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闇払いの精鋭

 俺達はブラックドラゴンに乗って聖堂都市の近郊にまで迫っていた。

彼方には聖騎士団の拠点である大聖堂の尖塔が見える。


 このままブラックドラゴンで大聖堂に突入する。

今はリーンハルトの選んだ実戦経験に乏しい騎士ばかり。

加えて今、大聖堂の周りは闇払いが不十分。

俺の操る闇も潤沢にある。

すぐに警備を突破して下層に向かおう。


 聞こえるのは風を切るゴウゴウという音だけ。

だけどその音に紛れて近づく鋭い風切りに気付いた。


 振り返った先には風の翼。

双剣に(まと)わせた属性で形作った翼で飛翔し、その人影は俺達の頭上へと急上昇。


 見上げた先で風の刃は炎へと変わった。

噴き出す炎を推進力にして俺へと取り付き、ブラックドラゴンから俺を引き()がす。


「悪いな、リヒト」


 男が言った。

その男の顔を見て俺は目を丸くする。


「団長!?」


 この人は聖騎士団の団長の1人。

俺に王国騎士を目指せと言ったあの団長だ。

服装は聖騎士団のものではないけど、その顔と得物の双剣は間違えようがない。


 団長は俺をそのまま地面に向かって運ぶ。

ブラックドラゴンとそれに乗るハティとスコルの姿が(またた)く間に小さくなっていた。


「くそ、なんで」


「…………」


 団長は答えてくれない。

俺をこのまま地面に叩きつけるつもりか。


 俺は周囲の闇に意識を広げた。

闇を掌握して集める。


 俺は叩きつけられる瞬間に闇を背中に集めた。

闇を緩衝材にしてダメージを殺し、すかさず闇を拡散して団長を振りほどく。


 俺はクレイモアを抜き、刃に闇を(まと)わせた。


 俺の視界は土煙と闇で奪われて。

だけど俺には闇の触覚がある。

周囲に広げた感覚が俺を狙って放たれたいくつもの攻撃を捉えた。

それらを斬り払い、攻撃に紛れて迫ってきた刺客(しかく)の刃を受け流す。


 さらに袈裟(けさ)に。

横と。

俺は襲いくる連撃をいなした。

 

 ()いで前後から挟み込むように振るわれた刃を俺は知覚。

背後は闇色のクレイモアを背中に這わせて受け止めて。

もう一方は闇を(まと)わせた素手で掴む。


 視界が晴れると、そこには見慣れた面々が並んでいた。

リーンハルトによって退団させられた元聖騎士団員達。

(うと)まれようと、それでも共に聖堂都市を守護していた仲間。

それが今は俺の敵として立ちはだかっている。


 俺は素早く周囲に視線を走らせた。

俺と斬り結んだ元団員達は無言のまま俺を(にら)んでる。


「なんで」


 俺の問いに答えることなく、元聖騎士団員達は俺へと襲いかかる。


俺は闇を圧縮。

四方にブラックゴーレムを生み出して彼らの攻撃を阻んだ。

聖騎士団は聖堂都市の守護を担う防衛の(かなめ)

