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この異世界転生はベタばかり  作者: 龍神慈樹
第一章

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34 『同じ』




「…………」


「アサヒ」


「ッ……」


 体がビクッと震える。

 カサネは何も答えられないアサヒに向かって、静かに名前を呼んだ。


「あの魔物と戦うことを、恐れておるのか?」


 カサネはもう一度、同じ問いかけをしてきた。


「お、おれ……」


「…………」


「おれ、は…………ラキシア、を……」


「ラキシアを?」


「うっ……」


 ……助けたいッ……助けたいって思ってるんだ…………で、でも……。


「ラキシアを、どうしたいのじゃ?」


「………………むりだ……」


「…………」


「おれには…………でき、ない……」


 辿々しく、言葉を絞り出す。


「……なぜじゃ?」


「ッ……」


 カサネの問いかけが、アサヒの心を抉ってくる。


「そ……それ、は…………」


 カサネに背を向けて、早くこの場から逃げ出したい。

 なのに……。


 カサネはいっさい視線を逸らすことなく、ずっとアサヒを見つめている。

 アサヒも真正面から見つめ返してはいるが、カサネが何を考えているのか、まったくわからない。


「か、考えても、みろよ…………お、おれが……こんな俺がッ、あんな魔物に勝てるはずないッ」


 いや、本当はわかっている。


「戦ったところでッ、何もできないまま死ぬだけだッ!」


 カサネのその視線の意味は、失望だ。


「ならッ…………ここで隠れて、いた、ほうが……」


 軽蔑すら、含まれているかもしれない。


「あ、安全、だろ? だ、だからさ……ここでやり過ご——」


「妾は、ラキシアを助けたいと思っておる。アサヒも、同じではないのか?」


「ッッ……」


 声が出ない。

 カサネの言葉のひとつひとつが、アサヒの醜い心を射抜いていく。


「どうなのじゃ? アサヒ」


「お、おれは……」


 ……助け、たい…………俺は、ラキシアを、助けたいと思ってる……ほんとうだ…………でも……。


 頭の中で、役に立たない言葉がどんどん溢れてくる。

 そのどれもが、言い訳ばかり。

 そして、それとは別に頭に浮かんでくるものもあった。


「…………ッッ」


 ラキシアの姿だ。

 宙を舞い、カサネの像に激突して落ちていくラキシア。

 グラムガンドに握りつぶされそうになりながら、血を吐くほどの絶叫を上げて、喰われそうになって——


 ガンッ。ドサッ!


「うっ!?」


 さらに一歩下がろうとして、足を何かに引っ掛けて尻餅をついてしまう。

 その拍子に手をついてしまった。


 アサヒは、じんわりと痛む手のひらを見る。


「…………」


 ラキシアが受けた痛みはこんなものじゃない。

 血を流し、体を引きずりながらも戦い、アサヒたちを守ろうとした。

 それなのに……。


「くそッ……なんでだよ…………」


 手が震える。

 怖い。ここから出たくない。

 このまま安全なところにいたい。

 そして、ラキシアを見殺しに……。


「こ……こわいん、だ…………」


「…………」


「ゆ、ゆるして、くれ……おれには、なにも…………」


 そう言いながら顔を上げる。

 カサネが静かにアサヒを見下ろしていた。


「そうか……」


 カサネの呟きを聞いて、フッと肩の力が抜ける。


 …………あぁ……。


 そして気づいた。

 見放されたのだと。


 ……とうぜん、だよな……。


「それが、本音か……」


 まるで魂が抜けていくかのように、全身の力が抜けていく。


「本当に、情けないのぅ……アサヒ」


「ぁ…………」


 カサネの言葉が容赦なく頭に響く。


 わかっている。

 見放されるのも、当然だ。

 アサヒを守るために命がけで戦ってくれたラキシアを見殺しにして、安全なところで縮こまっているだけなのだから。


「立ち上がることも、できぬとは……」


 どんな非難を受けても、何も言えない。

 言ってはならない。


「…………」


 カサネの顔を見ていられず、下を向く。

 無様に震えている自分の手が見えた。


 ……ほんとうに……。


 何もできないくせに、何もしないくせに、一丁前に怖がってるだなんて。


 ……くそったれ、だな…………おれ……。


 ラキシアの方が、この何十倍も何百倍も怖いはずなのに。


「アサヒ」


 何か話そうとしているのか、カサネが一歩こちらに近づいてきた。


「ッッ」


 アサヒは咄嗟に目をつぶる。

 次に出てくる言葉を聞くのが怖い。カサネの顔を見るのも怖い。

 このまま、うずくまっていたい。


「愚か者が……」


 カサネの声が聞こえてくる。

 やっぱり非難の言葉で——


「アサヒよ」


 きゅっ。


「ぇ…………」


 おもわず目を開ける。

 すぐ目の前にカサネの顔があった。


「恐れておるのは、妾も同じなんじゃぞ」


 そう言って、カサネはアサヒの手をそっと握っていた。




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