44.アイテムSHOPユーリ
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
マリンさんが視察に訪れた日。回復ポーションの商品化に、GOサインが出たことに安堵したのも束の間。元々、品数が二品しかない俺達のお店には、元道具屋の敷地は広すぎる。商品を並べるとスカスカになり、見栄えも悪いと指摘され、店先での店頭販売を進められた。
これなら、商品を数個テーブルに並べれば準備も完了するし、在庫はアイテムウインド内から誰でも補充出来るので、簡単に用意出来る。
回復ポーションだが、町の病院的な施設から、マリンさん経由で受注した。これは、ポーションの効果を調べる為にマリンさんが施設を訪れ、怪我人に試した結果。飛躍的な回復効果が見られた。施設の主治医には、大変感謝され、取り急ぎ百個!受注に成功。いきなりの高額資金に、小躍りした。
俺達は、開店準備の為に、それぞれ奮闘しているのであ~る。どやっ!
「ナツメ君。頼まれた物、買ってきたわ」
「ありがとうございます。そしたら、店頭に並べる机の飾り付けをお願いします」
「まかせて頂戴。おねいさん飾り付けは得意よ」
「ナツメさん。看板の準備が出来ました。私の自信作です!」
顔中!塗料だらけのユーリちゃんは、横書きの看板片手に自信作とやらを見せに来た。
「どれどれ。おっ!一応読めるな」
ユーリの自信作とやらを拝見する。予め、文面を決めた設計図?的な紙をユーリに渡し材木屋で看板に適した木材を購入し、ユーリ画伯にお願いした店の看板が、ようやく出来上がった。その板には黒い塗料で、こう書かれている。
アイテムSHOPユーリ
「とーぜんです!私の魂が、ここに宿っているのです」
看板片手に、仁王立ちのユーリちゃん(画伯)
しかし、アイテムSHOPと頼んだのに何故か?ユーリの名前が有るのかは解らん。これでは店の名前と間違われるのでは?その事を本人に伝える。
「はっ!言われてみれば!私の名前が店名みたいになってます」
顔を真っ赤にしながら、名前を消そうとしているのを、全力で引き止める。折角だし、そのまま店の名前に決定する事で、俺とおねいさんの意見は一致した。
「やっぱり、止めませんか?は、恥ずかしいです」
「あら。言い店名よ。私は気に入ったわ」
「俺も気に入ったぞ。店の名前は、アイテムSHOPユーリで決定だ」
「う〜。やっぱり、恥ずかしいのです」
店名も決まり、準備も順調に行ったかに見えた。しかし、ここで重大な事が判明した。
それは、内のお子さまは計算が苦手と言うことが解ったからだ。おねいさんは、貴族ご令嬢様で有られるので、簡単な計算は暗算でパパッと解いてしまうのだが、ユーリちゃんは計算式が二桁!つまり、十を越えると手が足りなくなりパニックになる。
そこで急遽!会社に連絡した俺は、山田さん(女神様)に頼んで算数ドリル(小学校一・ニ年生用)と筆記用具を緊急手配した。スキルの効果もあり、日本の漢字やひらがなも読めるので、今は店の中で勉強中!のお子さま。時折、おねいさんには監視の意味も込めて家庭教師をお願いしてある。油断すると直ぐに夢の世界へ旅立つ冒険家への措置である。
それから、一週間後。めでたくアイテムSHOPユーリ開店を迎えられた!
ユーリに至っては、九九を五の段までマスターした。
「新装開店です。じゃんじゃんバリバリ売りつくすのです。四、五、二十なのです!」
両手を広げ店先で宣言する小学生。連日の算数ドリルと、九九の成果は果たして………。
開店初日、商品が見た目地味なのか何人かの獣人は見てくれるのだが、売れない!最初こそ、門番の虎のオジサンが数人の仲間を引き連れて店にやって来ると、攻撃アイテムを十個程お買い上げして貰い、上々の立ち上がりを見せたが、それからの売り上げがサッパリなのが現状だ。
「うう~。暇です」
「お客さん。来ないわね」
「そうですね。商品の存在が知れ渡ってないのが原因かも知れません。こればっかりは、使用してもらわないとアピール出来ません」
「私としては、ノンビリ出来るし偶にはこう言うのも悪く無いわ」
「暇過ぎるのも考え物です」
「ユーリはその分、算数の勉強が出来て良かったじゃ無いか」
「それが問題なのです!」
余りに手空き状態なので、算数ドリルとバトル中のユーリちゃん。現在七の段に挑戦中!