だけど個々人の戦闘能力は王国騎士に大きく劣る。


 単体のブラック──それどころかレッドに苦戦するレベルの戦闘力で俺を止められるはずがない。


「みんなじゃ俺は止められない。それに俺は行かなきゃいけないんだ! ここを通してください!」


「悪いが、そうもいかないんだ」


 双剣の騎士団長が俺へと肉薄。

風と火を同時に。

時にそれぞれ使い分けて俺へと剣を振るう。


 俺はクレイモアに(まと)わせた闇を圧縮。

刃先に集中させた闇が暗黒の閃きとなって団長の双剣を属性ごと断ち斬った。

そのまま十字剣の腹で団長を殴打し、勢いのままに吹き飛ばす。


 俺は彼らを無視し、聖堂都市へ向かおうと。

だけど踏み出した先に罠。

仕掛けられた属性の攻撃が起動した。

下からそそり立つ岩の穂先を防ぐ。


 元聖騎士団員達を相手どりながら聖堂都市を目指そうとして。

だけど、まるで俺の動きを始めから知っていたかのようにトラップが次々と起動した。

さらには闇の集まりが悪い。

みんなの属性を防ぐ(たび)に闇が消耗させられる。


「……闇払いか!」


 俺は(はる)か先に視線を走らせて言った。

周囲に偽装した騎士達の闇払いの起点が点在し、それらが闇の流れを阻む壁となって俺の闇の集束を妨害している。


 上空からは全く見えなかった。

かなり用意周到に俺を待ち構えた罠の数々。

でも俺がここを通るなんて誰が予想できる。


「…………フギン!」


 俺は思い当たった。

ムニンと瓜二つのもう1人の少年。

あの子は過去を()るムニンと対照に未来を予測する能力だったはず。


「えへへ。おいらの予測演算は完璧だよ!」


 やはり、いた。

フードを目深(まぶか)に被った男のそば。

フギンは褒めて褒めてとフードの人影の手を引く。


 フードの人影はフギンの頭を撫でた。

フギンは嬉しそうにその人物に抱き付き、その手に頭をこすり付ける。


「いるのか、ムニン」


「…………」


 俺が呼び掛けると、フードの人影の陰からムニンが顔を覗かせた。

申し訳なさそうに俺を見ている。


「ごめんね、お兄ちゃん。でもおれ、お兄ちゃんの正体()ちゃったから」


「本当にすまないな、リヒト」


 フードの人影が──ヴィルヘルム様が言った。

フードの陰からこちらを見る眼差しには(あわ)れみが感じられる。


「ヴィルヘルム、様」


 元聖騎士団員が集結して一丸となる。

なるほど、それを束ねる人間がいなければ成立しなかった。

ヴィルヘルム様だからこそこうして元聖騎士団員が(つど)い、俺の行く手を遮っているわけだ。


「俺が、人間じゃないからか」


 クレイモアに(まと)わせた闇が逆巻(さかま)いた。

俺の感情に呼応して大きくうねりをあげる。


「俺は騎士として、人々を守るために尽力してきた。聖騎士として。冒険者として。時には魔物の王だと人々から恐れられたって! 言われた通り王国騎士にもなった。すでにリーンハルトのせいであの聖騎士団を取り戻すことは叶わなかったけど。それでも俺は……なのにっ!」


 俺は闇を解き放った。

拡散する闇の波動が周囲の聖騎士団員を()ぎ払う。


 それを斬り(はら)う光の刃。

ヴィルヘルム様は光を(まと)わせ、斬り上げた剣で俺の闇を無効化する。


「どうして、ヴィルヘルム様」


「邪神を(ほふ)るためだ」


「俺を倒すことと邪神を倒すことに何の繋がりがあるんてすか」


「…………」


「ヴィルヘルム様!」


「知らなくていいことだ」


「……っ! ヴィルヘルム様! 答えてよ!」


「お前は人として。人間のまま、ここで果てよ」


 ヴィルヘルム様が、剣を構えた。


 同時に周囲の聖騎士達も闇払いを発動。

彼らの持つ4つの属性が交わって闇を払う聖域を生んだ。


 俺の闇が灰と消える。

空間に内在していた闇が消えていく。


 対峙する光の剣は(まばゆ)く。

だけど冷たく無慈悲に(きら)めいていた。

光の粒子が舞い散り、触れた俺の肌や服が小さな灰となってこぼれる。


 俺は顔を手で覆った。

撫で付けるように上から下へ。

それは闇の仮面を(まと)う所作。

そこに闇はなくても、俺の心を黒で覆って塗り潰す。


『ビショップアーキテクト』


 自分から出たとは思えない声音(こわね)

 静かで冷たい、真っ黒な激情に(ひず)んだ声で。

俺は命令権を行使した。


 空に走る魔法陣。

そこから連なる鎖の音と共に魔物の(むくろ)で築かれた(おり)が現れた。

その中には身体を小さく折り畳む魔竜がいる。


『ソードクライメイト』


 俺の声に応え、空に渦巻く真黒(まくろ)の暗雲。

闇払いの聖域の一角に、俺は光を寄せ付けない領域を生んだ。

そこには光も闇もない。

無だけがそこにある。

それは俺の胸にぽっかりと空いた穴そのもののようだ。


 俺は『千剣(ソード)』の権能を発動させた。

闇払いの及ばない領域に、無数の闇の剣が現れて。

俺は白と銀の意匠(いしょう)の十字を背負い、闇で形作られた剣を両手に握る。


「邪神を(ほふ)るためにその命、差し出してはもらえないか。リヒト」


 理由も言わず。

理由が分からないままに死んでくれ?


『そんな話があるか!』


 誰も俺を認めてはくれない。

認めてくれたのは魔物のみんなと。

そして、フランだけ。


「…………俺はフランを助けなきゃいけないんです。そこを退()いてください。ヴィルヘルム様」


「できぬ相談よ。守りたいものがあるのならその想い、我らに託せ。ここで(ほま)れある騎士として果てよ、リヒト」


 どこかで聞いたセリフだと思ったら。

(ほま)れある騎士の末席に、そう言って俺の命を狙ったリーンハルトと同じじゃないか。


────本当は違うと分かっている。

俺の命を狙っていても、そこには確かに優しさがある。

俺が自分の正体を知れば俺が深く傷つく。

だから隠したまま殺す。


 でも。

そんな慈悲は、いらない。


『ヴィルヘルム!!』


 俺は鋭い闇の剣を両手に握り、ヴィルヘルム目掛けて疾駆(しっく)する。

みんなが自分達のやり方で何かを成そうとするように。

俺は俺のやり方でフランと人々を守ると誓ったんだ。

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