28.緊急案件と言う名のお仕事
いつもお世話になりますアリス工房(仮)です
あと少し、もうちょっとでこの地獄から解放される!
そんな事を毎日考えています。
久しぶりの職場に俺は、意気揚々と自分が所属する部署があるフロアへ軽い足取りで向かった。簡素な扉を開け、中で仕事をしている仲間に挨拶する
「お疲れさまです。ただいま戻りました」
「夏目さん、お疲れさまです」久しぶりに生で聞く、女神様のお声に涙が出そうになる。
課長様は片手だけ挙げて返事を返す。今日もみんな出払っていて、他のメンバーは不在の様だ。
俺は報告書を提出しさっさと帰る気なので、女神様とお話ししたいのをグッと我慢して自席に着くと、ノートパソコンを開き報告書を作成し始める。
おかしい?何か変だ!さっきから妙な視線を感じる。気になったのでパソコンから顔を上げると、山田さんが俺を見ていたのか視線を逸らす素振りが見て取れる。
何で?何かマズい事でもしたっけか?ま、まさか!あの事がバレたのでは!機密情報漏洩はサラリーマンに取ってあってはならない!
情報漏洩の出所は予想がつく。さては、あのめがね!この前の腹いせに俺の秘密をバラしやがったな!文句の一つでも言いに行こうと立ち上がると、山田さん(女神様)からお声が掛かる。
「夏目さん!お忙しいところ申し訳ありません。今、お時間取れますか?」
そのお声を聞いた俺は
「はいっ!何でございまするか」急なお言葉に、良く解らない返事を返しながら女神様の所へ伺う。
「休暇の申請を出していらしたので、明日は何かご予定でもあるのですか?」
そのご質問に
「いえ、特には何も無いですけど。どうしてですか?」
少し言いずらそうな雰囲気で山田さんが話し始める
「実は先程、緊急案件が入りました。でも、うちはみんな出払っていて受けるにも人手が足りなくて困っていたのです」
そうなのだ。そんな時に帰ってきた俺に案件を受けて貰いたいが、休暇申請を出している俺に気を使っている女神様。何とお優しいお方だ!
「山田さん、お任せください。その案件!私が解決します!そもそも、休暇なんて知りません」女神様を困らせる緊急案件など、さっさと片付けてやる!と意気込みながら答えるとお優しい女神様は
「そんな、でも現地から帰ってきたばかりだし折角の休暇をキャンセルしてまで……!」
「大丈夫です。休暇なんぞいつでも取れます!」
「ありがとうございます。そう言って頂けると助かります」俺の手を両手で握りながら仰った女神様!拙者、感無量です!
山田さん(女神様)からの緊急案件の内容を聞いてみると、何と同期の斎藤からの依頼であった。
斎藤は、とある異世界の魔王軍に所属している。そこで勇者率いる人間との決戦で深手を負い、療養中らしい。しかも、その傷が一種の呪いの類でそれを解く方法があるのだが、今の魔王軍では難しい。そこで、うちの会社に緊急案件要請が出されたという経緯だ。
「まさか、アイツの所に行くとは思わなかった」エレベータ内で一人、愚痴りながら転送されるのを待っていると女神様からお声が掛かる。
「お待たせしました。準備が整いましたので、お願いします」女神様のお声とともに、別の異世界へと旅立つのであった。
□□転□□送□□中□□
(異世界転送完了しました)
機械的な音声が聞こえる。無事、異世界に転送されたのを実感し先ずは持ち物のチェックと魔法が使えるかの確認をする。
この世界、精霊の反応が無い!精霊魔法はムリの様だ。精霊魔法が使えないのが少々痛い。最近、覚えた身体強化の魔力運用は出来るみたいなので少し安堵する。流石に素の状態で戦うには心許ない。そう考えると、この前の修行のような特訓は正解だったかもしれない。 ありがとう、おねいさん!
