29.決戦!勇者vsサラリーマン
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
拙い文章にお付き合い頂き感謝で一杯です!
来年もよろしくお願い致します。
俺は今、ドラゴンに乗っている。そう、決戦の地へ赴く為だ!
アーシュラさんが送ってくれる部下を呼んで下さり、それに跨がって移動中。見た目ドラゴンライダーを彷彿とさせているが実際はそんな良いものでもない。
このドラゴン!別の異世界で戦った、混沌ドラゴンにソックリで何とも複雑な心境だ。そんな、事など知らないこの世界のドラゴンは淡々と目的地に向けて飛翔している。微妙な空気と沈黙の中、目的地である人間と魔族が、お互い睨み合っている境界線の中間地点に俺は降ろされた。
混沌さんは勇者の血が採取できたら受け取る役目もあるので、魔族の陣取るエリアに颯爽と飛んで行き戦況を見守っている。
決戦の地と呼ばれるだけあって周りにはゴツゴツとした岩場が多く殺伐としていて、俺が降ろされた場所は丁度お互いが見渡せる。広さで言うと、野球が二試合同時に出来るのではないかと思われる大きさだ。周りは大小岩だらけだけどね。
俺の姿を見た人間側の軍は、何者か?確認する為に数名の人が此方に近づいて来る。すると、様子見がてら話しかけてきた。
「なんじゃお主は!人間が何故?魔族の龍に乗ってこの地にやってきたのじゃ?」
魔導師風の格好をしたおじいちゃんが聞いてくる。
その後ろからは、魔法使いの女の人・戦士風のおっちゃん・最後尾に銀髪の騎士?いや魔導師?良く解らない格好の女の子?達が、俺の姿を値踏みしている感じがする視線でジロジロ見ている。 スミマセン恥ずかしいです。
気を取り直して、自己紹介をする!サラリーマンの基本です。名刺は出さないけどね。
「初めまして!私の名前は夏目と申します。魔王軍軍師、斎藤の依頼を受けて此方にやって参りました」
その台詞に驚いた表情を見せると、一人の戦士が 怒りを露わにしながら前に出て来る。
「貴様!魔王の手先だな。人の身で有りながら、勇者殿!ここは私にお任せ下さい」
大剣を抜き、襲い掛かる。
その攻撃をヒラリと剣をかわしながら、おっちゃんに向かって話す 。
「言い遅れましたが、勇者さんに話が有ります。外野の方は引っ込んで下さい」
尚も、執拗に攻撃してくる戦士のおっちゃん。血の気が多いな!
ヒョイヒョイ避ける俺に腹が立ったのか、おっちゃんは何やら呪文の様な物を唱えながら再び切りかかる。
その攻撃を魔法陣型盾で受け止め、おっちゃんの鳩尾に蹴りを入れる!
五メートル程ふっとんだおっちゃんは、頭から落ちてピクピクしている。まあ、手加減したから死にはしないだろう。
一連の動きを見た後ろの人達は、動揺の色を隠せないでいる。
「私は軍師斎藤を助けに来た、異世界の人間です!魔王軍とは関係ありません!」
今回の作戦は、開きなおって斎藤を個人的に助けに来た異世界の人間で通すことにした。後々メンドクサイのと、要件済ませてさっさと帰れば一日くらい休暇が取れるのでは?等と、淡い期待を胸に早期決着を望んでいる。当然!会社には申請し、事が緊急なので了承もしてある。これは、緊急案件を受ける時に女神様にお願いした事である。
要するに、斎藤が異世界から俺を呼び寄せた。という設定だ!
