残像
一人暮らしを始めてから、奇妙な現象に悩まされていました。
夜、部屋の明かりを消してベッドに入ると、真っ白な壁の上に「白い人影」がぼんやりと浮かび上がるのです。
気味が悪くて友人のビオに相談すると、彼は笑いながらこう言いました。
「それは『補色残像』っていう目の錯覚だよ。強い色をじっと見つめた後に白い壁を見ると、その色の反対の色(補色)が残像として見えるんだ。例えば、赤いものを見た後は緑色の残像が出る。君が見ているのは、その現象じゃないかな?」
私はその言葉に納得しました。
「なるほど。私の脳が勝手に作り出した幻なんだね。幽霊じゃなくてよかった」
ビオはさらに詳しく教えてくれました。
「白い人影が見えるってことは、その直前に『真っ黒な人影』をじっと見つめていたはずだよ。脳が強い黒を認識した後に視線を逸らすと、反転して白い影が見えるんだ。最近、何か黒いポスターとか、人型のオブジェでも買った?」
「ううん、そんなの心当たりないよ」
「おかしいな。かなりハッキリした残像なら、数分間はそれを見つめていないと出ないはずだけど」
私は「気のせいだね」と言って電話を切りました。
でも、電話を切ったあと、私は冷や汗が止まらなくなりました。
私が毎晩、明かりを消す直前に数分間じっと見つめているのは、「暗くて何もいないはずの、開け放たれたクローゼットの中」だけなのです。




