37.異世界からの訪問者
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
夕食を終えた俺達は、宿屋に戻り自由時間となる。二人のお嬢様は仲良くお風呂屋さんに行っている為、空いた時間を有効活用すると言うか、今日の出来事及び勝手に決められた緊急案件に対しての抗議・申し立てをするべく会社に問い合わせ中である。
女神様との定時連絡を終え、いつもならフリートークの時間であるが今日は違う!貴重な時間を使うのだから。これは、もう。本気で抗議するつもりだ。
「一体。どういうつもりか説明して下さい!長期案件の重複など聞いた事がありません」
「まあ、落ち着け。文句を言うのも解るが、こちらの言い分も聞いてくれ」
モニター越しに映し出される課長が、珍しく焦った様子で俺を宥める。このやり取りは始まってから三十分は優に越えている。
課長の言い分は、先方からの指名依頼!つまり、名指しで俺を指名してきた事だ。しかも、本社の上層部に直接話があったらしく、支店には拒否権が無い。これは、めがねの裏情報だが、本社は何らかの物資を取引したらしい。その一部が、この前のアカネの実による染め物技術と販売権!どうりで、工場の準備や現地での生産準備など動きが早い訳だ。
結局は、本社が勝手に決めたトバッチリが俺に降りかかった訳で、課長も被害者と言えばそうなのだが、頭で解っていてもこのムカムカは収まらない!一種の八つ当たりである。
「ふー!すみません。大分落ち着きました」
「お前の気持ちも解る。だがな、夏目よ。サラリーマンはこういった理不尽なことも沢山ある。グチは俺が聞いてやる。お前は、与えられた仕事を全うして成果を上げてこい。それが、サラリーマンだ!」
良いこと言いました。みたいなドヤ顔されてもね、課長も本社には抗議してくれた様だし今回は我慢します。そのかわり、物資の補給は万全な物を要求するつもりだ。本社も、俺が失敗したらシャレにならないからな。
こうして、本日の定時連絡は大半が俺のグチで幕を閉じるのであった。
翌日。階段を降りて待ち合わせである一階ロビーに向かうと、朝もお美しいおねいさんがバッチリメイクでモデル立ちしていらっしゃる。
「あっ!ミランダさん。おはようございます」
「おはようナツメ君」
「あれ?ユーリは、未だ来てませんか?」
「ユーリちゃんは寝坊ね。扉をノックした時、返事が聞こえたから降りてくると思ったけど、また寝てしまった様ね」
やはりか、困ったものだうちの寝坊助には!
今日は焦って買い物するわけでもないので、のんびりおねいさんと世間話に花を咲かせていると………ドタドタ!慌てた足取りで階段を降りてきたネボスケちゃん。
「お、おは、おはようございます」
髪の毛大爆発のお子さまは、焦った様子でこちらにやってくる。
「おはようユーリ。今日はそんなに慌てなくて良かったのに。髪の毛が凄いことになっているぞ」
「はっ!」
その指摘で気が付いたのか、一生懸命に手櫛で直そうとしている。
「あらあら、ダメよユーリちゃん。髪の毛が痛んでしまうわ」
「ごめんねナツメ君。少しの間、待っていてくれないかしら」
それだけ言うと、ユーリはおかあさんに連れられて部屋に戻っていくのであった。
一時間後!