アイツは、魔王城で療養しているとか言ってたな。情報によると封印の島とか言う所に魔王城の入り口があるらしい。現在地が全く解らない?女神様に確認してみるか。
何回かのオペレータ様(女神様)とのやり取りを重ね、概ね現在地が把握できた。
今いる、この場所こそが封印の島であり、近くに魔王城の入り口があるとの事。予め、斎藤が座標数値を会社に報告していた為、最短距離で魔王城へ行けるらしい。
入り口を探すべく移動を開始すると、前方に小高い丘があり、ちょっとした岩場のような場所が見て取れる。そこからタダならぬ魔力というか妖気のみたいな物を感じ、気配を殺しつつ近づいていくが、向こうは俺の存在に気がつき、何と話し始めた!
「人間が何の用件でこの地へ来た。貴様のような物が来るべき場所ではない。殺されたくなければ、早急に立ち去れ!」
頭が二つある犬らしい様相で、大きさだけでもかなりの物だ。人など一口で丸かじり出来るのではないだろうか。
流暢な言葉遣いに驚くも、一応聞いてみることにした。
「此処は、魔王城の入り口か?もしそうだったら、中に斎藤という名前の奴が居ると思うのだが通してくれないか?」
二つの顔を持つ ワンちゃんが驚きの口調で「お前は、軍資殿の知り合いか?」
その言葉に肯定する。斎藤からの依頼でこの地を訪れたことを説明しワンちゃんに城の城門まで案内して貰った。
魔王城!その名の通り城である。西洋造りの佇まいで俺が抱いていたイメージよりも綺麗な外観をしている。入り口には巨大な城門があり、周囲を壁で囲っている。
城門を通らないと城には入れない構造になっている様だ。流石に魔王城と言われているだけあって、警備兵と思わしき人たちは全員異形の姿をしており、ここが魔王城なのだと認識させる。
ワンちゃんに入り口で待つよう言われ暫く城を眺めていると、目の前にいきなり一人の魔族が現れた。
見た目から肌の色が人とは違い、背中には二枚の黒い羽が生えている。服装がスーツ?に似た服装でどこか浮き世離れしている。
「お待たせ致しました。ナツメ様。案内役を仰せつかりましたヘルズと申します。 軍師殿がお待ちです、どうぞこちらへ」そう言ってヘルズさんは城の中を案内する。
城の中もイメージより明るく感じる。城内をすれ違う人が魔族で無ければ何処かの王宮と思えるくらい綺麗で豪華な造りをしている。そんなことを考えながら前を歩くヘルズさんについて行くと、大きな扉の前で立ち止まり振り返った。
「此方になります」短い言葉で俺を中へ案内するヘルズさんは、案内役が済んだからかその場で消えてしまった。一人にされた俺は言われた部屋に入るとそこには、見知った顔の人物!今回の依頼者、同期の斎藤に出会うことができた。
部屋の中はシンプルな造りで調度品の類は無くダブルベットくらいのサイズのベットと小さな机それとイスが三つある。部屋の中はどういうカラクリか解らないがライトがあり、その光が部屋全体を明るく照らしている。
ベットには病床に伏せた斎藤が俺に気づいたのか体を起こし挨拶する。
「久しぶりだな夏目。こんな所まで良くきてくれた」
「ああ、久しぶり!元気そう……では無いな。一体何があったんだ?」
その質問に、少し辛そうな動きをしながら斎藤は説明し始める。
彼が所属する魔王軍は、人族と対立中である。斎藤が言うには、魔王軍側は人間さえ魔王軍の領土にチョッカイをださなければ特に争うつもりも無いらしい。
魔王軍の中にも強行派や穏便派・傍観派など色々派閥はあるらしいが現在は魔王直々の名で進軍は行わないとの事。そのお陰でこの世界のバランスは均等になっていたのだが昨今、人族に勇者が誕生した。
その為、人族は活気づいてしまい魔王軍へ進軍を開始し始めた。今まで平行線で世界のバランスが保てて居たが勇者誕生で世界の安定が崩れそうになり斎藤がこの世界に現地要員としてやって来ることなった。
ちなみに危険予報指数は61%である。
あれ?俺の駐在する世界の数値より低くないか?それで緊急案件って、俺の駐在場所って一体……!取り敢えず、深く考えるのは止めておこう。
斎藤が病に伏せた原因は、勇者にある。先の大戦で勇者軍を相手にした斎藤は勇者の攻撃を受け負傷した。しかも、その攻撃には呪いの類が施されており斎藤は現在、身動きがとれない。
呪いを解除する方法は解っている。その解除方法とは、勇者の血が必要なのである。今回、勇者の血液採取というのが彼の依頼だ!
