41.サラリーマンの決意
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
村長の家に招待された俺達に対して、細やかながら宴を開いてくれた。ユーリとミランダさんは宴の席にいる。俺はと言うと、ゼンノさんに呼ばれ、別室に招かれた。
呼ばれた別室は、奥にある個室で、大人が二人も入れば狭く感じられる部屋だ。内装は、飾り付けもされて居らず、小さな机とイスが二つだけの質素な部屋になっている。
「村を救ってくれて、ありがとう。心より感謝する」
立ち上がって、深々とお辞儀する村長さん。
「お役に立てて、良かったです。………それで。別室に呼び出した、用件をお聞かせ下さい。わざわざお礼を言う為に、呼んだのでは無いですよね?」
「そう言って貰えると話が早い。実は……」
ゼンノさんの話した内容は、俺達がこのまま次の町まで行ったとしても、門前払いされるとの事。町に入るには、紹介状が無いと俺達の様な異種族は入れて貰えない。先程までは、得体のしれない人族だったので紹介状の話はしなかったのだが、村を救った恩人と言うことでゼンノさんが紹介状を、書いてくれる。と言うのが大まかな話の内容だ。
「それは、ありがたいです。一つ伺っても宜しいですか?」
質問すると、肯定してくれたので話を進める。
「獣人族の国では、冒険者ギルドや商業ギルドなど、仕事を斡旋してもらえる施設なんてあるのですか?流石に、無一文で王都まで旅するのも心細いです」
「それについては、問題ない。どちらも存在する。紹介状をそのまま見せれば滞りなく登録出来る」
「そうですか。それは良いことを聞きました。それから、これはお願いなんですけど、町へ行っても直ぐに稼げると思っていないので、今回の報酬と言うことで路銀を少し貰いたい」
「報酬はあまり多くはないが、用意しよう。紹介状とともに後ほど渡す」
イスから立ち上がると、交渉成立の意味も込めてゼンノさんと握手を交わし、宴の席に戻るのであった。
宴の席では、獣人族が何人も倒れている中心で平然としているおねいさんが、ジョッキに入ったお酒を仰いでいる。その横では、ユーリが大食い大会の如くお皿を重ねていらっしゃる。
席について食事を堪能していると、馬顔の男が紹介状とお金を渡してくれた。中身を確認した俺は、予想通りの内容に今後の俺達の進む道を考えるとともに、色々と根回ししなければならない展開に、溜息を吐きつつお酒を一気に煽った。
翌朝!
出発の準備をしていると、親子づれの獣人がこちらに近づいてくる。
「あのう、昨日は息子を助けて頂きありがとうございました」
犬耳の女性が話しかけてくる。その後ろには、小さな犬耳が可愛らしい男の子が女性の後ろに隠れながら見つめている。
「おっ、昨日の坊主か。無事だった様だな」
ワシワシと頭を撫でてやると、嬉しそうな顔でお礼を言ってくれた。けれど、オジちゃんはヒドくないか?後ろの二人がクスクス笑っているのが聞こえるぞ。
女性の話を聞くと、父親に先立たれ二人で暮らしている様だ。昨日、魔族に襲われた時、離ればなれになっていた所を俺が助けて、今日はそのお礼が言いたくて来てくれた。
俺はこの家族に対して少し思うところがあり、女性の獣人にある物を渡す。
「これは、何ですか?」
不思議そうに渡された物を、見つめる女性に説明する。
「二人が危険な状態に陥った時、息子さんと手を繋いで、ここにある突起を押して貰えますか。必ず、危険を回避出来ますので肌身離さず持っていて下さい」
不思議そうに見つめているが、俺の言葉を信じてくれたのか笑顔で了承してくれた。お礼に少しばかりの薫製肉を渡され、二人の家族に見送られながら村を後にした。
次の目的地に向けて暫く歩いているとおねいさんが、当然の事ではあるが聞いてくる。
「ここまで来れば十分ね。ナツメ君!説明して頂戴」
久しぶりに登場する。超至近距離での質問タイム!