「もう一度、言います。勇者さんと話がしたい!」
その言葉を聞くと、今まで動向を見つめていた一人の女の子が俺に近づいてくる。
セミロングの銀髪で髪が煌びやかに靡いている。真っ直ぐ見つめるワインレッドの瞳は彼女の芯の強さを感じさせ、可愛いと言うよりは美人さんだ。スタイルは何処かアスリートを彷彿とさせ、引き締まった肉体が強さを際立てているが、出る所は出ているから驚きだ。
服装は騎士?腰から太股周りと腕には細身の甲冑が装備され、切り込みの入った長めのスカートから太股がチラリと除かせる。全体的に黒を基調とさせる服装が何処か魔導師にも見えなく無い。
そして、彼女が持っている武器が特徴的だ。身の丈を越える棒!血の色を連想させる赤一色の武器。シンプルなデザインがこの武器の強さを象徴させる。
威風堂々!そんな言葉がピッタリなオーラを撒き散らしながら、彼女は答える。
「私が勇者だ!夏目とか言ったな。お前の要件は何だ、言って見ろ?」
勇者と名乗った彼女に俺は 、
「あなたが、勇者さんですか。私の要件は依頼主である軍師斎藤の呪いを解くことです。それには、あなたの血が必要です」
「タダでは上げられない。相手は魔王軍屈指の実力者。其れなりの対価が必要だ!」
そんなに強かったの斎藤?等と思いながら 、当初から予定していた提案を出す。
「一騎打ちを申し込みます!私が勝ったら少量で良いので血を下さい。あなたが勝ったら、これを差し上げます」そう言いながらアイテムウインドからバスターライフルを取り出し撃鉄に魔力を込め、標的めがけ発射!
破壊の光が百メートルくらい離れた場所にある大きな岩(数十メートル)に直撃すると、大爆発!その爆風が威力を物語り、さっきまであった大岩を消し飛ばす!このデモンストレーションに両軍はお互い、口を開き固まってしまった。
顔を引きつらせながらも勇者は 凛として、答える。
「い、良いだろう。貴様の腕前!拝見させてもらう!」
その一言が、戦いの幕開けとなった!
勇者は、持っている棒状の武器を弓なりに引き、左手を添える。左足を前に出し極限まで低い姿勢で構える。その構えに隙は無く、何処か芸術めいた美しさに見惚れてしまう。
爆発的なスピードで迫ると、変幻自在に突きを繰り出す。
幾重にも突き出される練撃!その攻撃を、ギリギリで避けながら間合いを取るため後ろに跳躍し剣を構え直す。
勇者はその場からおもむろに、武器を突き出す行動に移す。優に五メートルはある距離を物ともせず繰り出された突きによる攻撃は棒の部分が分裂し俺に届くとまともに肩口にヒットする。
「痛っ!」たまらず剣で相手の棒を弾き構え直すと、既に間合いに入った勇者は 技を繰り出す。
「火炎、大車輪!」
棒を器用にクルクル回しながら、車輪型の炎を打ち出す!
大地を削り取りながら向かって来る車輪型の炎をギリギリのタイミングで避けるが、少し掠りダメージを受ける。 こんな物、直撃したらシャレにならんぞ!
「三節棍に、その技!なるほど、斎藤が苦戦する訳だ。」
勇者の戦闘スタイルはやはり棒術使い!しかも、今の技!どこかで見た気がするのだが思い出せない。そんなことを考えながら汗を拭い構え直す。
巧みにかわす、俺の動きを見た勇者は驚きの表情をする。
「驚いた!所見で避けられたのは初めてだ。それならば、私の最大の技で貴様を倒そう!」
そう言うと再び武器を構え、魔力?闘気?とも呼べる物が勇者の持つ武器に集められる。すると、さっきまでの棒が長槍の形状に変化し、それに伴って勇者の体が闘気を纏始める。恐らく斎藤は、この攻撃で呪いを受けたのだと確信する。
勇者は槍を構えると 一気に解放する。
「私の必殺技。天槍グングニル!」
光のオーラを纏い、圧倒的な速度で突進!
その姿はまるで、彗星の如く光り輝きながら向かって来る。
刹那!爆発的な速度で突進する技を、俺は魔法陣型盾で受け止める。
しかし、その技の威力に圧倒され勇者の攻撃が盾の防御を徐々に押し込み始める。
まずいぞ!このままでは、斎藤の二の舞だ。何か策は……ふと、ある事を思い出す!アイテムウインド内のLINK欄を確認する 。
「頼む!保管していてくれ!」
俺の、願いが通じたのか?お目当ての防具にカーソルを合わせ召還させる。
異世界!最強の盾!