「話は理解したが、勇者の血液をどうやって採取すれば良いのだ?まさか殺して採取しろとか言わないよな?」
「流石にそんな物騒なこと依頼しねえよ。勇者はバカ真面目で真っ直ぐな奴だ!交渉しだいでは一騎打ちに持ち込めるし、血液うんぬんの頼みも聞き入れて貰える筈だ。ただし、勇者という名は伊達ではない、その強さは身を持って痛感したよ」
「見た所、お前どんな案件受けてんだ?新年会で会った時より数段強くなってるぞ、これなら勇者相手でも良い勝負できるな!」
斎藤と話していると、扉がノックされ一人の魔族が部屋に入ってくる。
「あなた!具合はどう?食事は食べられた?」此方に近づいてくる魔族。腕が六本、顔が三つある。以前、会社で見た魔族だ。たしか、幹部の人だったような、ん?今、あなたとか言わなかった?その疑問を斎藤に聞こうかとしていたら幹部の魔族が俺に気がつき話しかけてきた。
「あなたが夏目さんですね。主人がいつもお世話になっております。妻のアーシュラと申します」ご丁寧に挨拶され、開いた口が塞がらなくなった。
「紹介するよ、妻のアーシュラだ!」
斎藤の言葉を聞いた俺は慌てて挨拶する。
「初めまして、夏目と申します。斎藤とは会社の同期で、今日は彼の依頼で此方に伺いました」
「こんな遠い世界まで、ようこそ、お越し下さいました。本来ならお出向かいしたかったのですが。生憎、身ごもっていましてお腹の子に何かあったらと、主人に止められまして。夏目さん!私からもお願いします。どうか、主人を助けて下さい!」
デキた奥さんではないか。斎藤の奴こんな可愛らしい奥さん貰いやがって、しかも子供まで授かるとは、う、うらやまひぃ!
話は、一通り理解した。勇者には一騎打ちを申し込む方針で行くとして、恐らく対価となる物を要求してくる筈だ。そのことを聞いてみると思わぬ所から返事が返ってくる。
「それについては問題ないです。対価は私の命を賭けます!」サラッととんでも無いことを口走るアーシュラさんに
「いや、それはちょっと問題があります。アーシュラさん!命はダメです。それは絶対にダメです!」食い下がってくるアーシュラさんを何とか説得し、対価は別の物を用意する事で納得してもらった。
「命を賭けるなんてとんでも無い!赤ちゃんも産まれるのだから、自分の体を大切にして下さい!必ず、勇者の血は持って帰ります」それだけ宣言して話は、終わる。
アーシュラさんから試験管(血液採取用)のような道具を受け取る。
決戦の場所へは別の魔族の方が送ってくれるそうなので、お言葉に甘えることにした。
さあ、勇者との対決だ!勝てるかどうかでは無く、絶対に勝たないといけない。負けられない戦いに少し身震いしながら、決戦の地へ赴くのであった!
同期の依頼に、果たして答えられるのか?
サラリーマンは、勇者相手に奮闘します!
皆様の暇つぶしに少しでもなれたら幸いです
それではまた次回




