59.勇者とサラリーマン
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
遙か遠くに見えるお目当ての人物。見間違えで無ければ異世界の勇者リムル・シャーロット!
会社からの案件先で出会ったと言うか一戦交えた相手の顔は、忘れもしない銀髪にワインレッドの瞳が印象的で相変わらずの棒術で魔族相手に無双している。しかし、幾ら強いとは言え一人で先行しすぎだ。味方を置き去りにして突き進んでいる。
魔族の数は考えるだけ無駄な程、ゾロゾロ沸いて来やがる。戦国なんちゃらバリの量に嫌気がさしてくる。異世界の勇者に近づくため俺は相棒に指示を出す。
「周囲の魔族を蹴散らし銀髪勇者に近づく」
(了解しましたマスター!でしたら良い武器があります)
画面に表示された武器にカーソルをあわせ召還させる。
大口径のガトリングガン!
それを構え魔族に向けて発射する。適当に撃っても当たる位、今回の戦闘は常軌を逸している。獣人族と戦った時の数十倍はあろう敵を片っ端から弾丸の雨が蹂躙していく。多少前が開けて来たのを好機と思い、一気に勇者の元へ突き進む。
盾の先端より飛び出した魔力剣で騎士の様な鎧を纏った魔族を切り裂きながら着地する。
「先行しすぎだ!周りを良く見ろ孤立している」
上空から舞い降りた紅の鎧に身を包んだ俺の姿を見た勇者は一瞬目を見開いて動きを止めるが、我に返りすぐに近くの不気味な鎧魔族を棒術で打ち伏せる。
「お前は誰だ?魔族では無さそうだがーー」
「ーー魔族は召還クリスタルから沸いている。そいつを壊さない限り無限に戦う羽目になるぞ!」
俺の言いたい事が伝わったのか突進するのをヤメた勇者は俺が戦っているエリアに戻ってくる。すると、頼もしい通信が画面に表示される。
「んもう!勝手に飛び出して………後でお説教だからね。それと、今からユーリちゃんがバスターライフルで召還クリスタルの位置を教えるから壊して頂戴」
プンプン丸のおねいさん指示の元、上空から一条の光が大地に突き刺さる!恐ろしいまでの破壊力がその爆風をもって周囲の魔族を巻き込みながら広がっていく。
「んな!あの光は………」
今度こそ立ち尽くす勇者の背中を叩き声をかける。
「召還クリスタルは健在だ周囲の魔族は俺に任せろ!クリスタルの破壊を頼む」
爆煙の中から一際鈍い光を発光させる黒いクリスタルが瘴気をまき散らしながら魔法陣を形成する。そこから生み出される異形の物を確認した勇者は、独特の構えを取り己の魔力を高める。
研ぎ澄まされた膨大な力に気がついた魔族達が一斉に襲い掛かるが近づけさせない。片っ端から切り捨てながら彼女の技の完成を待ちわびる。
勇者の持つ武器の先端が鋭利に尖った形に形成されると赤い魔力を生みだし力を解放する。
「必殺。神槍ゲイ・ボルグ!」
勇者の放った投擲が、圧倒的な速度でクリスタルに向かう。身を挺した魔族達を不規則な軌道で掻い潜ると異様な魔力の集合体をあっさり突き貫いた!
砕け散る結晶とともに行き場を失ったかに思えた一本の槍は、右腕を高く掲げた勇者の手元に帰ってくる。
「相変わらず凄まじい攻撃力だな………」
(マスター!残りはエルフの騎士達でも倒せます。この辺が潮時かと思われます)
ネメシスの言葉を聞いた俺は、ミランダさんに帰還する胸を伝え飛翔魔法で飛び立つ。下から勇者の叫び声が聞こえるが何となく想像が付くので聞こえないフリをしておこう。成り行きとは言え、勝手に飛び出した事へのお説教がこれから始まるかと思うと非常に憂鬱だ。怒ったおねいさんは怖いんです!