勇者の必殺技を、最強の盾が受け止める。
互いの力が拮抗する。
「うおおおおっ!弾きかえせー!」
俺の叫びに答えるかの様に最強の盾は、勇者を物の見事に吹き飛ばした。
吹き飛ばされた勇者は、大地に叩きつけられ大の字に倒れ伏す。
俺は、トドメとばかりに身体強化を足に集中させ上空に飛び上がると、落下の勢いそのまま勇者に剣を突き立てる!
悲鳴にも近い外野からの叫び声!そして……一瞬の静寂。
それが、この戦いの終わりを告げるのであった。
「何故!トドメを刺さない?」
勇者の声に俺は、大地に刺さった剣を抜きながら答える。
「貴方の血の採取が目的で、そもそも殺すつもりは最初からありませんよ」
その一言を聞いた勇者は 、溜息つきながら
「私の負けだ!好きにするがいい」
負けを認める勇者に戦いの終わりを実感する。正直、結構危なかったです。
ユーリの盾がLINK欄に無かったらと思うと冷や汗が出る。アイツにはシュークリーム(コンビニ)のお土産でも買っていってやろう。
起き上がった勇者は、モジモジしながら真っ赤な顔で話す。
「わ、私は負けたのだから。そ、その、えっちな奴隷になれば良いのか?」
訳の解らない事を言い出す勇者さん。
「はぁ?何でそうなるんだ!少量の血が欲しいと言ったよな?」呆れながら答えると 反論する勇者さん。
「だが、私は負けた訳だしここは……!」
最後の方が聞こえないが、察しは付く。このアホ勇者!考え方が極端過ぎる。
試験管と小型のナイフを渡しそれに血を入れろ!と命令し、何とか目的を果たす。試験管は送って貰ったドラゴンに渡すと、多分お礼を言われたと思うが、うなり声を上げ飛び立って行った。
「勇者さんよ、この世界の魔族達はそんなに酷い奴らでも無い。一度、話し合って見るのも良いと思うぞ!斎藤辺りに声を掛けて見てはどうだ?」俺の話しを聞いて熟考する勇者。
「それでは、依頼も完了したし元の世界へ帰るよ!」それだけ言って帰ろうとすると
「待ってくれ」呼び止められて振り向くと、勇者は自分の名前を名乗り始めた。
「私の名前は、リムル・シャーロット!お前は、本当に異世界の人間なのか?」
「俺は、この世界の人間では無い。もう会うことも無いだろう。じゃあな、リムル!」それだけ言うと光に包まれた俺は、この世界から姿を消すのだった。
「異世界の人間。ナツメか……!」何か黙考しながら呟く勇者に、仲間達は無事な事を安堵し、集まるのであった。
結局!俺は休暇も取れず、会社経由で異世界へ速攻で転送された。二人の仲間が思ったよりも早く、町へ到着したのが理由だ。恐るべし古代龍!早すぎです。
転送された俺は急ぎディセリア町へ向かうと、御飯屋さんで食事中の二人を見つけ声を掛ける。相変わらず、美味しそうに食べるお子さまが印象的で直ぐに見つけられた。
「お待たせしました。お二人さん!」笑顔で話しかけると
「遅かったわね、ナツメ君!おねいさん。随分と待たされたわ」お茶を飲みながら優雅に答えるミランダさん。
「いくらなんでも、龍の飛行速度には勝てませんよ」
「あー!ナツメさん。私の盾、持っていきましたよね?盾の所の表示が少しの間、ナツメって書いてありました!私の大事な盾を、もー!」
ふくれっ面なユーリちゃんを宥めるための取って置きを出す。
「ごめん、ごめん。ちょっと借りてたよ。そう思って、ハイお土産」
両手一杯にシュークリームを渡し機嫌を取ると、チョロいさんは「しかたがないです。今回だけですよ」等と言いながら口の周りは早くも、クリームだらけである。
数週間後、アイテムウインドに一枚の写真が送られてきた。その写真を見ると、そこには生まれたばかりの赤ん坊を抱いた二人の幸せそうな夫婦の写真が写っているのであった!
勇者相手の案件もようやく終わり、担当案件に戻る事が出来たサラリーマン。
サラリーマンは次なる町でも奮闘します
お楽しみに!
皆様の暇つぶしに少しでもなれたら幸いです
それではまた次回