「二人には今後の方針も踏まえて全て話します。先ずは、休憩出来る場所を探しましょう」
チューしたくなる気持ちをグッと堪えながら、休憩出来そうな木陰を見つける。先に魔除けの壷を周辺に設置してから話し始める。
「昨日。村長に呼ばれたのは知っていますね。そこで、紹介状を貰いました」
村長とのやり取りを説明した俺は、二人に紹介状を見せる。
「これって………」
眉尻をよせ、少し怒った顔つきになるおねいさん。
「ミランダさんは、気が付いた見たいですね」
「私にはさっぱりわかりません。詳しく教えて下さい」
村長から貰った紹介状の中身を掻い摘んで言うと、人族の冒険者と名乗る三人組は魔族を相手に十分な戦力になる。これを見た町の兵士並びにギルド職員は理由を付けて軍関係者に連絡すべし!と書かれている。
いやー。全言語自動解読スキルがなかったら、危なかった。こんな物、町の門番に見せたらどんな扱いを受けるか想像が付く。その事を踏まえて話を進める。
「俺は、今回の依頼の中で最も優先して守る相手は、ユーリとミランダさんだと思っている。次に自分の命。獣人族とエルフ族はもっと下だ!それくらいの気持ちでルルベルさんの依頼を受けた。出発前に話したと思うが、名を上げて王族に取り入ると説明したけど戦って名を上げるつもりは今のところ無いです」
「何か、考えがあるの?」
「あります。実は村長に聞いたのですが、商業ギルドと言うものがあるらしく俺達はそこへ加入して商売を始めたいと思います」
俺の説明を聞いた二人は驚きの表情を隠せずにいる。
「商売って何を売るのですか?」
「売る物は決まっている。魔力石を使った攻撃アイテムと回復ポーション。今の所はそれくらいです」
「商売を始めると言ったけれど、私達はそもそも販売する商品を、たくさん所持して無いわ」
「その点については問題ないです。秘密のツテがあります!いつもの奴です」
「そ、そうなの?」
「はい!そうなります」
とても良い笑顔で答える俺!
「ルルベルさんからの依頼は、獣人族とエルフ族の手助けと言うのが依頼内容です。前にも言いましたが、俺達はどんなに強くても三人しかいません。体力も消耗すれば魔力も減るし、盾が大好きなお子さまは、すぐにハラペコになる」
「むーっ!ナツメさんヒドいです」
ホッペタを膨らますユーリちゃん
「ごめん、ごめん。冗談だよ!」
「軍隊相手に、全てを壊滅させる程の力は俺達にはありませんよ。かなり条件を絞れば無力化させることは出来るかも知れませんが、これは戦争です。だからこそ、二人を守る為に前線で戦うのではなく、あくまで後方支援。物資の供給を目的とした、商売です!」
「ナツメ君の話は理解出来たわ。最後の質問、良いかしら?」
更にグッと、近づくおねいさん。
「さっきの村で、女性に渡した物を教えて頂戴」
ミランダさんの眼が怖いです。少し尻込みしながら、渡した物の説明をする。
「あれは………簡易型の転移装置です」
つまりは、会社特製!一回切りの転移クリスタルである。
「なぜ、それを渡したの?」
「ん~。気まぐれかもしれません。恐らくですけど、あの村は近い将来魔族に襲われます。普通に考えて見て下さい。村に送り込んだ兵が一瞬で全滅したにも関わらず、野放しにしているとは考えられません。今日、村を出発した時に見送りに来たのはあの二人。それ以外の獣人は、口ではお礼を言っていたがしょせん人族!何て思っているのではないでしょうか?心から感謝されている雰囲気があの二人以外から感じられませんでした。ちなみに、転移先はミランダさんの家なので、ロザリーさんに説明、お願いします」
俺も人間だ。損得勘定で人助けをするつもりは無いが、利用されているのが解っててアフターケアまでする気にはなれ無い。
「ええっ!急にそんな事言われても……ナツメくんズルいわよ!」
焦ったお顔もお綺麗なおねいさんは、慌てて実家に連絡をしている。
「ユーリは、今の説明で疑問点とか無いか?」
「ん~。難しいことは解りませんが、商売をするのは楽しみです。私でも役に立ちますか?」
「当たり前だ。商売の鍵を握るのはユーリとミランダさんだ。むしろ、俺はあまり役に立たないぞ」
何か言ってて寂しくなってきた。
「私でも役に立てる。………が、頑張ります」
小さな拳を握りつつ新たな決意を秘めたお子さまは、やる気満々である。
「町へ行く前に、色々準備しなければならないので、三日程キャンプを予定しています。二人にも手伝ってほしい事があるので、お願いします」
「分かったわ。何でも言って頂戴」
「三日もキャンプするのですね。これは、張り切らないといけません!」
旅も方針も決まった。後は、準備をするだけだ。商売なんて、バイト経験も無い俺に勤まるだろうか?等と一抹の不安に駆られるが、頼もしい仲間を見ると頑張れる気がする。これから忙しくなるぞ!先ずは、会社に連絡しよう。それから………!
こうして俺達は、商売を始める為の準備に明け暮れる日々を、キャンプで過ごすのであった。
新たな商売に着手するサラリーマン!果たして上手く行くのか?
サラリーマンは商品作りに奮闘します
皆様の暇つぶしに少しでも慣れれば幸いです
それではまた次回




