30.謎の女と甲冑
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
今年もよろしくお願い致します
ディセリア町で幾つかのギルド依頼をこなしている俺達は現在、ワイバーンが現れたと言う報告を受けて町の近くの平原でそれらしき魔物がいないか探索中である。
「見つかりませんね。それらしい気配は感じられないです。ひょっとして、見間違いではないですか?」
「そうね、探索は切り上げて今日は町へ戻りましょう」
皆の意見が一致して帰り支度をしようとしていると、森の中から何かに追われている人物を発見した。
「あの人。追いかけられていませんか?」
ユーリの言葉に、俺もその方角を見てみる。
「確かに、追いかけられているな」
その人物は、俺達の存在に気づいたらしくそのまま進路を此方に変更して向かってくる。
「こちらに来ますけど、どうしますか?」
ユーリに倒せそうか聞くと、新しくなった最強の盾を使いたくてしょうがないユーリちゃんは満面の笑みで頷くと、盾を装備して魔物へ向かい走り出した。
魔物の姿は俺が知る限りティラノサウルスに見える。大きさは恐竜に比べると半分以下だが、優に三メートル位はあり、見るからに獰猛で食べる気満々で追いかけている。
後でおねいさんに聞いたのだが、この魔物の名前はグリーンドラゴンと言う名の魔物だそうだ。大きい物だと十メートルクラスの奴もいるが今回のは標準サイズの様である。
走り出したユーリちゃんは、バーニアスラスタの推進力を利用してジャンプするとそのまま両手持ちにした盾で頭部への一撃!たったの一発で魔物を見事に沈めた。
「最強の盾の前に、敵はいません!」
此方に振り向き、Vサインするユーリちゃん!
追いかけられていた人物は倒された魔物の姿を見て安堵したのか、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
ハァ、ハァ言って息を切らしている人物に声を掛ける。
服の汚れを叩いて落としながら立ち上がると、状況を理解したのか助けてもらったお礼と自己紹介を始める。
「助かりました。私はリセラと言います」
リセラさん。二十歳くらいの顔立ちで、可愛らしい雰囲気の女性だ。服装は冒険者の格好では無く、町の人?いわゆる何処にでもいそうな普通の格好をしている。
武器は一応、弓矢は持っているが先程の魔物が相手では無意味だろう。
では、何故?魔物が彷徨く様な場所に一人で居たのか訪ねると、どうやらアカネの実という素材を取りに森の中へ入ったそうだ。その時、魔物に襲われ逃げていた所を俺達に助けられ今に至る。
いろいろ事情があるのだろうが、このまま見捨てて行くのは可愛そうなので町まで一緒に行動することで話は決まる。
町までは二時間程の道程で有ったが、特に魔物に出くわす訳でもなくあっさりと到着する。町の入り口まで来た所で彼女とは別れる事となった。
「助けて頂いたばかりか、町まで送って貰い。ありがとうございました」
リセラさんは、頭を下げるとそのまま町の中へ戻って行く。
リセラさんを見送った後、今日の依頼が不発に終わった事と今後について話し合う。
「結局。空振りに終わりましたね」
「そうね、取り敢えずギルドには報告するとして、この後はどうしようか?」
ハイッ、ハーイ!手を挙げて何か意見があるお子さまはお決まりのセリフを言う。
「私!お腹空きました。何か食べにいきましょう」
確かに、今日はお昼ご飯も未だだったのでギルドに立ち寄った後は、ご飯処で昼食でも食べようと言う事で話しは纏まり移動を開始した。
ディセリア町。人口五万人の大きな町で、染め物が有名な町でもある。ディセリア染めと言えばこの地方では知らない人が居ないくらいポピュラーらしい。特に赤色が大変綺麗で、リセラさんが素材として採取しようとしていたアカネの実は赤色を出すのに一番適している。又、近くにある森林にアカネの木が多く有ることからこの町は別名レッドタウンと言われている。
これは余談だが、アカネの実を見つけたうちの食いしん坊は確認もせず実を食べた。大変苦かったのと口の中が真っ赤になり、血でも吐いたのかと思ってビックリする。当然、ミランダさん(お母さん)に叱られたお子さまはショボクレながら一言!
「あの実は苦くて食べられません」
あまり、反省していないうちの食いしん坊!
食事を終えた俺達は暇になり町を見て回ることにする。
「随分と賑わっていますね」
町は何処かお祭り前のソワソワした感じで、どのお店も賑わっている。町の中心部であるロータリーに似た場所には町の人達で一杯だ。出店まで出ていて、既にうちの食いしん坊は昼飯を食べたばかりなのに、串焼きをご購入して口一杯に頬張っていらっしゃる。
「おのまふぇは、もごもがああすか?」
何を言ってるか解らん!