ここは王都にほど近い町ラケルタ。緑豊かなこの町は俺が勝手にイメージしていたエルフの住む風景にピッタリと当てはまる。町の至る所に大きな木があり、森の中にそのまま家を建てて住んでいるのでは無いかと言える位木々に覆われている。一角にある黄色い菜の花畑がとても綺麗で近くには鳥のサエズリが聞こえてくる。やっぱりエルフさんは森がお似合いですね。
そんな町並みに感激していたのも先程までの話で、宿屋の一室で俺は絶賛お説教中!勿論正座はデフォである。三人のお嬢様達がここぞとばかりのお小言にいい加減泣きそうである。
「ですから、ナツメさ…さんは自分を大事にしなさすぎです」
「そうなのです。ナツメさんはいつも無茶ばかりするのです」
「いいことナツメ君!みんな、あなたの事を大切に思っているのよ、もう少し自覚して頂戴」
「返す言葉もございません」
かれこれ三十分は続いているお説教はこの後プラス一時間の長丁場となり、俺の足は生まれたての子鹿状態になりました。罰として三人の風呂上がり後マッサージと、甘味物解放(アイテムウインドウにしまってあるシュークリーム)&秘蔵のお酒(隠し財産)の提供でようやくお許しがでた。
お嬢様達の説教も漸く終わりを継げ、現在は宿屋近くにある食事処に来ている。ログハウス調の造りがこの街並みにピッタリ合っていて、内装も可愛らしいアクセサリーなどが飾られている。穀物類をメインにしたオーガニック料理がおすすめで、何だろう野郎の俺としては落ち着かないがお嬢様方は御機嫌麗しい。うちのお子さまはお肉が少な目でガッカリしていたが、お豆さんをふんだんに使った料理をいたく気に入ったご様子で、先程から一心不乱に頬張っている。
「ナツメ君の暴走は置いといて、実際騎士団の戦い振りはどうだったのかしら?」
「数は多かったけれど、大敗する程弱いとは思えませんね。実際犠牲者も皆無の様だしやはり負けた理由が知りたいですね」
「一つ質問があります」
可愛らしく挙手する天使さん。
「ナツメさ…さんは何故急に戦場へ飛び出したのですか?」
「あっ、それは私も知りたいわ」
便乗してコクコクと頷くユーリちゃん。
この話は遅からず聞かれる質問だと思った。それはそうだろう、言ってるそばからいきなり戦場へ特効したのだ!今回は見学だけと皆に言ったが蓋を開ければ最前線へ………そりゃ怒られるわな。しかし、勇者の話は成るべく伏せておきたいのが現状。ルルベルは薄々気が付いているのか言質を取りたいのか解らないが何処まで答えるか悩み所だ。
そんな事を考えていると中にいるお客の何人かが騒ぎ始める。
「おいっ、騎士団が帰ってきたぞ!」
外は見物やら野次馬などが道を埋め尽くしている中、まるで凱旋パレードの如く騎士団御一行が町の入り口から姿を現わす。周囲がざわざわとする通りを、騎士団が俺達のいる食事処の前を通過するかに思われた瞬間! 一人の騎士が店の前で立ち止まる。俺達に気が付き店の中に入ると、テーブル前にやって来て声をかける。
「お久しぶりです。ようやく見つけました。こちらにいらしたのですね」
声を掛けてくれた人物は兜を脱ぎ顔を見せれば、ついこの前護衛依頼をお願いしたレイチェルさんだった。
「ああ、この前はありがとうございました」
立ち上がって挨拶をすると、頼んでもいないのにコレまでの経緯と魔族の軍勢に勝利した事、途中に乱入した赤い鎧の男など身振り手振りで教えてくれた。
赤い騎士の話は三人娘が笑いを堪えるのに必死の様で、俺の顔はヒキツり捲っていた。
ヤメて下さい、なんか恥ずかしいです。
「へ、へぇ~。大変でしたね。でも無事で何よりです」
なんてトボケようとした矢先に店の入り口からもう一人別の声が聞こえてくる。
「何で君がこの町にいるか私も知りたいな」
少し大人びた口調は何処か背伸びをする少女の声質に相成っているが、物怖じしない雰囲気が彼女の佇まいから見て取れる。
セミロングの銀髪が煌びやかに靡いていて、整った目鼻立ちに特徴的なワインレッドの瞳。無駄な贅肉が一切無い研ぎ澄まされた肉体美を隠す甲冑は以前出会った時のままだ。又、切り込みの入ったスリットが艶めかしい程に美しい足を強調している。
リムル・シャーロット、異世界の勇者だ!
まさか、こんなにも早く居場所を突き止められるとは思ってもいなかった。今はユーリ達もいるし変な事を言われる前に話がしたい。そんな考えを張り巡らせているとレイチェルさんが話し始める。
「勇者殿。彼等とお知り合いですか?」
なんちゅう質問をするのだこの人は!嫌な汗が背中を伝わってくる。すると、急に立ち上がった天使さんが勇者の前に歩き出す。
「こんにちはリムル・シャーロット様。私はルルベル・ヴァーンシュタインと申します。此度のご活躍は主様に代わって、お礼申し上げます」
優雅な仕草で深々とお辞儀する天使さん。
「ああ、君はあの人の………そうか、成る程そう言う事か」
「私は対した事はしていない。それと、これはお願いなのだがあなた方を城へ招待したいのだが聞き入れては貰えないだろうか?」
突然の招待と話の流れに付いていけない俺、ユーリ、おねいさんはお互いに顔を見合わせる。
「どういう成り行きでこんな話になったのか説明が欲しいわね」
「私は別に構わないですが、お豆さんを食べた後なら行っても良いです」
「……………」
何を考えているのだ?俺の存在には気が付いている見たいだが話しかけてこない。と言うか敢えて知らないフリをしている風に感じる。その証拠に先程からチラチラと俺を見ている。
(心配御座いません。彼女はナツメ様の秘密をお二方に郊外するつもりもありませんし、ナツメ様の知り合いと言う話も伏せて貰うようお願い致しました)
(お前、ひょっとしてコイツの正体を知っているのか?)
(僭越ながら存じ上げてございます)
(そう言う事か………)
念話を打ち切りミランダさんに顔を向ける。
「折角の招待だし、ここはお言葉に甘えましょう。ひょっとしたら王宮の美味しい料理にありつけるかも知れません」
後半は食いしん坊に対しての説得だ。
「ナツメ君がそう言うのなら断る理由は無いわね」
「王宮の料理ですか!それは楽しみです」
立ち上がって目を輝かせるお子さまはお豆さんを完食し、未だ見ぬ王宮料理を夢みて絶賛妄想中だ。
突然の勇者訪問に、王宮へのご招待!ルルベルとの関係性や俺への態度も気になる所だが城への招待と言う事は、この前見た石像の女王様にも会えるのだろうか?そんな事を考えつつも町で借り受けた馬車に揺られながら俺達は王都へ向かう羽目になった。
一路、王都へ向かうサラリーマンは色々奮闘します。
皆様の暇つぶしに少しでも慣れれば幸いです
それではまた次回