やっと、三人が揃い旅支度を整えるのと、観光も兼ねて宿屋を出発する。本日は主に食材を買溜める予定である。お肉大好きな娘っ子は、ほっとくと肉ばかり食べるので、野菜も大量に買うつもりだ。
会社にも長期で未開の大陸に旅立つのだからそれなりの物資を依頼している。今回は本社からの案件なので、山田さん(女神様)にお願いして快適に旅が出来る物資を申請して貰う様にお願いした。
ただし、念には念を入れないと気が済まないビビリな俺は、こちらでもおねいさんに買い出しを提案。向こうでの生活、殆どがユーリの言う所のキャンプ生活になった場合の措置である。
宿屋を出ると、周囲は商店街という事もあり活気に満ちあふれている。都市と言うだけあってこの世界で見てきたどの町よりもお店の造りが綺麗に感じられる。モダンなレンガや石造りの街並みは、どこかヨーロッパの風景を連想させる。道行く人達の多くが冒険者というのもこの都市ならではなのかもしれない。商業地区を離れればもう少し雰囲気も変わるのかもしれないが、今回はゆっくり見物出来ないのが非常に残念だ。
「随分と、賑わっていますね」
「そうね。私も久しぶりに来たから懐かしいわ」
そんな話をしていると早速、ユーリちゃんはキョロキョロ目移りしながら何か見つけたのか、急に走り出す。お決まりのユーリちゃん走り。トテテテという擬音とともに。
「あっ、コラッ!ユーリ………迷子になるぞ!」
ちょこんと座り込んだユーリちゃんは、道ばたでお店を開いている雑貨屋?らしき品物を見つめている。
「いらっしゃいませ」
慌てて駆けつけた俺は、妙な違和感を感じ店主の女性を見つめる。
眼元が前髪で隠れているが、綺麗な顔立ちで少し小柄な体型の女性だ。前髪をもう少し短くして、ウェーブ長のセミロングの髪を整えれば美人さんではないかと思う。
そんな事よりもこの女性。服装こそ町並みにとけ込んでいて気にはならないが、綺麗すぎる!顔がでは無く、清潔感があるというか現代的ともいえる。感覚的な言い方なのだがこの街にいると不自然に見える。それが、この女性に対する印象だ。
「おにいさん。何かお求めですか?」
急に声を掛けられ、慌てて返事を返そうとすると、ユーリが手に取った品物を見て時が止まりそうになった。
「ナツメさん。これ、何だと思いますか?」
ユーリが手に取った代物!俺の記憶が確かならそれは……ステッキだ!それもムーンな奴!何でこんな物が売られている?目眩がしそうになりながら困惑していると、あろう事か女性店主は答える。
「あっ。それは、千八百円になります」
「え、えん?」
小首を傾げて俺に助けを求めるユーリちゃん。俺は光の早さでユーリからムーンな奴を取り上げると、さっさと店から離れようとする。丁度その時、背後からおねいさんの声が聞こえる。
「もう、二人とも!はしゃぎすぎよ」
優雅に歩いて来られたおねいさんは、俺の後ろからのぞき込むように店の品物を見るといきなり店の女性が震えだした。
「あ、あわ、あわわ!………び、美の女神様の御光臨じゃー!」
訳の分からない言葉を発して膝立ちで拝み始める。
流石に俺達三人は心の底からドン引きするとともに、踵をを返して逃げようとした所。襟首を掴まれた俺は完全に逃げ遅れた。
「イタタッ!くるしっ………苦しいから!離せ、離して。お願いだから」
必死の説得で難を逃れたオレ。
「ゲホッ、ゲホ。一体何者だお前!この世界の人間じゃないだろ」
むせながら聞くと、チョイチョイと手招きされる。しゃがみ込んで女性の声を聞くと恐ろしい要求をしてきやがった。
「夏目様!早く私の所にミランダ様をお連れしなさい。さもなくば、親衛隊が正義の鉄槌をあなた様にお見舞いします」
「きゃーーーーー!」
柄にもなく悲鳴をあげたオレ!久しぶりに、死に直面した気がする。 この感覚、何処ぞの勇者と戦った以来だ。
遠く離れた場所で俺の様子を伺う女性陣。特にユーリちゃんはカタカタ震えている。
二人には俺の知り合いで、この街で商売をしていると言う体で説得する。内心、そのまま逃げようかとも考えたが、俺の勘が正しければアイツは親衛隊のボス!
そう、B.O.S.Sだ!
これは、めがねの監督不行届けだ。後で、おしおきだべー!
