4.そして青年は義賊となる
ようやく話しが大幅に進みます。
複数の男達が小走りで街を駆ける音が、夜の王都の静寂を破る。
その集団の最後尾、くすみの無い金髪を肩口で切り揃え、茶色の皮でできた胴当てを身に着け、腰に短剣と弓を携えた少年とも少女とも見える青年、アルトゥールはただ黙々と駆ける。
先頭を駆ける男が右手を広げることで集団は静止する。
どうやらここが本日の目的地であるらしい。
男の指示の元、各々の武器を構えドアの前に立つ。
数秒後、合図が出た瞬間ドアを蹴破り集団は部屋の中へと進んでいく。
部屋は蛻けの殻であったが、壁の一部が半開きになっている。どうやら隠し扉が開けられてままになっているようだ。
アルトゥールは扉の先に隠されていた、地下へと続く階段を静かに降りていく。しばらく下だって行くと、薄らと光が漏れている場所を発見する。どうやらこの先に部屋があるらしい。
アルトゥールは後ろに続く男達を右手を差し出し、止まれと合図を送ると部屋の中を覗き込む。
中には椅子に拘束されているだろう男が一人、そしてその前に二人の男が立っている。
その周囲には複数の男が床に転がっているのが目に入る。
椅子の前に立つ男の一人は手に角材を握っており、その角材で座らされている男を何度も殴りつける。
やがて、その行為に飽きたのであろう男は隣に立つ男に「殺せ。」と告げると数歩下がる。
その言葉を聞いた男は、ブロードソードを拘束された男の首に振り下ろそうとする。
アルトゥールは咄嗟に弓を構え、男の首元目掛け矢を放つ。
数秒の後、男はブロードソードが床に落ちるのに続けて男が床へと倒れる。
その直後、アルトゥールの後ろに立つ男から命令が発せられる。
「全員突入!捕まっている奴隷達の保護を最優先に!抵抗する奴は殺しても構わん!」
その言葉の直後、男たちが部屋の中へと飛び込む。
アルトゥールも続けて部屋の中へ進むと椅子に拘束された男の元へと駆け寄る。
腰に携えた短剣で手足の縄を切り終えると、顔を上げた男の顔を覗き込む。
その男の顔を見て、アルトゥールは驚きのあまり言葉を失ってしまう。
相手も自分の顔を見て驚いたらしい。驚きの表情を浮かべた後、言葉を漏らす。
「ア…アルトゥール?なんでお前がこんな所にいるんだよ…?!」
「ケージこそ、なんでこんな所に?!」
つい数時間前別れたばかりの彼が何故こんな場所にいるのか、アルトゥールには理解できなかったがその疑問を口にしようとした時、男の声が部屋の中に響く。
「総員速やかに撤収準備に取り掛かれ!どうやら憲兵団の奴らが騒ぎを聞きつけて来たらしい。」
男の顔に焦りはない。
「奴隷達と金目の物を掻き集めろ!アルトゥール!ついでにそこの椅子に座ってる男も連れて来い!」
そう言い残すと男は部屋の外へと消える。
残った男達も奴隷達と金品を担ぐと我先にと外へと走る。
アルトゥールは啓志の肩を担ぎ、男達に続いて外へ向かって歩きだした。
啓志は馬車に揺られていた。
奴隷市を襲った男達は大通りへと出ると、あらかじめ用意してあったであろう馬車の荷台へと啓志や奴隷達、金品などを積み込むと、一目散に王都を去って行く。
荷台に乗っているのは啓志とアルトゥール。そして回収された奴隷二人の計四人。
奴隷は少女が一人、中年の体格の良い筋肉質の男が一人。
その他には金貨の入った袋や食料、彫刻などの芸術品がいくつも積み込まれており、荷台は手狭な空間と化している。
啓志は横に座るアルトゥールにちらりと目を向け、口を開く。
「なぁアル。どうしてお前は、いやお前たちはあんな場所に現れたんだ?」
アルトゥールからの返事はない。そのの表情は暗く、あまり口にしたくない話であることを想像させる。
「ケージには本当は言いたくないんだけどね…。僕達は盗賊なんだ。」
盗賊、その言葉に啓志は眉を顰める。
「で、でもねケージ!盗賊って言っても僕達は普通の人は襲わないよ!さっきの奴隷商人みたいに犯罪に手を染めてる奴らを襲うんだ。それに奪ったお金のほとんどは貧しい地域の人達にあげてる。」
アルトゥールは慌てるような口調で、それでいて啓志の目を真っ直ぐに見つめ答える。
「それに一部じゃ僕達の事を義賊だ!って言って賞賛してくれる人もいるくらいなんだ!」
そう言うとアルトゥールは誇らしげ表情を浮かべる。
啓志はその姿を見ると何も言い返すことはできなかった。
二時間ほどして馬車は止まった。アルトゥールは荷台から降りると、啓志達にも降りるよう促す。
馬車を降りるとそこには古い洋館が、深い森の中に隠れるように建てられていた。
「ここが僕達のアジトさ。ささ、入って入って。ボスが待ってる。」
そう言うとアルトゥールは、啓志と奴隷の二人を連れて洋館の中へと入っていった。
