が信じられない。


「よ、よく見ろよ……今の、俺を…………どれだけ、助けたいって思ってても……あのラキシアの姿を見たら……ふ、震えが、止まらない…………こわいんだ……」


「それでも、アサヒは立ち向かってくれると信じておる」


「なっ!?…………なに言ってんだよ……聞いてなかったのかよッ」


 おもわず声を荒げてしまう。

 こんな男の何を信じるというのか。カサネはまるでわかっていない。


「できるわけないだろ!? あんな魔物と戦うなんて!!」


 カサネからの根拠のない信頼に、無性に腹が立つ。


「こんな俺に頼るぐらいならッ……あ、集まった信仰心で倒せばいいだろッ!!」


 そうだ。

 せっかくラキシアが祈りを捧げて、信仰心を集めたのだ。

 その力を使ってしまえばいい。


「俺なんかに頼るよりもそっちの方が確実だろ!? なぁッ、早くアイツをやっつけてく——」


「できぬ」


「ッッ!? な、なんでだよ……?」


 アサヒの叫びに近い懇願を、カサネは真正面から否定する。

 勢いを潰されたアサヒは、声を震わせながら理由を聞いた。


「『信仰心』とは、すなわち『授ける力』。戦うための力ではないのじゃ」


「は?…………なんだよ、それ……」


 意味がわからない。


「じゃあ……いくら集まったところで、何もできないじゃないか……」


 どう足掻いても、ラキシアを助けられない。

 そのことがわかり、さっきまでの勢いが萎んでいく。


「いや、違うぞッ。できることならあるッ。ラキシアを助けるのはアサヒしかおらぬのじゃ」


「……はなせ」


「じゃから、妾が今からアサヒに——」


「離せって言ってるだろッ!!」


「ッッ!?」


 アサヒはカサネの手をおもいっきり振り払う。

 カサネが目を見開いた。


「俺には何もできないッ!! 何度言えばわかるんだッ!!」


 再び頭に血が上ってきて、カサネにその激情をぶつける。


「なんで俺なんだよッ!? こんな俺にできるとでも思ってんのかッ!? こんな腰抜けにッ!!」


「ち、違うのじゃッ! アサヒは腰抜けなんかじゃないッ!」


「ッッ!!」


「妾は信じておるッ! アサヒならでき——」


「お前は俺の何を知ってんだッ!!」


 アサヒの怒りは収まらない。

 堰を切ったように、心の中にある醜いものが口から飛び出していく。


「お前は知らないだろッ!? 俺はなッ、今まで何もしてこなかったんだよッ!」


 それを、何の罪もないカサネにぶつけていく醜悪さ。

 もはや死んだ方がマシだと、吐き出しながら思った。


「わかるか? 俺は何もせずにダラダラと過ごしてきたんだよ! 誰かが変えてくれるとかッ、このまま生活してればきっと良くなるとかッ、自分で動こうともせずに全部他人任せでさッ! それでうまくいかないことがあるとッ、不満ばっか垂れ流してた!」


 腹に溜まってるものを片っ端から吐き出していく。

 自分でも何を言ってるのか、わからない。ただ、思いついたことを全部出していく。

 そうして、カサネの顔もまともに見ずに吐き出し続けた。


「ほんとアイツはいいよなとかッ、なんでコイツばっかりとかッ、たまたま運が良かっただけだろとかッ、そんなことばっか思ってたよ! 自分では何もしないくせに!!」


 ただ流されるまま、何の目的も目標もなく漠然と生きてきた。

 そのくせ、周りで成功していく人たちを見ては、心の中で羨んだり妬んだりしていた。

 それが、アサヒという人間だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「…………」


 勢いで自分の醜いものを吐き出し、肩で息をする。

 そして気がつけば、立ち上がってカサネを見下ろしていた。

 だが、カサネの顔は見られない。


「こんな俺にラキシアを助けろだって?…………無理に決まってんだろ。お前は俺の、何を信じたんだよ」


 それでも言葉を続けた。

 自分には無理だと訴え続けた。

 胸の内を吐き出し続けたせいか、次第に勢いが萎んでいく。


「なぁ、カサネ。お前は、間違えたんだよ…………俺を、選ぶべきじゃなかった」


「……ッ…………」


 眷属ならアサヒなんかではなく、もっと強くて賢い人間を選べばよかったのだ。

 もっと勇敢で、困っている人がいるとすぐに助けに行くような……そんな人間を。

 そうすれば、ラキシアも苦しまずに済ん——


「しまいか?」


「ッッ!?」


 その声には底冷えするような圧があった。




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