✒ 天狗様の子 6
──*──*──*── 翌日
──*──*──*── 午前5時頃
依頼主から用意された部屋では、春舂霄囹がスマホの画面を触りながらアプリゲームで遊んでいる。
マオがベッドに入り、寝入ってから春舂霄囹は一晩中【 魔法少女 ストライクドリーム ~ 魔怪獣Q号 殲滅作戦 ~ 】をプレイしていた。
眷属は主人の安全を守護る為、就寝が不必要な体質となっている。
人間を止め、自ずから異形となってからは就寝を殆んどしない生活を送っていた事もあり、マオの眷属となっても大して生活リズムの変化は無かった。
眠っている主人の警護をそっちのけの春舂霄囹は夢中で【 魔法少女 ストライクドリーム ~ 魔怪獣Q号 殲滅作戦 ~ 】のプレイに入り込んでいた。
完全に寛いでいた春舂霄囹の耳に激しく鳴り響く鈴の音が聞こえる。
春舂霄囹は、スマホの画面から目を離さず、チッと舌打ちをした。
霄囹
「 来るのが早過ぎるだろが!
未だ5時になったばかだぞ! 」
悪態を吐きながらセーブをした春舂霄囹は、スマホを狩り衣の袖の中へ入れるとソファから重たい腰を浮かせて立ち上がる。
ベッドに目を向けるとマオがスヤスヤと寝入っている。
霄囹
「 キノコン、居るんだろ。
マオを頼んだぞ 」
そう言い放った春舂霄囹はカーテンを開けると窓の鍵を解除する。
窓を開けた春舂霄囹は、何の躊躇いもないまま1階へ飛び降りた。
春舂霄囹が窓から飛び降りた後、忍んでいたキノコンが現れ、窓を静かに閉める。
涎を垂らし、寝息を立てながら眠っている無防備なマオの顔に高性能,高画質なビデオカメラを近付け、マオの寝顔を撮り続けるのだった。
──*──*──*── 中庭
窓から1階に飛び降りた春舂霄囹は、鈴が鳴る場所へ向かう。
屋敷に張っていた結界に入り込んだ天狗は、見事に発動した結界により捕らわれていた。
天狗──と言っても良いのか、天狗は烏のような漆黒の翼を背中から生やしている。
然し、天狗のような格好はしていないのを見ると、山天狗では無いのかも知れない。
天狗にも様々な種類が有る為、身動きの出来ない状態の天狗を見た春舂霄囹は、怪異の類いではなく異形の類いだと判断する。
赤い糸が天狗の翼と全身に絡み付いている。
陰陽陣が発動している事もあり、確りと天狗の能力も封じているようだ。
霄囹
「 ──朝食を済ませた後に来れなかったのかよ。
この結界、高いんだぞ!
お前が文を寄越した天狗かぁ? 」
天狗?
「 ………………子供は何処だ…… 」
霄囹
「 子供の父親か?
残念だが、取り越し苦労だ。
律儀に文を出したのが抑の間違いだったな 」
天狗?
「 …………子供は居ないのか…… 」
霄囹
「 “ 子供を迎えに行く ” なんて文を貰って、素直に子供を屋敷で匿う馬鹿親は居ない。
神通力を使える子供を欲深い親が簡単に手離すと思うのか? 」
天狗?
「 ……………………何処に居る…… 」
霄囹
「 知るか。
何処かのホテルにでも泊まってるんだろ。
僕は陰陽師だ。
母親から『 子供を奪いに来る天狗様を退治してほしい 』と依頼を受けた。
お前には何の恨みも無いが、退治させてもらうぞ。
悪く思うなよ。
此方も商売だからな 」
春舂霄囹は狩り衣の袖から御札を取り出す。
御札を見た天狗はたじろぐ。
霄囹
「 この御札が紙切れじゃないって事は分かるんだな。
今から、お前を祓うぞ。
僕は【 魔法少女 ストライクドリーム ~ 魔怪獣Q号 殲滅作戦 ~ 】の続きをしないといけないからな! 」
天狗?
「 …………頼む!
子供を……子供を返してくれ!!
神通力の制御を教える必要が有るんだ!! 」
霄囹
「 知るかよ。
律儀過ぎた自分を恨め。
文なんか出さずにさっさと連れ去れば良かったんだ。
今まで子供を放置していた報いを受けさせてやるから、寛大な僕に感謝しろ 」
天狗?