玄関を入ると広大なエントランスが啓志達を出迎える。
床には赤い絨毯が一面に敷き詰められており、中央には二階へと続く階段が左右に一つずつ作られている。
よく見ると階段は緩やかにカーブしており、どこかの城を思わせる。
そして天井には巨大なシャンデリア。吊り下げるための鎖は金でできており、シャンデリアの本体部分には宝石が散りばめられている。このシャンデリアだけでも数年は遊んで暮らせるだけの額は下らないだろう。
アルトゥールに連れられて啓志達は二階へと向かう。そして二階の最奥にある巨大な二つ扉の前へと辿り着く。
アルトゥールは扉の前で深呼吸をすると、4回ノックを行う。
中から、入れと言う男の声が聞こえると、アルトゥールは扉を開く。
「回収した者達を連れて来ました。」
そう言ってアルトゥールは部屋の中へと進んでいく。
啓志達も続けて中へと入っておくと部屋の奥のある机の向こう側に一人の男が座っているのが目に入る。
アルトゥールは、啓志達に男の前に並ぶように促すと、自らは男の傍へと移動する。
「ようこそ諸君。盗賊団エルヘレンのアジトへ。私がこの館のの主であり、エルヘレンのリーダー、クラウディオ = ローレンツだ。君たちが無事であった事、大変嬉しく思う。」
クラウディオと名乗った男は、立ち上がると両手を広げ喜びを顕にする。
「君達にここに来てもらったのは、君達の今後について話し合う必要があると考えたためだ。無論、君達の意見を最大限尊重しよう。さぁ希望を言いたまえ。」
啓志達は返答に戸惑い数秒の間沈黙が訪れる。その後最初に口を開いたのは体格の良い中年の男だった。
「わ、私は家に帰りたい!妻と娘が待っているんだ!」
「承知した。君の家はどこにある?部下を護衛につけ家まで送らせよう。」
クラウディオの言葉を聞いた男は、ありがとうございますと呟きながら目に涙を浮かべる。
次に口を開いたのは少女であった。
「わ、私もお家に帰りたい…です。でも、私はお父さん達に売られちゃったから、もうお家には帰れないと思う…。」
その幼い顔には涙が浮かんでおり、声は少し掠れている。
そして少しの間を置いて言葉を続ける。
「だ、だから!私に新しいお家を…家族をください!」
そう言い終えた少女の顔は先程までの涙はなく、自分を売った家族との決別、そして新たな一歩を踏み出さんとする決意に満ちた表情へと変わっていた。
「そうか、君の決意しかと受け取った。ならば君は今日からこの館に住むといい。私たちエルヘレンの団員全員が、君の新たな家族となろう。」
その言葉を聞いた少女は満面の笑みを浮かべていた。
残すは啓志だけである。しかし、啓志は未だ口を開かない。啓志自信これからの事を決めあぐねているということもあった。
他の二人は既に退出しており、部屋には啓志とクラウディオ、そしてアルトゥールの三人だけになっていた。
「未だ答えは出ないか?少年よ。アルトゥールから聞いたが君は奴隷市で拘束されていたらしいな。よかったらその経緯を教えてくれないか?」
クラウディオが口を開く。
特に隠す理由もないので、啓志は事の経緯を掻い摘んで話す。
「ほうほう、なかなか興味深い。要するに君は奴隷売買という犯罪行為、即ち法を犯す悪が許せなかったというわけだろう?」
啓志は頷く。
「ならば話しは早い。花木啓志、私達エルヘレンの仲間にならないか?私達も君と同じで悪を憎む。世間では盗賊という扱いにはなっているものの、私達は悪を狙う悪だ。悪と戦う以上戦力は多いに越したことはないからな。どうする?」
クラウディオの言葉を聞き、啓志は考える。一部では義賊と称えられる彼らと同じ道を歩むべきかどうかを。
義賊とは言っても賊は賊なのだ。しかし、彼らは私利私欲のために戦っているのではない。苦しむ人々のために戦っている。それは元の世界で啓志が喧嘩に明け暮れていた理由と通ずるものがあった。
ならば答えは決まっている。
「分かったよ。アンタの誘いに乗ってやる。でもな、もしアンタが道を踏み外してただの悪に成り下がっちまった時は、俺がアンタを殺すかもしれないぜ?」
啓志はにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「構わんとも。だがまずは私を殺せるだけの力を身に付けることだな、花木啓志。だがしかし、歓迎しよう!ようこそエルヘレンへ!」
クラウディオもまた、不敵な笑みを浮かべる。
「アルトゥールを世話役につけよう。分からないことはこいつに聞け。これからよろしく頼むぞ啓志。」
その後、啓志とアルトゥールは部屋を後にした。
こうして花木啓志は新たな世界で、盗賊団・エルヘレンの一員となった。