「松島玲美と申します。玲美ちゃんとお呼びください」
「そう、それは良いけどナツメ君。この子はどうして私にくっついているの?」
おねいさんの腰をガッチリホールドして、くんかくんかしている松島さん。
どん引きしながらも、健気に挨拶するユーリちゃんに松島さんは仰った。
「あなたが、ユーリちゃんね。十年後が楽しみです」
妖艶な笑みに、益々震えるユーリちゃん。
「この人は、えっと……同じ国の出身で……えーっと」
何と説明して良いのやら悩んでいると、松島さんが話し出す。
「ナツメ様。私の素性は国から報告の了承を得ていますので、お願いします」
良いのかバラしても?どうなっても知らんぞ!そんな思いを胸に話す。
「この人はですね。その、………ミランダさんの武器を設計した人です」
「「えーーーーっ!」」
驚くミランダさんとユーリ!
「この子が、武器の設計者ですって!」
驚きを隠せないミランダさんは、急に松島さんに抱きついた。
「会いたかったわ!あなたにはお礼が言いたかったのよ、素敵な武器をありがとう。凄く感謝しているわ」
思いがけない抱擁に、松島さんは大量の鼻血と顔を真っ赤にして、頭から煙を出しながらぶっ倒れてしまった。刺激が強すぎたんだと思う。
○□○□○□○□○
「んあっ。こ、ここは?」
漸く目が覚めた松島さん。
ここは、宿屋の一室。あのまま気絶した状態で要られるのもマズいので、今日泊まる予定の宿屋に戻ってきた。二人にはそのまま買い出しをお願いして、俺だけがUターンし、今に至る。その旨を説明するとともに何故?この世界に来たのか問いただす。
「そうですか、それは残念です。この世界に来たのは、ミランダお姉さまの武器をメンテナンスする為にやって参りました」
「メンテナンス?何でまた………そうか、ミランダさん。あの杖、いつも装備しているからか!」
「お姉さまは、肌身離さず装備していらっしゃるので、私が直接メンテナンスに参った次第です」
嬉しそうに頬を赤らめながら、答える松島さん。
暫くは戻りそうもないおねいさんを待つか聞いてみると、今日は定時間でめがねと買い物の約束があるらしく急いでいるとのこと。しかたがないので通信システムでおねいさんに連絡を取り付ける。
「………という事ですので、アイテムウインドウに収納お願いします。その間は、装備が無い状態なので気をつけて下さい」
「平気よ。いざという時は空圧砲もあるし、神聖魔法だってあるから心配しないで頂戴」
画面越しに見られるおねいさんは誇らしげに仰った。
止めて下さい。街が消し飛びます!
「フフフ。冗談よ」
怪しく笑うおねいさん。お願いします。どうか、おねいさんが絡まれませんよーに!
そんなやり取りの後。早速、アイテムウインドウに収納された戦女神の杖(おねいさん装備)を取り出して松島さんに渡す。
松島さんは、虚空からパソコンらしき物を召還させると、なれた手つきで杖に接続する。小気味よい打鍵音とともにパソコンに表示される文字の羅列。正直、素人の俺にはサッパリ解らん。彼女の言うメンテナンスは三十分程で終わりを告げる。
ケーブルを引っこ抜き、パソコンをしまいながら話す。
「終了致しましたので、杖はお姉さまにお返し下さい」
帰り支度をする松島さんに声をかける。
「もう帰るのか?折角だし、二人と、もう少し話していってもいいんじゃないか?」
「いえ。本日は、これで失礼させていただきます。メンテナンスの詳細は後日、メールで転送します」
「そうか、今度来るときは連絡ぐらいよこせよ!俺達も時間を合わせるからさ」
俺の言葉に、何処か含み笑いをしながら答える。
「何だかんだ言って、面倒を見てくれる。めぐちゃんの言うとおりでした」
ボソっと言った言葉を聞き返えそうとした時には、親衛隊のボスこと松島玲美の姿はこの世界から消失していた。
人騒がせな後輩に付き合わされた俺は、これから帰ってくる二人の女性陣にどの様に説明しようか頭を悩ませるのであった。
明日は、いよいよ出発の時!サラリーマンは、別の大陸でも奮闘します。
皆様の暇つぶしに少しでも慣れれば幸いです
それではまた次回