「 神通力が暴走したら大変な事になるんだ! 」
霄囹
「 どうでも良いねぇ。
報酬を貰った後で依頼主が不幸に遭っても僕には関係無い。
仮に神通力が暴走したとしてもだ、それは完全に依頼主の落ち度だ。
僕には関係無い 」
春舂霄囹は御札に法力を込める。
セロフィートに能力を封印されていなければ、妖力を込める事が出来るのだが、現在の春舂霄囹には法力しか込められない。
真っ白だった御札の色が黒く染まる。
霄囹
「 先ずは、お前の能力を完全に封じるぞ。
それから抵抗が出来ない様に四肢を奪う。
舌も要らないな 」
春舂霄囹は、まるで悪役の様にニマニマと厭らしく笑いながら、真っ黒に染まった御札を身動きの取れない天狗の額に貼り付ける。
額に御札を貼り付けられた天狗は心底辛そうに顔を歪ませる。
霄囹
「 おっ!
効いてるみたいだな。
よしよし、効果は上々っと── 」
御札の効果に満足そうに頷いている春舂霄囹の背後に人影が見えた。
???
「 ──何してるんだよ、シュンシュン!!
何で縛ってるんだよ! 」
霄囹
「 チッ──。
もう来たのかよ 」
聞き慣れた声を聞いた春舂霄囹は、パチンと指を鳴らして舌打ちをする。
霄囹
「 未だ6時にもなって無いのに何で起きたんだよ、マオ 」
マオ
「 ベッドから落ちて目が覚めたんだよ(////)」
キノコン
「 昨夜からマオ様の寝相の悪さもバッチリ撮らせて頂いてますエリ♥️ 」
マオ
「 キノコンったらオレの着替え迄撮ってるんだもんな。
勘弁してほしいよ…… 」
霄囹
「 眷属へのサービス映像に編集する為の撮影だろ。
それぐらい許してやれよ 」
マオ
「 それより、辛そうな顔してるじゃないか。
この人が子供を迎えに来た “ 天狗さん ” なのか? 」
霄囹
「 不法侵入者だぞ。
“ さん ” 付けするな 」
キノコン
「 霄囹ちゃまは弱体化させた者をいたぶるの大好きですエリ 」
霄囹
「 黙ってろ!
スライスするぞ! 」
キノコン
「 出来もしない事を言わねぇでほしいエリ 」
マオ
「 シュンシュン、キノコンに喧嘩を売るなよ。
キノコンもシュンシュンの言葉は聞き流して良いからな 」
キノコン
「 心得ましたエリ 」
霄囹
「 ムカつくキノコ野郎め! 」
マオ
「 兎に角!
シュンシュンは今、見るからに無抵抗な “ 天狗さん ” に対して何してるんだ? 」
霄囹
「 御札を貼って効果が有るか試してるんだ。
事情聴取するのに能力を使われると面倒だからな。
能力を封じさせてもらってるだけだ 」
マオ
「 奪ったりはしてないんだな? 」
霄囹
「 そんな強力な御札を今の僕が作れる訳ないだろ。
妖力が必要なんだぞ!
一時的な処置だ。
御札を剥がせば能力は戻る 」
マオ
「 良かった!
有り難な、シュンシュン 」
霄囹
「 フン 」
マオ
「 話しても良いかな? 」
霄囹
「 好きにしろ 」
春舂霄囹は胸の前で腕を組むと、ムスッとした表情をしてソッポを向く。
マオ
「 初めまして、天狗さん。
オレはマオです。
眷属の主人をしてるんだ。
シュンシュンが手荒な真似をして御免なさい 」
紅白の巫女衣装を着て、酷い寝癖を隠す為に黒髪のズラを被った姿のマオが、申し訳なさ気に天狗へ声を掛ける。
マオから敵意を感じず、話の通じる相手だと判断したのか──、天狗は安堵した様だ。
マオ
「 そのままの状態で申し訳ないんだけど──、天狗さん側の事情を聞かせてもらっても良いかな? 」
霄囹
「 たく──。
甘ちゃんだな、マオは! 」
マオ
「 シュンシュン!
拘束を緩める事は出来ないのか? 」
霄囹
「 結界を解除しないと無理だ。
諦めろ 」
マオ
「 しょうがないな…… 」
マオは天狗と目線を合わせる為、しゃがんで地面に両膝を付いた。




