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義賊伝  作者: TK
第一章 出会い
2/7

1.青年は新たなる世界へと足を踏み入れる

 まだ新しい記憶を振り返りながら、花木啓志(はなきけいじ)は自身の置かれた状況を考える。


「俺は死んじまったのか…。」

ぽつり、と言葉を漏らす。啓志にとってとてつもない未練があるわけではないが、死んでしまうというのはやはり悲しく感じるものがある。


しかし、今は感傷に浸ることよりも優先すべきは状況の確認だ。

何故、こんな見ず知らずの土地に自分がいるのか、一刻も早く知る必要がある。


「人間ってのは死んだら天国に行くもんじゃねぇのかよ。」

啓志はあるかどうかも分からない天国への悪態をつく。実際、死んだはずの啓志は、本来いたはずの場所とは別の場所で、まだ生きているのだ。


「そういえば、クラスの奴らがこんな内容の本の話をしてたっけな…。確か、異世界転生がどうたらって…。」

啓志は記憶の片隅にある、クラスメイトとの会話を思い起こす。異世界転生、実際にそんなことがあり得るのかは甚だ疑問ではあるが、事実啓志は体験しているのだ。二度目の生を。

「とにかく誰かに話しを聞けないか、辺りを探索してみるか。」


辺りは、見渡す限り草木生い茂る森の中。この中にいたのでは、民家を見つけるどころか、人に会うこともできないだろう。


「とにかくここかどこか分からないとな。」

啓志はそう思い歩き出す。


しばらく歩くと広い道に出た。幅は15mほどだろうか。整備されているようで、少し離れた所で荷台を揺らしながら、馬車が小さくなっていくのが見える。


「車じゃなくて馬車?!どんな田舎だよ…。いや、もしかして俺がいた時代より昔の時代なのか?!」

そんな事を呟きつつ、今後の事を啓志が考えていると、啓志を呼び止める声が一つ。

啓志は立ち止まって声のする方向へと顔を向ける。


 そこには燃えるように赤い上着と黒のズボンを身に纏い、真っ白な馬に跨またがった男が佇んでいた。それは、いつか見た教科書に載っていた軍服のような格好であった。

男の後ろには、似たような服装をした男たちが五、六人程並んでいる。馬に乗っている男だけが黒いマントを羽織っており、彼らは皆左腰に剣を携えている。


そんな彼らを啓志がまじまじと見つめていると、先頭の白馬に乗った男が口を開いた。


「私は、フォリンド王国、第三十一兵士団団長、フェルディナンドである。貴様、先程から道の真ん中で右往左往しているが、服装といい、少し不審であるな。この先にある王都検問所までご同行願おうか。」

男がそう告げると、後ろに並ぶ男が一人、啓志の方へと歩み寄ってくる。男の手には縄が握られている。

啓志の目の前まで歩み寄り、その手に縄を掛けようとした瞬間、啓志は男の股間を蹴り上げると同時に、森の中に向かって一目散に走り出した。


男が痛みで地面へ踞る中、フェルディナンドと名乗った男は、自らの部下へ向かって怒り混じりに指示を飛ばす。


「何をしている!追え!追わんか!」

怒声に駆り立てられた男達は大慌てで啓志の逃げた森の中へと走り出す。ただ一人、啓志に股間を蹴り上げられた男は未だ地面に蹲っていたが、愛馬から降りたフェルディナンドに尻を蹴り飛ばされたことによって、ようやく走り始めた。

フェルディナンドは、ふらふらと情けなく走る部下の後ろ姿に頭が痛かったが、逃走した男を捕まえ戻ってくるまでゆっくりと待とうといった表情で、再び愛馬に跨がるのであった。




 木々に囲まれた薄暗い森の中を全速力で駆け抜ける男の姿があった。つい先ほど男の股間を蹴り上げ、絶賛逃走中の啓志である。これからの事をあれやこれやと考えているうちに、任意同行されかけて、反射的に暴行を加えて逃亡するとは立派な公務執行妨害である。

しかも王国兵士団様相手とは、つくづくこの身は治安維持組織に縁があるらしい。

息も切れ切れになってきたところで、啓志は足を止める。


「はぁ…はぁ…。このくらい逃げればもう追って来ないだろう。」

辺りを見渡し追っ手がいないことを確認すると、啓志は近くに倒れている木へと腰を下ろす。

さっきのフェルなんたらと名乗った兵士の言葉から考えるに、ここは日本ではないらしい。

さらに啓志は兵士の話しを思い出す。



「ここはフォリンド王国っていう国らしいな。しっかしどっちに行けばいいんだか。」

そんな独り言を呟いた直後、啓志は背後ににぞわりと悪寒を感じ、確認するより早く前方へと転がっていた。


シュッという風切り音がしたのも束の間、つい数秒まで啓志が座っていた倒木が剣を受け止めていた。

背中に冷や汗を感じなら剣の持ち主へと目をやれば、それはさっき啓志が股間を蹴り上げてしまった王国兵であった。どうやら追いつかれてしまったようだ。

兵士はチッと軽く舌打ちすると啓志を睨みながら口を開く。


「貴様さっきはよくも舐めた真似してくれたじゃねぇか!ぶっ殺してやる!」


「おいおい、あくまでご同行願うだけだろ?ぶっ殺しちゃまずいでしょ…。」

啓志は落ち着けよと促すが、兵士は顔に浮かんだ血管がはち切れんというばかりの形相で啓志を睨む。


「激しい抵抗の為止むを得ず殺したって事にすればいいんだよっ!」

と言いながら兵士は剣を振りかぶる。

啓志はそれを寸での所で躱すことに成功する。がしかし、その時にバランスを崩し倒れてしまう。

兵士は啓志の傍へと歩み寄り、剣先を啓志に突き立てようとする。啓志は自らの死を覚悟し、目を瞑ったその時。


「ぐわあああああああ!!?」

兵士は突如大声を上げ出した。啓志は兵士の呻き声に思わず瞑っていた目を開く。



 よく見れば彼の右の太腿には矢が刺さっていた。辺りを見渡し、第三者からの攻撃を警戒する啓志。足元に転がる、兵士の手放した剣を拾い上げ、どこから来るか分からない攻撃に備え、少しずつ後ろへと下がる。

啓志が緊張を解き、構えていた剣を下ろしかけたその時、上から一人の少年とも少女とも見えるような、中性的でとても整った顔立ちをした若者が飛び降りてきたのだった。

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