この町と言うか、この世界には新聞の折り込みチラシ的な物も無ければ、テレビのCMもある訳が無い。何処かで訪問販売でもしようかと悩んでいると、開店から四日後。アイテムSHOPユーリに転機が訪れる。
近隣に魔族の偵察部隊が目撃され、迎撃部隊が召集。町に待機している軍隊と冒険者が討伐に向かう知らせが入った。その為か、本日のアイテムSHOPユーリには引っ切り無しにお客さんがやってくる。主に冒険者の方々!お陰で店頭は大忙しの様相である。
「すみませ~ん。こちらの回復ポーションを、三つ下さい」
猫耳の少しオットリした金髪女性が声を掛ける。
「毎度ありです。えっと………せ、千五百カンになります」
珍しいことに、売り上げの殆どが攻撃アイテムな現状の中、この日初めて回復ポーションが売れた。
最近解った事なのだが、獣人族は本来。高い身体能力が特徴の種族で治癒能力も他の種族に比べるとずば抜けている。と言っても、大けがをすれば当然命を落とすのだが、自分の治癒能力を過信している節があり怪我をしても直ぐ直ると思っている人が多く、大金を叩いてまで回復ポーションを購入しようと考えが浮かばないらしい。
現在は、病院施設に商品を定期的に卸す契約を結んでいる。回復ポーションの売り上げは、今の所それだけだ。
「ナツメさん。ぽーしょんが、初めて売れました」
「やったな!この調子で頑張ろう」
「じゃんじゃんバリバリ売り尽くします。七、四、に、に、二十八なのです」
順調に九九を覚えるユーリちゃんは、七の段が苦手!
激務に追われた俺達は、交代で店番を勤めている。今はユーリと俺が店先に立ち、おねいさんは休憩している。と言っても、ミランダさんは店の会計担当も兼務している。電子計算機!所謂、電卓を片手に商品の売り上げやら個数やらを纏めている最中だ。ちなみに、俺とユーリでは話にならないとマリンさんに言われ戦力外通告され、おねいさんが会計処理の勉強をここ最近、マリン先生の元で習い始めている。
唯一驚かれたのは、電卓を見せた時ぐらいだ。怪しい記号がボタンで表示される魔道具?で大量の計算をあっさりこなすおねいさんを賞賛し、危うくヘッドハンティングされそうになった。異世界の道具をいとも簡単に使いこなすおねいさんは、ある意味天才だと思う。
この日の夕食。開店から始まって以来の盛況に、今夜はパーティーだ!とばかりの宴を決めた俺は、とある物を召還する!
今日は、カレー祭りなのだ!
バーモント的な固形ルーを大鍋に大量投入する。早くも立ちこめるカレー独特のスパイシーなかほり!グツグツ煮込めば、お肉や野菜がいい感じに味が染み込む。町で売られている野菜の中にはジャガイモに似た穀物が売られていたことから思いついた今晩の夕食。お肉はハンター様が、先程調達した物を使用する。タマ人(人参とたまねぎの略)が無いのが寂しいが、今回は我慢する。お米も、炊飯器があるので問題ない。あとは、煮込めば祭りの始まりである。
「良い、においがします。もう限界です!」
今にも涎が垂れそうなハラペコ姫は、鍋をガン見している。
「おいしそうだわ、お酒は何を飲もうかしら」
おかあさんも、鼻歌まじりでお皿の準備をしている。
「料理も出来たし食べましょう」
俺の一声に、目をギラ尽かせ山盛りカレーをご所望の姫は、俺がよそるルーに釘付けだ。デカ盛り店並の量(推定三キロ)を大皿に乗せ目の前に置くと、準備も整い夕食の宴が始まる。
「「「いただきま~す」」」
三人のかけ声とともに食べ始める。
「おっ!結構美味しく出来たな。具材が少ないから如何かと思ったが、これはこれで美味い」
カレーライスのポテンシャルは侮れない!
「う~ん!おいひいれす」
お口一杯にごはんを頬張る姫様は、大変ご満悦だ。
「これはおいしいわ!ビールとも相性が良い見たい」
瓶ビールをコップに注ぎながらお答えするおねいさん曰く、ビールは無限に飲めるそうです。お、恐ろしい!