「口の物を飲み込んでから喋りなさい」
出店を見て回っていると、染め物屋から見慣れた人物を見つける。向こうも俺達に気が付いたのか声を掛けて来る。
「あっ!冒険者さん。先程は有り難うございました。よかったら、お茶でもいかがですか?」
リセラさんはお店から現れると作業中だったのか所々、赤く染まったエプロン姿で顔に手拭いを巻いている為、最初は誰か解らなかった。
確か染め物屋さんとか言ってたな。今は作業中なのか話しを聞いてみると二週間後に染め物コンテストがあり、今はその出品物を作成しているらしい。
出品物は基本的に防具(甲冑)に色を付けてその美しさを競う、この町伝統のコンテストで一位になったお店にはレッドスターの照合が貰え、アカネの実(最上級品)が贈呈される大変名誉あるコンテストだそうだ。
「もし良かったら、私の作品を見てもらえませんか?」
俺達の意見が聞きたいのか、参考までに感想がほしいらしく気軽な気持ちでリセラさんの作品とやらを拝見するためにお店の奥にある工房へと足を運んだ。
この世界の染め物を行う工房とやらに少し興味もあり、期待しながら拝見すると思った感じと大分異なっていた。
エアブラシ?のような道具がおいてあり、各種様々な道具とこれまた赤色が何種類もある塗料ケースが置いてある。
部屋の中は独特の臭いが漂っていて換気の為か、ファンの様な物が随時回っている。どういう仕組みで動いているの?と色々突っ込みたくなる。確かこれに似た部屋を見たことがある。
そう、めがねの家に遊びに行った時に見た部屋にソックリだ!
めがねのプラモデル部屋にソックリな工房には、シーツに隠された百七十センチ位の高さの作品がある。リセラさんが自信満々にシーツを取った時、俺の思考は停止した!
甲冑に色づけしたこの作品は、未だ未完成らしく全ては着色されていない………!そのフォルムは二号機です。何処からどう見ても二号機です!大事な事だから二回言いました。
材質は確かに合金で出来ていて、甲冑にも見えなく無いがどう見ても、あんたバカぁ!の人が乗るやつだ!
「あのう、リセラさん。一つ聞きたいことが有ります。よろしいですか?」
甲冑の出所について聞いてみると、リセラさんは面白いことを仰った。
「普段は鍛冶屋に依頼して防具を手配するのですが、こちらは不思議な格好をした女性の方から依頼され、コンテストが終わったらお渡しする約束になっています」
不思議な格好をした女性?心当たりが有りすぎる!いつこの世界にやってきた?俺が熟考しているとおねいさんが心配そうに聞いてくる。
「どうしたのナツメ君?顔色が悪いわよ」
心配してくれるおねいさんに平静を装いながら大丈夫と答える。
この事は後で問い詰めるとして、取り敢えず工房から店先に戻る。暫く談笑していると突然!工房から大きな音が聞こえて来た。
「ナツメさん。奥に誰か居ます!」
いち早く気が付いたユーリは、奥にある工房へ走り出す。それに次いで俺達も追いかけるとそこにはリセラさんがコンテストに出品するための作品が無惨に壊された姿が見られる。
「私の作品が……!」両膝を突き、壊れた作品を手に言葉が出ないリセラさん。
「一体。誰がこんな事をしたんだ?」
辺りを見回すと換気する為の窓が壊されていた。恐らく此処から進入したのであろう。
ガックリとするユーリは「すみません。見失いました」少し凹んでいる。
「外部からの進入ね。金目の物がそのままと言うことは、最初から甲冑が狙いのようね」顎に手をあてながら破壊された作品(二号機)を調べている。
リセラさんに何か心当たりがないか聞いてみるが、実に覚えがないらしい。コンテストに出品する作品を俺達がいる時に壊されて、そのまま帰るのは目覚めが悪い。かといって犯人をとっ捕まえて成敗!も探偵では無いので難しい。
幸い依頼主には心当たりがある。甲冑(二号機)が壊された事を伝えれるとして、旨く話しをすれば新たな物をGET出来るかもしれない。後は、二人が乗り気かどうかだ!
「ミランダさんにユーリ!二人に聞きたいのだが、リセラさんを助けたいのだがタダ働きになるかもしれない。それでも、良いですか?」
「リセラさんが可愛そうです。」
泣きそうな顔で答えるユーリ。
「タダ働きは正直ヤダけど、このまま帰るのは腹が立つわ。ナツメ君は何か策でもあるのかしら?」
「ええ。甲冑を依頼した人物には、答えられませんが心当たりがあります。今回は俺のワガママに付き合って貰うかもしれないので、今度何か奢りますよ」
「わ、私!いつもの甘いお菓子が良いです!」
お菓子大好きユーリちゃんは既に食べる気でいる。
「今回は、ナツメ君の依頼で良いわ。報酬は、そうね。今度、私の買い物に付き合って貰うわ!」
此方も、素敵な笑顔で仰られるおねいさん。
今回は、珍しく俺が首を突っ込む形となった。先ずはリセラさんにコンテストに出品するべく新たな甲冑を用意しなくてはいけない。
依頼者の謎の女?と連絡を取るべく俺は、皆と別行動を取るのであった。
壊された二号機!新たな依頼を前にサラリーマンは奮闘します。
皆様の暇つぶしに少しでもなれたら幸いです
それではまた次回