カレーにお酒ですか?今回のおねいさんは、炭酸が強めのビールを選択。後味をスッキリさせる為のチョイスらしい。おねいさんのお酒好きが親衛隊の面々に知れ渡り、美容製品の次に多い貢ぎ物として贈られてくる。一時期!共有しているBOXが酒と美容品で溢れかえりフォルダ分けした。お酒は、俺も好きなので最近では結構頂いている。おねいさんも飲み仲間が増えると大喜びだ。
「ナツメさん。おかわりです」
「早っ!もう食べ終わったのか?」
「これは、おいしすぎてもはや飲み物です」
大皿に、先程と同じ量(推定三キロ)をよそる。こいつの胃袋は一体何キロ入るのだ?結局!あれだけあったカレーは、お米さんと併せて空っぽになり、残念ながら二日目のカレーが食べられなくなった。次回は更に多めに作らなければならない様だ。恐るべしは、食べるの大好きユーリちゃん(六キロ完食)
数日後!
商売の方も、大分繁盛してきた。相変わらず、回復ポーションの売れ行きは今一つであるが、定期的に受注があるので心配する必要が無いのは救われる。それよりも、攻撃アイテムの生産が追っ付かなくなって来ている状態だ。OPEN前にかなり作り溜めしておいた在庫が底を突きそうになり、本日は急遽!休業し、内職作業に勤しんでいる。
すると、入り口から誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「すみませ~ん。誰かイラッシャいませんか~?」
少し間延びする、オットリとした呼び声。はて?誰だろう。立ち上がり、入り口へ向かおうとすると、いち早く反応したユーリがトテテテと擬音とともに外へ出て行く。
「は~い。どちら様ですか?」
応対しようとしたユーリちゃんは、いきなり目の前の女性に抱きつかれた。しかも、女性の胸に圧縮されて苦しそうにしている。
「ありがとうございます!ポーションのお陰で妹が死なずにすみました。なんとお礼を言ったら良いのか………うえ~ん!」
「もごもが………&$’’%%&+¥$」
両手をパタパタさせて苦しむユーリちゃん(圧縮中)
「あの~。すみません。内の看板娘が圧迫死するので、離して貰えませんか?」
「ねえさん!この子が苦しんでいる。離してあげて」
後ろから長身の女性が声を掛ける。
「えっ、えっ?ごごご、ごめんなさい!」
「げほっ、げほっ。し、死ぬかと思いました。あの胸は凶器です!」
ホールドを解かれると顔を真っ赤にしながら、咳込むユーリちゃん。
いきなり抱きついてきた女性。名前はミシェルさん。金髪猫耳のタレ目が特徴的な巨乳さん。
横に立っている長身の女性。名前はマリーさん。短髪黒髪で犬耳の、少し目つきが鋭い美人さん。
そして、マリーさんの後ろに隠れている、ちっこい女の子。名前はアリエッタちゃん、ピンクがかった金髪で特徴的なうさぎ耳?が垂れ下がっている。目が大きくてお人形さんみたいだ。
ミシェルさんの話によると、先日の魔族討伐作戦に参加した所。魔族の攻撃で瀕死の重傷を負ったアリエッタちゃんが、回復ポーションで一命を取り留めた。今日はその、お礼をしに来てくれた。と言うのが話の流れだ。
「そうでしたか。それは良かったです。私たちも回復ポーションを作った甲斐があります」
「ほら。アリエッタちゃんもお礼を言いなさい」
人見知り全開のうさぎっ娘は、俺達の前に出てくる。
「………………ありがとう」
十分な間をあけて、小さな声でお礼を言う、うさぎさん。やべー。ちょー可愛いんですけど!
「ナツメ君!あの子を見る目が怪しいわよ」
「ナツメさん。子供に手を出すのは犯罪です!」
「出しませんから。変な眼差しを止めて下さい。この子も怯えてます」
好意的に話をしてくる三人の獣人さん。この大陸の情報も欲しい所だし、女性と言うこともあり店の中に招き入れることにした。
この選択が、今後の俺達の運命を大きく変える出来事になろうとは、今は知る由もない。
商売も軌道に乗り始めたのも束の間。新たに出会った三人の獣人達との交流から、サラリーマンは奮闘します。
皆様の暇つぶしに少しでもなれれば幸いです
それではまた次回




